第10話 白い焔




 忘れておった。

 竹葉の絶叫が届いたのかどうか。

 魔女が戻って来たのは、竹葉が三度目の絶叫を世界に轟かせようとした時だった。

 原符の前に軽やかに降り立った魔女が、竹葉には聞き取れない言葉を紡いだかと思えば、原符は蛙から七歳児未満の幼子に戻った。


 あれ。

 竹葉の頭の中で今更ながらに当たり前の疑問が生まれた。

 あれ魔女が原符を元の年齢、状態に戻せば万事解決じゃないのか、と。

 竹葉は今にも飛び立ちそうな魔女を呼び止めて疑問を投げかけると、無理だと即断された。


 竹葉は落ち込んだ。

 無理だとの返答は無論のこと、元に戻せるならさっさとしてると思い至らなかった自分自身の考えの足りなさに、だ。

 しかし、落ち込んでばかりはいられない。

 というよりも。

 落ち込んでいられる状況では、なかった。


(………気のせい、じゃ、ない、よ、な)


 オカメインコの姿だ。

 手に乗る大きさの愛らしい、愛らしい、オカメインコの姿。

 にもかかわらず。

 オカメインコの円らな黒い目に宿る青い、いや、白い焔が春から冬へと世界を急変した。


(さむい)


 魔女がとてつもなく怒っているのがわかる。

 わかるが。

 何が地雷だったのかは、わからない。

 わかり切った質問をしてしまったからだろうか。

 それとも、一旦収めた怒りを再燃させてしまったのだろうか。


 魔女から逃げる時に、原符が言っていたではないか。

 めっちゃ怒っている、と。

 原符が若返ったから。

 原符が竹職人じゃなくなったから。

 もしかしたらほかの理由からか。

 どれかはわからないが。

 とにかく、怒っている事だけは確かで。

 でも、蛙になって泳いでいる時に原符と魔女が話し合って解消したはず。

 なのに。




「おーい。おーい。おーい」


 原符がぴょんぴょん跳ねながら竹葉に呼びかけるも、反応なし。

 原符はやれやれと首をゆるく振った。


「自分の世界に入るのが得意なやつだ」











(2022.9.30)


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る