18-22 予約席へ移動


「「「おー!!!」」」


パチパチパチパチ


 大衆食堂全体に歓声と拍手が響き渡る。

 その様子に振り向けば、アルフレッドとブライアンが予約席の前に立ち、食堂内の冒険者達からの声援に応えるように手を上げていた。


 その様子に気づいたオリビアさんが、まるで待っていましたかのように、俺とムヒロエに聞いてきた。


「来たみたいね。イチノスさんも一緒に呑むんでしょ?」


 そんなオリビアさんの問い掛けに反応したのはムヒロエだった。


「イチノスさん、あの人達は風呂屋で挨拶した方ですよね?」


「そ、そうですね(笑」


「じゃあ、一緒に呑みましょうよ」


 俺の返事に、ムヒロエがエールジョッキを片手に立ち上がった。

 ムヒロエはまったく臆する様子が無い。


 そう思っていると、オリビアさんが笑顔で言ってきた。


「じゃあ、二人とも今すぐ飲み干そうか」


 そう口にするオリビアさんの仕草は、俺とムヒロエの手に持っていたジョッキを指摘しているようだ。


 オリビアさんの仕草に気づいたムヒロエが立ったまま、一気にエールを飲み干し、俺もそれに習って手にしたエールを飲み干した。



 ムヒロエと一緒にオリビアさんを先頭に、いつも座る長机=予約席へと向かった。

 予約席に到着すると、既に座っていたアルフレッドが声をかけてくる。


「イチノス、席を予約してくれたのか?(笑」

「イチノス、すまんな(笑」


 続くブライアンもアルフレッドと似た口調で冗談交じりだ。

 アルフレッドもブライアンも、二人が自身でこの席を予約していることを知っているような感じだ。


「あぁ、皆が来るとわかっていたから、いつもの席をオリビアさんに頼んだんだ」


(ククク)


 俺の返答にオリビアさんの笑い声が聞こえた気がする。


「ククク まあ、座れ。今日はお祝いだから」

「そっちのお連れさんも一緒に祝ってくれ」


「お言葉に甘えて、ご一緒させてもらいます」


 ブライアンがムヒロエを誘うと、ムヒロエは遠慮せずにブライアンの隣に腰を下ろした。

 俺も立ったままでなく、アルフレッドの隣へ座ると、オリビアさんが尋ねてきた。


「全員、エールね?」


「「「「おう!」」」」


 思わず全員が声を合わせて返事をしたところで、俺が財布を取り出そうとすると、アルフレッドが制してきた。


「イチノス、安心しろ。飲み代はギルマスとウィリ⋯ 叔父さん持ちだ(笑」


「叔父さん持ち?」


「ククク」


 アルフレッドの笑い声から俺は理解した。

 今日の領主別邸でのダンジョン発見の報告会で、やはり皆がご褒美を貰ったのだ。

 この大衆食堂でのお祝いも、ウィリアム叔父さんが資金を出したのだろう。


「イチノスのお連れさんも気にせずに飲んでくれ」


「はい、遠慮なくもらいます」


 ブライアンの誘いに、ムヒロエは嬉しそうな顔でアルフレッドとブライアンへ会釈をしている。


パンパンパン!


 オリビアさんから木札を受け取ったところで、手を打ち合わせる音が鳴り響いた。


 給仕頭の婆さんが手を叩いて、食堂の中のお客さんの視線を集めたのだ。


「みんな~、今日はギルマスからお祝いが出てるよ~」


「「「「おぉ~!!」」」」


 アルフレッドの言うとおりに、ギルマス=ベンジャミンからも資金が出ているようだ。


と、言うことは⋯


 古代遺跡の発見に続いて、ダンジョンの発見も公開することを、ウィリアム叔父さんが決めたと言うことだ。


 今日の報告会で、ウィリアム叔父さんが公表する決定を出したとすれば、ギルマスのベンジャミンがかなり尽力したのだろう。


「但し、一杯だけだよ~」


「「「「ぉお⋯」」」」


ククク


 まあ、大衆食堂の冒険者達に飲ませたら底なしだろうから、一杯だけと言うのはうなずけるな(笑


「これから私とオリビアが木札を配りに回るから、ちゃんと受け取ってねぇ~」


「「「「おぉ~!!」」」」

「オリビアさ~ん(笑」

「ばぁさ~ん(笑」


「は~い 私のことを『ばあさん』呼びした奴は無しだからねぇ~」


 いやいや、どう見ても婆さんだろう(笑


「お、おねぇ~さ~ん(笑」


「「「ギャハハハハハ(笑」」」


 そんなやり取りで、再び食堂内が冒険者の笑い声に包まれた。


 オリビアさんと婆さんが席ごとに木札を配り、注文を受ける様子をなんとなく眺めていると、アルフレッドが問いかけてきた。


「イチノス、お連れさんは親戚なのか?」


「おっと、挨拶が遅れてすいません」


 すかさずムヒロエがアルフレッドに応える。


「私はムヒロエと言います。魔導師のイチノスさんに、魔石の鑑定を依頼するためにこの街へ来たんです」


 明らかに、アルフレッドの問い掛けは俺に向けられていたが、ムヒロエは嬉しそうな顔でアルフレッドに答えた。

 そんなやり取りを聞いていたブライアンが口を開く。


「じゃあ、イチノスの店のお客さんなのか?」


「まぁ、そんな感じだな」


 今度は俺が答える。

 すると、ムヒロエが割り込むように挨拶交じりにアルフレッドとブライアンへ軽く頭を下げた。


「イチノスさんへの依頼が終わるまで、しばらくはこの街にお世話になります。よろしくお願いします」


「おぉう⋯」


 ムヒロエの勢いにブライアンが少しだけだじろぐが、さも核心を付くように聞いてくる。


「確かにアルフレッドの言うとおりに、イチノスに似てるよな?」


「そうですか?」


 アルフレッドとブライアンがムヒロエへの感想を重ね、それにムヒロエが答えていく。

 どうやらアルフレッドもブライアンも、ムヒロエが俺に似ていると感じているようだ。


「いや、似てるというか⋯」

「パッと見た雰囲気が似てるんだよ」


「何か嬉しいですね。イチノスさんに似てるなんて(笑)」


おいおい


 ムヒロエ、そこで嬉しそうな顔で俺を見るんじゃない(笑


ん?


 4人でそんな会話をしていると、視界の端に赤と白のストライプ模様のエプロンを着た男が現れたような気がした。


ドンッドンッ ドンッドンッ


 その可愛らしいエプロンを身にまとった男が、大きな音を立てながらジョッキを4杯、長机の上に置いてきた。


「まずは一杯、先にやってくれ」


 声の主は、やはりワイアットだった。


 エプロン姿のワイアットはエールを机に置くと急いで厨房へ戻っていった。


「ククク」


 アルフレッドとブライアンは、その様子を見て笑い声を漏らす。


 もしかして、この大衆食堂でダンジョン発見を祝う会合を開く際に、ワイアットが手伝うことが条件だったのだろうか?


「イチノス、先に乾杯しよう」


「そうだ、そうだ」


「遠慮なくもらいます」


 アルフレッドとブライアンの促しに応じ、ムヒロエもエールを手に取った。


 俺もエールを手にすると、アルフレッドとブライアンが目を合わせて声を出した。


「「お疲れぇ~」」


「おつかれさまで~す」


「おぉ~」


ゴキュ ゴキュ ゴキュ⋯


「「ぶはぁ~」」「「ぷはぁ~」」


 4人が揃ってエールを一気に飲み干し、共に息を吐き出す。


「美味いなぁ~」「うまい!」


 アルフレッドとブライアンは風呂上がりの一杯目だろう。

 俺とムヒロエは既に3杯目だが、それでも十分に美味い。


「すいません、お二人のお名前を聞いても良いですか?」


 ムヒロエがにっこり笑いながら問いかけた。


「おぉ、言ってなかったな、え~と⋯」


「ムヒロエです」


「そうそう、ムヒロエさんだ。俺はブライアンだ」

「俺はアルフレッド」


 ムヒロエの伺いに、アルフレッドとブライアンが名前を告げていった。

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