第11話 空腹音




 寒さで意識が遠のいていく中。

 竜の空腹音か、天馬の空腹音か、はたまた大鬼の空腹音か。

 けたたましい音に即刻意識を覚醒させた竹葉は、いつの間にか冷たい暗闇に満ちている大空と、周囲だけ優しい明るさに包まれている事に気づき顔を下げると、焚き火をしている原符を見つけた。


「あれ、魔女は?冬の世界は?」 

「魔女はとっくの昔に居なくなったし。冬の世界ってなーんだ?魔女に幻術でもかけられちゃってたの?」

「あ。いえ。多分。魔女の殺気にあてられたんだと思います」

「ふ~ん。けどあんたも剣士ならそんくらい撥ね返さんとなー」

「………はい」


 下っ端の俺に魔女の殺気を撥ね返すなんて無理です。

 咄嗟に否定しようとした口は、けれど、同意の言葉を紡いでいた。


 弱弱しくとも確かに。

 強くなりたかった。

 強くなりたい。

 あの方みたいに。


「はい」


 竹葉は胸を張ってもう一度潔く返事をした。

 原符はそうそうがんばれーと気の抜けた返事をすると、焚き火の中に突っ込んでいた竹筒を二、三度転がし焚き火から取り出しては大きな竹筒に入れて熱を冷まし、竹葉に食べていいよと言って竹筒を手渡した。


「きゃべつ、菜の花、玉ねぎ、土石魚の竹酢和え。ほっぺが落ちちゃうから少しずつ食べるんだよ」

「あ、ありがとうございます。いただきます」


 焼きおにぎりもあるよと言われて三角の竹箱と竹箸も手渡された竹葉は、ようやく先程鳴っていた空腹音が自分のものだとわかって赤面しながら、焚き火を挟んで原符の対面に座っていただきますと言い、土石魚と菜の花を食べた。

 土石魚はもちもちして淡白で、菜の花は少し苦くてでも清々しくて、竹酢は酸っぱくてほんのり甘くて、身体が元気になる味だった。

 一気にがっつきたかったが、竹葉は原符の忠告通り少しずつ食べ続けた。


「美味しいです。すごく」

「そうだろそうだろ」

「はい」


 にこにこ笑う竹葉を見た原符は、空腹のおかげで色々忘れてるんだろうなと思いつつ、今はそれでいいと今後のことは言わないようにしたのであった。


(これからすんごく大変だからなー)

 










(2022.10.2)


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