02 嘘つき
プールサイドで話しかけられてからというもの。当たり前のように、
席から立たない私は『変わり者』だとしても、境界線からはみ出してない。愛想が悪くて、少し話しかけずらい『人』くらいで収まっているはず。
私の愛想が悪いのは、『妖』であることを秘匿する自己防衛本能だから今更止められない。私の半分は『人』だというのに、小動物の心臓が目まぐるしく早鐘を打つように忙しなく
「咲雪、次の授業始まっちゃうよ? 行かないの」
小首を傾げる秋陽は、今日も私に話しかけてくる。ほんの少し、私も期待に心を許してしまったからか。白状してしまうと、秋陽に話しかけられるのは悪くないが……秋陽といつも共に居る那桜が可哀想だと思う。
「行かない。ちょっと
驚愕に瞠目する秋陽が私を心配して教室に残れば、不安そうに秋陽を顧みる那桜はたった一人で移動教室である化学室に行かねばならない。
「大丈夫!? 保健室一緒に着いていくよ! ……那桜、ごめん。私、咲雪を送っていくから遅れるって、先生に伝えといてくれる? 」
「……良いけど」
だが、私の賭けに気づいた様子の無い秋陽に、那桜は何も言えないまま教室を去る事しか出来なかった。
――残された二人きり。さぁ、どう彼女を籠絡しようか。双眸を密かに
「咲雪、立てる? 」
頭を押さえる
「秋陽は、感情にも
「え……? 感情……? 」
唐突な私の問いに、戸惑った秋陽の内には黒い額縁が視えた。切り絵みたいな【紫の
「信じたければ、信じてもいいよ。……まぁ本で読んだ『
私は下賎な占い師の手口を使った。不思議な能力が目の前に存在すると仮定する事で、未知への不安と好奇心により普段とは違う心の揺らぎが
案の定、秋陽は苦く【
「咲雪、真面目に言うから……普通に信じそうになったじゃん。具合悪いんじゃなかったの」
「『具合が悪い』のは本当。ちょっとまだ動けない。
「……良いけど。無理しないでね」
秋陽に【
「じゃあ、『冗談』ついでに質問。秋陽は前に私の事が知りたくなったって言ってたけど……私の何が知りたいと思ったの? 」
「んー、そういうミステリアスな咲雪が、本当は何を考えてるか知りたいかも。咲雪は誰も寄せ付けない高貴な感じなのに、最近は別に私を邪険にする訳じゃないよね。……不思議で」
「簡単だよ。多分私は、秋陽に
「……何を? 」
私は、
「今度は、私の質問の番。秋陽は何で私に
私が『隠世 猫屋敷』から人の世に
「今更と言うか……前からだよ。話しかけるには、ちょっと遅すぎたよね」
気まずそうに目を逸らし、【震える
空っぽの退屈な日々で、秋陽は何もかも満たされないで居たらしい。秋陽は『転校生』である私に好奇心を満たして貰えることを期待していた。
しかし臆病な秋陽は、同じように好奇心を埋めようとする
だから……秋陽は待っていたのだ。流行りを過ぎた売れ残り品のように、私へ向けられる
「ふぅん……秋陽は私に好奇心を満たして欲しかったわけ」
私から見れば、
「そんな訳じゃ……独りでも平気そうな咲雪が気になっただけで」
秋陽は【軽薄な
「別に悪い事じゃない。私が貴方に
答えを得た私は【感情視】を解き、秋陽の前に立つ。意識して魅惑的に微笑する。秋陽を
「……咲雪が、私なんかに欲しい物なんてあるの? 」
「あるよ。私が
秋陽が手を伸ばしやすいように、微笑を解いた私は『寂寞』を滲ませる。
「私、本当の『友達』が欲しい。
弾かれたように、臆病なはずの秋陽は私を真っ直ぐに見つめた。真っ直ぐな杏眼は、彼女が本来持っていた強さを磨く。やっぱり、期待通りだった。
――その桜色の唇で、秋陽が紡いだ答えに私の望んだ『対価』は満たされた。
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