4-16 金はあるのか?


「師匠の言う1つ目の方法は、父(ワイアット)さんにお願いするぐらいしか思いつかないです⋯」

「そうなるな⋯ だがワイアットは仕事で不在の時もあるだろ?」


 俺はサノスに答えながらも、娘であるサノスが父親のワイアットが魔素を使えることを知っているんだと心に留めた。

 俺と母(フェリス)のような、親子で魔素を扱う話をしたりしているのだろうか。

 そんなことに思いが至る俺にサノスは言葉を続ける。


「そうなんですよ⋯ 父が居ない時の事や、今後の事を考えると⋯ 当面はお願いできると思うんですが、私が希望する時に出来ないですよね?」

「なるほど。そうなるとやはりサノス一人で出来る方法が良いよな」


「はい。2番目の方法は私一人で出来るけど練習が必要で、今直ぐには出来ないですよね?」

「そうだな。訓練を重ねて早ければ1週間、長いと一生不可能だな(笑」


「師匠、他に方法は無いんですか?」

「あるよ」


 俺の返事にサノスが驚きつつも、明るい顔を見せて聞いてきた。


「師匠! あるなら最初から教えてください。どんな方法なんですか?!」


 さも当然のように教えてくれと言うサノスに、作り笑いで応えてみる。


「ねえ、師匠。どんな方法なんですか?」

「その前にだ⋯ サノスの考えを聞かせてくれんか?」


 俺の言葉にサノスが止まった。

 そして、俺の顔を見て恐る恐る聞いてきた。


「師匠は⋯ 私に教える気は無いんですか?」

「いや、サノスの考えが聞きたいんだよ。サノスなりに一人で魔素を流す方法を考えてるんだろ?」


「「⋯⋯」」


 互いに顔を見合わせたままで沈黙が続く。

 それまで俺と目を合わせていたサノスが視線を外してポツリと呟いた。


「笑わないでくださいね⋯」

「⋯⋯」


「ガス灯を見てて思ったんです⋯ 出来そうな気がしたんです⋯」


 俺はサノスの言葉に思わず笑顔が溢れそうになってしまった。

 サノスなりに考えて『ガス灯』と口にしてきたのだ。

 これは俺からすれば、ほぼ合格とも言える回答だ。


「サノス、よく気が付いたな」

「えっ、正解なんですか?!」


「ある意味正解だ。もう少し詳しくサノスの考えを聞かせてくれんか?」


「はい。まずはですね⋯」


 サノスは意気揚々とガス灯に関する自分の考えを話し始めた。



「サノスはなかなか良いところに気が付いたな」

「へへへ 褒められて嬉しいです(笑」


 サノスの予想と言うか考えは当たっていた。


 街に設置されているガス灯には、サノスが考えるとおりに魔石から魔素を取り出す『魔法円』が組み込まれている。

 人手を介さずとも、切っ掛けを与えるだけで、魔石から定期的に魔素を取り出す仕組みだ。

 これを使って取り出した魔素を、石炭からガスを得る『魔法円』に組み合わせているのがガス灯だ。


「師匠、そんな感じで人手を介さずに魔石から魔素を取り出す『魔法円』があれば、取り出した魔素をこの『魔法円』に流せます」

「うんうん」


「この方法なら、私は魔素を見るのに集中出来ます」

「うんうん」


「この『魔法円』の魔素が通らない部分も直ぐに見つけれると思うんです」

「うんうん」

 

「一人で出来ますから、師匠の手を煩わせる事もなくなります」

「うんうん」


「父(ワイアット)が居ない時でも確かめれるし、かなり便利だと思うんです」

「うんうん」


「どうでしょう師匠、ここはかわいい弟子にガス灯に使われている『魔法円』を提供してみませんか?」

「いいよ」


「えっ? 良いんですか? 師匠、本当に良いんですか?」

「ああ、構わないぞ」


「やったー これでいつでも魔素を流せるぅ~!」


 両手を挙げて喜ぶサノスが本当に嬉しそうだ。

 そんなサノスに少し釘を刺してみる。


「で、サノスは金はあるのか?」

「カネ?」


「ああ、代金だよ。サノスはガス灯を購入して、ガス灯の中から欲しい『魔法円』を取り出すんだろ?」

「???」


「研究所のガス灯を扱う部門に紹介状は書いてやる。後はサノスがガス灯の代金を払えば1ヶ月後にはガス灯が届くだろう」

「⋯⋯」


「自分で購入したガス灯だ。好きなだけ中身を調べれるし、調べ終わったら家や部屋の明かりにも使える」

「⋯⋯」


「これならオリビアさんもワイアットも家が明るくなって便利だろうな」

「⋯⋯」


 サノスを見れば例の目を細めた顔で俺を見ていた。

 それに気が付いた俺も同じ様に目を細める事にした。



 その後、サノスと話し合い、サノスが今取り組んでいる『魔法円』に魔素を流すのは、俺の役目となった。


 実際に魔素を流してみると、サノスが気付かなかった場所は、やはり魔素が通っていなかった。

 そこを見つけたサノスは、一瞬の落胆を見せたが、直ぐにお手本の『魔法円』と見比べる人になった。


「サノス、俺は2階の書斎に居るから、何かあったら声をかけてくれ」

「⋯⋯」


 一応、サノスに声を掛けるが返事は無い。


 サノスの集中した時の様子には感心させられるな。

 そんなことを思いながら2階に上がり、書斎の椅子に座る。


 思い返せば濃い一日だ。

 しばし目をつむり、今日は何があったかを瞑想するように思い返す。


 朝からサノスの描いた『魔法円』に魔素を流し、その際にサノスも魔素が見えることがわかったんだよな。

 そうそう、サノスは魔素の通りが悪いと、無理矢理に魔素を流そうとしたな(笑


 そこでコンラッドが来て磨き上げられた大量の『魔鉱石(まこうせき)』を置いていった。

 あの時にコンラッドと話した『勇者の魔石』の件⋯ あれにはまいった。

 俺の考えが甘かったのを痛感した。

 『勇者の魔石』の事でコンラッドが言ってたのは⋯ そうだ教会だ。

 教会で教会長とお茶でもしてこいと言ってたよな?


 コンラッドが帰って⋯ ヘルヤさんから催促の伝令が来て⋯ 魔道具屋が捕まって⋯


 いかんいかん。眠くなってきた。

 少し仮眠をとるか⋯

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