第25話 戦闘開始

「次の方ー!」

「ベネットさん! 手が空いたら、軽傷の手当てお願い!」

「はい! この後に!」


 軍議で話された通り、翌日にヴィリヤックからの攻撃で戦いの火蓋が切られた。最初は相手も様子を窺いながらの攻撃だったが、徐々にその手を強めてきた。こちらも応戦し、さすが大国同士の戦いと言うべきか、力は拮抗していた。

 そのおかげか、まだほんの数時間ほどしか経っていないのに医療テントは盛況だった。幸いなことに、重傷者や死者はまだ出ていない。


「ふぅ……、」

「……ベネットさん、少し休憩を、」

「オリバーさん! わたしなら大丈夫です! 手当ての方、手伝ってきますね!」


 軽傷とは言っても、大きな擦り傷や中には少し肉が抉れているようなのもある。見るのも辛い傷だけど、一番痛く苦しんでいるのは当の本人たちだ。少しでもその痛みが和らいでくれますように。そう願いながら、彼らの傷を優しく手当てしていく。


「ベネットさん!」

「あ、はい! ……これで大丈夫ですから、しばらくは安静に……」

「いやいや、若い女の子が頑張っているっていうのに、こんなのでへばってられないよ! 手当てありがとう」

「ちょっ、だめですよっ! ああ、行っちゃった……」

「供給いいですか!」

「、はい! 今行きます!」


 朝も昼も夜も、戦場には関係なかった。どちらかが攻撃の手を緩めるともう一方がその隙を狙って攻撃する。だから気が休まる時がなかった。偵察部隊からの情報だけが頼りで、望みだった。


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「……明日あたり、敵軍が動き出しそうです。ここが薄くなっていました」

「ふむ、後退か撤退か、はたまた罠か……。ひとまず前進はせず、戦線を維持して様子見だ。最前線に報告を!」

「了解」


 戦闘開始から2日後の夜に軍議が開かれた。

 偵察部隊からの報告によるとまた戦況が変わりそうだと言う。ヴィリヤックから始めた戦いだから、このまま撤退することはないだろう。まだまだ戦いは長く続きそうだ。そう考えていたら、テントの端っこにいたわたしの目の前にヴァルクスさんが歩いてきた。


「ベネットさん、想定通りに行けば明日は攻撃が少し止むはずだ。最前線も多少は安全になるだろう。だから、そこで供給を行ってくれないか?」

「え、」

「わざわざ隊員をここに戻らせて、医療テントで供給を行って、魔力が満杯になった隊員と入れ替わるように次の隊員が来る、という手間のかかる工程よりも、貴女ひとりが行き来をした方が便利だろう」

「……」

「安全は保障する。ジャスリンがな」


 横にいたオリバーさんの肩をバシバシと叩きながらヴァルクスさんは言う。最前線に行くなんて考えてもいなかった。ふと、軽傷者の傷を思い出す。あれでも軽傷なのだ。もし、当たり所が、運が悪かったら……。不安と恐怖を含んだ視線でオリバーさんの方を見遣る。


「貴女のことは必ず守ります。命は大事にしろと仰っていましたが、それでも命に代えても絶対に」

「オリバーさん……、」

「それで? ベネットさん、最前線に行ってくれるか?」

「……わたしが行くことで、みなさんの役に立つんですよね。それなら、行かせてください!」

「はは! 威勢がよくて助かるよ! じゃあ、明日偵察部隊と共に出発だ」


 明日がわたしの命日とならないように祈りながら仮眠をとった。

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