第12話 出陣

「──今宵の報告を」

「ええ、ボス。……見回りを強化してみたけど怪しい影は無いようね。異能の痕跡も今のところは見当たらない。が割れていることは無いと思って良いわ」

「それは重畳。まあ、簡単に見つかるようじゃ秘密結社とは言い難いさ」


 ──プロトコル・ゼロ、活動拠点。

 パソコンの光と蝋燭の鈍い光のみの薄暗い部屋。


 俺は肘をついたゲ◯ドウポーズでシャルミナからの報告を聞いていた。……ふむ、相も変わらず設定に忠実で、まるで本当のことを言っているように聞こえるほどの高い演技力だ。

 俺の秘密結社ごっこは、シャルミナが加わってから躍進し続けている。本当にシャルミナ様々だな。マジ感謝です。


 正直言うとさ。

 めっちゃくちゃ楽しいんだな、コレが。

 活動のためならどんな身の切り方でもするよ、俺は。


「さて……とある情報筋からね、弥奈通りの商業施設の廃墟に異能犯罪者のアジトがあるという情報が入ってきた」

「その情報筋は信頼できるものなのかしら?」

「あぁ、確かな情報筋だ。私の古い知り合いなんだ」

「そう……信じるわ」


 ふっ、白々しい真似を……あのおっさんを雇って次の出動先をコントロールしたのはシャルミナだろうに……。

 だがそういうマッチポンプ、結構好きです。凝ってて。


「弥奈通りというと……最近近くで行方不明事件が多発してるってニュースでやっていたけれど……もしかして」

「そうだ。恐らく行方不明事件は異能犯罪者の仕業だと思われる」

「そう……」


 シャルミナは苦虫を噛み潰したような表情をすると、ぐっと強く拳を握った。それはまるで己を戒めるような強い力だった。

 だから俺はスッと立ち上がり、シャルミナの手の甲に指を添えて言った。


「そう自分を責めるな、シャルミナ。君の手は自分を傷つけるものではなく、誰かを救う尊い手だ。何のために私たちは活動している?」

「……っ、うん……そうね。ありがとう、ボス」


 ハッ、と何かに気づいたようにシャルミナは込めていた力を弛緩させた。……ふぅ、セクハラとか言われないよな?

 演技に力入りすぎて(物理)血が出そうだと思ったから止めたが……シャルミナならマジでやりかねないんだよな。


 内心ため息を吐きつつ話を続ける。


「敵の規模感は不透明。及び、アジト内部には行方不明者がいる可能性もあるだろう。そこで、だ」


 俺はシャルミナに訴えかけるように彼女の目をじっと見つめる。


「──今回、別件を片付けたら後から私も現場へ向かおう」

「──ッッ、ボス自らっ!? き、危険よ! あなたは代えが利かない存在なのよ!?」

「君も同様に代えが利かない。私など所詮は歯車の一つでしかないさ。意志を継ぐ者は他にもいる」

「でも……ッ」


 それでも納得していなさそうなシャルミナに、俺は安心させるように柔らかな声音で言い放つ。


「……が、君の憂慮も尤もだ。──まあ、私が向かうのはあくまで戦後処理の一端だと思ってくれたまえ。だからこそ異能犯罪者の掃討を君に頼みたいのだ」

「ええ……それは勿論分かっているけれど……」


 今回の作戦、俺も後から覗きに行くつもりである。

 一体なぜか。


 まずもって、今回のおっさんの件でシャルミナは、状況を作り上げるためならエキストラなり劇団員なりを雇ってガチガチに舞台を整えることが分かった。

 それゆえに敢えて規模感のデカい廃墟を舞台にするなら何かしでかすつもりなんじゃないか? と俺は推測した。


 ……きっと彼女は命令を建前に劇団員を雇いまくって己の秘密結社ごっこ欲を満たそうとしているのだ!!


 ズルいぞ!! 俺もそろそろ状況に関わりたい!!!


 ……という幼稚園児のような駄々捏ねは一端置いておくとして……どれくらいシャルミナがお金をかけているのかを知らないといけないな、と俺は思った。

 

 うん、それ次第で給料変えるからね。

 もしも規模がかなり広いようであったら、必要経費分を上手く計算して喫茶店の時給に上乗せで支払う。

 尤も、劇団員を雇わずにやっていたとしても活動費ってことで多めに渡すけどね。年齢は知らんけど大人の女性っていったら色々必要なもんも多いだろ。

 

 あぁ、あとは日々のメイク代とかも出さねばね……。

 あれ絶対結構お金かかってるだろ。


 そんなわけで、前者のズルい!! って理由が六割、後者の必要経費の推算のため、ってのが四割の理由で今回は俺も現場に赴こうと思う。

 ただ、シャルミナもいきなり俺が来たらアレだろうから行くのは「大体色々片付いたかなー」って予測した時刻だ。


 あとから状況をサラッと見て、適当にシャルミナを労って必要経費の推算をしてから帰る。それが今回の目的である。


 アクションシーンとかやってたら見たいんだけどな……行く時間的に流石にそういうのは終わった後かな……。


「今回は行方不明事件、という被害状況が確定した事案だ。それ故に調査をしている猶予は無いだろう。だからこそ、できるだけ隠密性を保って事の解決に勤しんでもらいたい」

「……ふふ、無茶言うのね」

「君ならできるだろう?」

「ええ、勿論よボス。仰せの通りに」


 恭しく、敢えて演技っぽくお辞儀をしてみせるシャルミナ。

 きっと彼女の頭の中では今回の件をどうしようか、と忙しく思考を働かせているに違いない。ごめんな、経費のためなんや。

 

 あっ、もう一つ忘れてた。

 俺は懐から俺とは模様の違う仮面をシャルミナに手渡す。

 

「……これは?」

「素顔を晒すことは活動の妨げになるだろう。少しながら隠密の効果がある仮面だ。有効活用してくれ」


 するとシャルミナは躊躇うことなく仮面を装着した。

 ちなみに隠密性なんてものは多分無い。

 いつもお世話になってる近くの骨董屋で適当に見繕って買ったものだからな。あと5セットあるし。


「これでボスとお揃いね」

「模様は違うがな」

「そんな細かいことは良いのよっ! ……それで? 作戦の開始日時は?」


 バシン、と肩を叩かれる。おぅ、遠慮が無くなって来たのはめちゃくちゃありがたいし嬉しいんだけど、威力めっちゃ強くて痛いんですけど……あなたそんな見た目でパワー系なんすね。

 ジンジンする肩をキャラ的に擦ることもできずに、我慢しながら俺は作戦の概要を告げる。


「作戦は三日後の0200ゼロニーゼロゼロ。場所は弥奈通りの商業施設跡地。速やかな敵戦力の殲滅と、行方不明者の救助が目的だ!」

「──了解」



 

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