陰謀のボーズシティ

@GolderFenix69

レベル1

 神々の大地・・・

それは人類が何万年以上もの間住処としてきた揺り籠。

しかし

大地の血と肉を削って産みだし続けてきたテクノロジーという汗は

穢れとなって足元を覆いつくし

人類は自らの手で自らの住処を捨て去ってしまったのだった。


だが人類は諦めなかった。

無限に湧き出る螺旋状の生存欲望がテクノロジーの限界を飛び越え

ついに

新たなる住処を手に入れたのだ。


人類が自らの手で産みだした新たなる地平線それは


巨大殻壁多層構造型生存防衛区域

Big Out-wall Survival Energy-plant...B.O.S.E


通称、

ボーズ都市と呼ばれる外界から隔絶された生存空間だった・・・


     ◇      ◇      ◇


 四方から強烈なライトを浴びた鋼板ボディは澄んだ赤玉色に輝き

糸状の磁石を織り込んだ金属質の二輪タイヤは超電導サーキットの路面に

全重圧を加えて

ホイール内に封じ込められた電力駆動のモンスターエンジンを支えていた。


 真横に立つレーシングスーツ姿の男が手を振ると歓声が

現代レースから消え去ったエキゾーストサウンドのように沸き上がる。

歓声を一身に受けた男はフルフェイスのヘルメットをかぶり

バイクのシートへとまたがる。


男の名は 射手光いでみつ りん


 超電導バイクGPのプロレーサーだった。

全レーサーが発光する電磁カタパルト型のグリッドに合わせてポジションインすると

車高を低く変形させてスタートフォームに移行する。

空中に発光シグナルが点灯しレーサーたちの頭上を所狭しと踊り回りながら

カウントダウンを始める。

10、9、8、7・・・そして最後のシグナルが消えると同時に

全バイクが電磁カタパルトから勢いよく発射されてトップを目指して

走り始めた。


 燐の駆る赤玉色のバイクもマックススピードへと加速しながら

ストレートエンドのファーストコーナー目がけてスロットルを押し込んでゆく。

だが

トップを取りたいのはライバルたちも同じだ。

左右からライバルたちのマシンが近寄ってくると露骨に体当たりしてくる。

甲高い金属音と共に車体に激しい振動が加わる。シールドで守られているとはいえ

燐の体にも痛みが伝わるが

ここで引いてるようでは勝利の栄光はない。

燐も負けじとやり返すがファーストコーナーまでの距離がどんどんと縮まって

ゆく。


このままでは共倒れだ。


 燐はスピードを落とすとライバルたちはニヤリと笑いながらファーストコーナーに

突入する準備をする。

しかし燐は道を譲ったわけではない。

限界のスピードを探りながら器用にライン調整をすると前方を走るライバルたちに

向けてエンジンの回転数を上げてゆく。

ライバルたちが今まさにコーナーを曲がらんとフルブレーキをかけたところで

燐のバイクが体当たりを喰らわすと

ライバルたちは悲鳴を上げながらレースラインの外側へと弾き飛ばされて

いったのだった。


 だが燐も他人事ではない。

ライバルマシンと激突したことでアウトサイドへと向かう慣性モーメントは打ち消されはしたものの

バイクが一時的に宙に浮いたことで路面を捉えるグリップを著しく失っていたのだ。

しかし燐は諦めない。

車体を的確にコントロールして最もストレートが長くとれるラインに乗ると

タイヤをフル回転させる。

透明加工を施した超電導状態の磁性体路面が金属タイヤを引き寄せると

高速走行で得たジャイロ効果の力を使って態勢を立て直したのだった。


 結局これが決定打となって燐はこのレースを優勝で飾ることが出来た。

宙に浮かぶポディウムの頂点で祝福と歓声に包まれ

燐は笑顔でレースを終えたのだった。


     ◇      ◇      ◇


 燐は目を覚ました。

そこは薄暗い部屋だった。

モーター音が低く唸り続けている。

うっすらとだが巨大なコンピューター装置が部屋中に敷き詰められているのが

見て取れた。

寝そべっていた体を起こした燐がぼそっと呟いた。


「・・・まだ夢を見てるみたいだ」


レベル2につづく

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