第11話 勘違い・THE・WORLD

 ──なるほど、このおっさんはシャルミナの雇ったエキストラ的な人か。

 

 ようやく合点が行った。

 俺の勘は冴え渡ってるな。


 ……おっと、なんでそんな判断をしたかって?

 まずは、このおっさんが非常に口下手な上に意味深なことばかり言っているからだ。

 

 まるで俺を探っているような目つきと質問……それに、俺から話題を振っていないのに、いきなり危ない場所について教えてくる謎の善意。


 ……次の派遣場所はここにしろ、というシャルミナからの遠回しのアピール……!!


 ここまで露骨にされちゃあ、ボスとして半人前な俺でも分かる。きっと行方不明事件なんてものは本当は起きちゃいなくて、安全かつ若干怪しげな雰囲気を漂わせている場所なのだろう。

 分かる、そういう場所見つけたら探索したくなるよな。

    

 一応あとで心霊スポットじゃないかだけチェックはしておくか。

 別に信じていないけどホラー系は苦手なのだ。変なものに憑かれて帰ってこられても困る……いや信じていないが??



 ……さて、まあシャルミナの思惑は分かった。

 となると、このおっさんも厨二病仲間なのか、はたまた単にお金で雇われた売れない劇団員なのか……その真偽を明らかにする必要があるな。

 もしも厨二病仲間であるならば是非ともウチに引き入れたいけども……年齢的にも立ち位置的にもその線は低そうだ。


 とりあえず適当に意味深なことでもやっておくか。


「お客様、ところで私、タロット占いのほうが少し得意でしてね。少し占ってみませんか?」

「…………っ、あぁ、良いぜ」


 超高速で袖口からタロットカードを取り出すと、おっさんは一瞬めちゃくちゃビビったように頬を引き攣らせると、頷いた後に新しいタバコに火をつけた。


「……ふぅー。……いつ取り出した……?」

「なにかおっしゃいましたか?」

「いーや、何でも。んで、何を占ってくれるんだ?」


 ……ふむ、何を占う、か。

 タロット占いは漠然としたものを占うのには向いてないんだよな。具体的な方向性とかを示してくれる占いでもあるから「このおっさんの行く末を適当に占う」とかはできない。

 とはいえそうだな……まあ、ここは無難に。


「そうですね……今のお仕事が上手くいくかどうか、などいかがでしょう?」

「……構わない。まァ、俺は占いなんてものは半信半疑だがな。信じたところで未来は変わるし変えられる」

「ふふ、まあ参考程度にということで」


 そういうこと言ってるヤツが一番ハマるんだよね。

 俺も自分でやっておきながらタロット占いとか"運"だろとか思ってるし、別に暇潰しで意味深なことしてるだけだから特に意味とかは無い。


「ではまずはシャッフルを」


 俺は裏向きにしたカードを左回りにぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。


「良いと思ったところでストップと言ってください」

「じゃあ、そこでストップだ」


 俺はシャッフルをストップさせ、更におっさんにカードの山を三つに分けるように指示し、その後、三つに分けたカードの山を一つにする。

 そして俺が三回だけカードをカットする。


「タロットでは上下の位置にも意味があります。どちらを上下とするのか選んでください」


 山の上向き下向きをおっさんに決めてもらったら、三枚だけめくっておっさんの前に並べる。

 左から"過去""現在""未来"の意味を持つ。



 タロットには大アルカナと小アルカナの2種類があって、前者は22種類で後者は56種類あるが、小アルカナは色々とマジで詳しくないと分からないので、今回俺は大アルカナのみで占いをしている。


 ……ちなみに大学の先輩から教えて貰ったから、これが本当にただしいやり方なのかは知らないけどな。

 まあ、"占い"という意味深行為をすることが重要であって内容はさして重要じゃないからどうでも良いけど。



「さて、では……」


 俺は早速過去のアルカナをめくると──皇帝が出た。

 それも逆位置……要は本来の向きとは逆向きに皇帝のアルカナが現れた。

 確かこれは……まあ、うん、細かいことは忘れたけど雰囲気で適当に言うか。


「逆位置に皇帝のカードが出ました。──かつて、あなたは傲慢で過剰なまでの自信がありましたね? 逆位置の皇帝は傲慢、過信……そして孤立。何でもできると思ったあなたは周りを置いてけぼりにしてしまった。違いますか?」

「────っ、あ、あぁ……」


 おっさんは目を見開いて腰が浮き上がる。

 まるで、どうしてだ……!? と言わんばかりの表情で仮面越しの俺と視線がかち合う。……いやぁ、良い演技してくれるなぁ。流石はシャルミナが雇っただけある。


「そして現在──隠者が出ました。逆位置です。あなたは過去の出来事から消極的に……閉鎖的になっている。情熱を昔ほど抱けなくっている。違いますか?」

「……その通りだ。だが、周りの制止も聞かず飛び出すことしか能が無かったあの頃よか今の方がマシだろ……? あの頃は突っ込むだけで何も為せなかった。守りたいものを守るにはな、安定的な思考も必要なんだよ……!!」


 ……な、なんかめっちゃヒートアップしてる……。

 これも演技……だよ、な? 


 なるほどなるほど……設定センサー発動中……。

 このおっさんはアレだな。

 かつてバリバリに正義の味方的な立ち位置で人々を救っていたけど頭に血が上りやすい……所謂熱血脳筋タイプで、そのせいで誰かを守れなかった。


 それがトラウマになって今現在はうだつの上がらない日々を過ごしている……的な設定か!! いいね、俺は嫌いじゃないよ。

 でも演技が嫌に迫真的でビビりそうになる件について。


 まあ、良いや。先に進もう。


「未来のカード──吊るされた男、正位置に出ました。あなたはきっと、近いうちに試練が訪れる。それは、かつてのトラウマを呼び起こすような凄惨な出来事です。ですが、それを乗り越えた時、あなたはきっと大切なものを取り戻すでしょう」

「大切なものを、取り戻す……」


 おっさんは自身の両手を見つめて俯いた。

 ……いや、よく分からん変な先輩に教わった占いでそこまでガチになられても困るんだけどよ。……シャルミナの周りは演技ガチ勢ばっかなのかしら。俺としては歓迎だけども。


 ……とはいえ、そろそろ営業終了時間である。

 いつまでも俯かれたら困る俺は、パンッと柏手を打つと明るい声音でおっさんに向けて言い放つ。


「占い結果は容易に変わります。もう一度してみれば全部良いことしか言わない可能性もありますから。あまりお気にせずに」

「……ははっ、占いをしたあんたにそれを言われちゃ意味がねぇ」


 おっさんは軽く笑うと、まだ残っていたダイキリをグビッと一気に飲み干すと、一万円札をカウンターの上に置くと立ち上がる。


「ぷはっ。世話になったな、また来る。釣りはいらん」

「またのお越しをお待ちしております」


 原価300円のダイキリに10000円を……!?

 なんて太っ腹なんだ……。

 シャルミナ、お前このおっさんに幾ら積んだんだよ……。


☆☆☆



「試練、か……」


 タバコを咥えた口元が、妙に熱かった。

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