25-6 魔素を見るための条件


 シーラの持ってきてくれたバケットサンドで、サノスとロザンナを交えた4人での昼食(ランチ)になった。


 食事をしながらの話題は、俺とシーラの魔法学校時代の話になり、俺の描く『神への感謝』を備えない魔法円の話題となった。


 そして、そこから『魔素を見る方法』へと話が進んでしまった。


 サノスとしては、魔素がハッキリと見えないことに不満を抱いているようで、今でも魔素を見れないロザンナなどは、俺が『魔素を見る方法』を教えないことに、弟子と従業員の差なのかと踏み込んだ不満を口にしてきた。


 そんなきっかけを作ったのは、昼食(ランチ)のバケットサンドを持ってきてくれたシーラだ。

 そして『魔素を見る方法』へ話を繋げたのもシーラだ。


 何故シーラが『魔素を見る方法』へ話を繋げたのか?

 その付近は、別の機会にシーラを問い詰めることになるだろう。


「師匠、改めて聞きます。シーラさんの言う、『魔素を見る方法』を私達に教える気はあるんですか?」

「うんうん」


 サノスの言葉にロザンナも頷く。

 しかも、二人とも細めた目で俺を見てくる。

 ハッキリと言って怖い。


 怖いけれども、ここはきちんと二人へ伝えるべきだろう。


「二人とも、『魔素を見る方法』を俺が教える気があるか否か、そのことが知りたいんだな?」


「「⋯⋯(コクコク)」」


 細い目のままでも、二人とも頷けるんだな(笑


「わかった。『教えても良い』が、まずは俺の問いに答えてくれ」


「「はい?!」」


 おっ 細めた目が戻ったぞ。

 俺の口にした『教えても良い』に反応したのか?(笑


「サノスとロザンナは、何故(ナゼ)、『魔素を見る方法』を知りたいんだ?」


「決まってます! 魔素が見えれば、魔法円を描くときにダメなところが直ぐにわかるじゃないですか」


 はいはい。サノスは正直な答えですね(笑

 そんなサノスを手で制して、ロザンナへ問い掛ける。


「ロザンナはどうなんだ? サノスと同じか?」


「私は⋯ 私もセンパイと同じですが⋯」


「同じですが?」


 そこでロザンナの目線が、俺から隣に座るシーラへ移ると、少し俯いた。


 これは『シーラに聞かせたくない』そんな話なのか?

 いや、もしかしたら、シーラから教わりたいそんな主張なのだろうか?


「まあ、いいだろう。無理に答えなくてもいいぞ。そもそも、『魔素を見る方法』については、近い将来に教えることになるだろうと思っていたから、問題ない」


「「!!」」


 俺の言葉に二人は前のめりになり、喜びと困惑の混ざった微妙な顔を見せてきた。


 サノスとロザンナが何かを言おうと手を上げたが、俺はそれを制して二人へ続きを告げて行く。


「だが、今のサノスは製氷の魔法円の型紙を描いてるよな? そして、ロザンナは水出しの魔法円を描いてるよな?」


「「??」」


「それに、今の二人は回復魔法を覚えようとしているよな?」


「「!!」」


「さらには、ポーション作りの時に教えた魔素の扱い方も訓練している最中だよな?」


「「⋯⋯」」


「そうした、いくつもの事のどれも達成していないのが、今の状況だよな?」


「「⋯⋯」」


「せめて、一つ達成してから新しいことに挑んだらどうだ? 確かに、サノスが言うとおりに魔素が見えれば、魔法円を描くときに便利だろう。けれども、サノスはハッキリと魔素が見えなくても、既に3枚も魔法円を描いてるよな?」


「「⋯⋯」」


「いいか? 勘違いしないで欲しいが、俺は教えないとは言っていない。せめて、今やっていることを一つは達成して、その後で『魔素を見る方法』を学んだらどうだ?」


「「⋯⋯」」


「それとロザンナ」


「はい」


「先生ときちんと話し合ってくれ」


「!!」


「何故(ナゼ)、ロザンナが『魔素を見る方法』を学びたいか、その理由を正直にローズマリー先生に話して相談するんだ」


「わ、わかりました⋯」


「それと、サノスは魔石への魔素充填のために、魔素の扱いを練習している最中だよな? 俺としては、今月の末にポーションを作るときに、サノスが魔素の扱いがどれだけ上達したかを確かめたい」


「は、はぃ⋯」


 そこまでサノスとロザンナに話して、俺は隣に座るシーラへ向き直った。


「最後にシーラだな」


「えっ?! 私?!」


「サノスとロザンナから、『魔素を見る方法』を教えてくれと言われても、断ってくれないか? 申し訳ないが、サノスは俺の弟子だし、ロザンナは俺の店の従業員だ。二人に魔導師としての技術を教えて行くのは、俺の役目だと思っているんだ」


「うん、わかった。言われてみればそうだね。イチノス君の話を聞いて、イチノス君がどう考えているかがわかった」


 そう答えたシーラが、サノスとロザンナへ目をやりながら、椅子に座り直した。


「二人とも、落ち着いて聞いてね。私も、イチノス君の考えに賛成です。なので、私個人に聞いてきても、私からは教えません。むしろ、イチノス君から承諾をもらうように返事をするでしょう」


「「はい⋯」」


「もっと知りたい、もっと覚えたいの気持ちは素晴らしいことです。けれども、一度にやれることや学べることは限られていますよね?」


「そうですね」

「シーラさんの言うとおりです」


 よし。良い感じにシーラが締めてくれたぞ。


「じゃあ、この話しはここまでだな。さあ、お昼(ランチ)を終わらせよう」


「「はい!」」


 サノスとロザンナが、いつもの元気な声で応えてくれた。

 その顔には諦めは感じられず、むしろやる気を思わせる表情だ。

 これなら、二人とも俺の考えをわかってくれただろう。


 サノスもロザンナも、自分のシチュー皿に残ったバケットサンドを食べきり、アイスティーで流し込んでいく。

 シーラも自分の分を食べ終えると紅茶を飲み干した。


 そんな様子を眺めながら、俺はこの後を考えた。

 シーラとは、契約書の件や製氷業者との会合の件、そして製氷業者との定期保守契約の件を話しておきたい。


 サノスとロザンナが作業に戻るとして、その目の前でシーラと打ち合わせをするのは避けたいな。


 う~ん 仕方がない。

 2階の書斎でシーラと話すか⋯


「「シーラさん、ごちそうさまでした」」


「どういたしまして」


 サノスとロザンナが、シーラへ昼食(ランチ)の礼を告げると直ぐに片付けを始めた。

 その様子を眺めながら俺はシーラへ問い掛ける。


「シーラ、この後は2階の書斎で話せるか?」


「「!!」」


 今、片付けをしているサノスとロザンナ動きが一瞬止まった気がする。


「けど、後片付けを⋯」


「「シーラさん、片付けは私達に任せてください」」


 ん?


 シーラの後片付けの申し出を、少し慌てた感じで、サノスとロザンナが止めてきた。

 やけにサノスとロザンナの呼吸が合っていないか?


「サノスにロザンナ、後は任せて良いな?」


「「はい、お任せください!」」


「シーラ、二人に任せて2階で話そう」


 俺はそう告げて席から立ち上がった。

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