ヒツジの
こんな話をご存じでしょうか。
腹を空かせたオオカミが野山を歩いていたところ、一匹のヒツジを見つけました。
群れからはぐれたのか、周りに仲間のヒツジも見当たらず、またオオカミに気づいている様子もありません。
これはチャンスと、オオカミは慎重にヒツジに近づき、鋭い爪と牙を剥き出しにして、素早く襲いかかります。ヒツジ危うし! と思いきや……
……モフン。
不思議なことに、飛びかかった次の瞬間、オオカミはいつの間にか、ヒツジが居る場所を通り過ぎてしまいます。
たまたまヒツジが方向転換でもして避けられたのか。そう思い、もう一度飛びかかってみても……
……モフモフン。
やはり、結果は同じ。
闘牛士に翻弄される牛のように、オオカミは空振りを繰り返すばかり。
疲労と戸惑いと空恐ろしさを覚えながら、オオカミはやがて、すごすごとその場を後にします。
さて、このヒツジは一体全体、何者なのでしょう。
武の極みに到達し、あらゆる攻撃を無意識かつ最小限の動きで避けることが出来るようになった、カンフーヒツジなのでしょうか。
いいえ、そうではありません。
この「ヒツジ」の正体は、『ヒツジノヌケガラ』というアオイ科ワタ属の植物。
その綿花は、一般的なワタの百倍も大きく、まるでヒツジが毛を脱いでそこに置いていったかのような形状をしています。
なぜ、ヒツジノヌケガラはヒツジのような綿花を持つのか。
それは、オオカミなどの肉食獣に襲ってもらうためです。
襲いかかってきた肉食獣たちは、モフモフするばかりで肉も骨もないその綿花に翻弄され、やがて諦めて去っていきます。
このとき、獣たちの体毛には、種子が大量に付着するのです。
種子は獣たちによって遠くの土地へ運ばれ、地面に落ち、成長し、やがてまた綿花となり――こうして、ヒツジノヌケガラは生息域を拡大していくのです。
驚きの生存戦略ですね。
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