10話.[仕方がないのだ]

「あぁ……」

「そんなに疲れる内容だったのか?」

「だって二十時ぐらいまで解散にさせてくれなかったんだよ? カラオケはまだいいとしてもお店をずっと見て回るだけってきつすぎ……」


 しかも一つのお店に平均で二十分以上はいるからこちらからしたらぐだぐだすぎて帰りたくなったぐらいだ。

 最後まで笑顔で付き合える晴菜及び先輩がおかしい、文句を言われたらたまったものではない。

 まあ、文句は言われなかったけど、別れる前に言われた「茉希ちゃんがお疲れのようだから今日はこれぐらいでやめておこうか」という言葉に震えた。

 私がいなかったら何時まで見て回っていたのか……。


「まあ、女子なら普通にすることだろ」

「じゃあ私は女子じゃないのかもね」

「いや女子だろ、俺は同性を好きになるような人間じゃないぞ」


 で、疲れた体を癒やすために碧を抱きしめてなんとかしているというのが現状だ。

 後ろから抱きしめているからどんな顔をしているのかは分からないけど、ちゃんと許可を貰ってからしたから多分大丈夫だと思う。

 嫌なこと、無理なことならはっきり言える子だから安心して続けていた。


「今度私もこうちゃんと茉希ちゃんのデートの邪魔をする」

「はは、それじゃあ今日の放課後に行こうか」

「待って、そんなに適当な感じじゃ駄目だよ、デートなんだからもっと考えないと」

「だけど碧もいるんでしょ? それだったら三人で仲良く緩く行けばいいでしょ」

「はぁ、茉希ちゃんはもう……」


 ため息をつかれて納得ができなかったから彼の方を見てみると「茉希が言っているように三人で楽しくやれればいいだろ」と乗っかってくれた。

 ……これだと圧をかけたみたいに見えてあれだろうか、そういうのもあって素直に喜びきれなかった。


「もしかして私の勘違いだったのかな、二人は付き合っていなかったんだね」

「いや、付き合っているが」

「それならもっと真剣に考えようよ、さすがに付いて行くことはできないからいまからでもしっかり話し合って」


 あらら、行ってしまった。

 もう一度彼の方を見てみると「別に気にしなくていいのにな」と。


「どうする?」

「ただ、怒られそうだから土曜日とかにするか、それまでにどこに行くかを考えておくよ」

「ごめん、なんか私のせいで」

「気にするなよ、それよりもさ」


 なんだろう、なんか言いづらそうな顔をしている。

 無茶な要求をしてくる彼ではないから急かさずに待っていると「抱きしめていいか」と言ってきた。


「言わずにすればいいじゃん」

「が、学校ではなしなんじゃないのか?」

「あー、そんなことを言っていた気はするけどここなら人はいないしね」


 それでもまだできないみたいだったので、こちらからしておくことにした。

 夏なのにその温かさに落ち着ける。


「人がいなければ気にしなくていいよ」

「そ……うか、分かった」


 いまさら気にしたところで仕方がないのだ。

 仲良くできた方がいいからそこまで我慢をする必要はないと言えた。

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128作品目 Rinora @rianora_

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