4-6 お礼? 催促? の手紙が届きました


 コンラッドは母(フェリス)宛の小箱とサノスから渡された緑茶(やぶきた)を手に、青年騎士(アイザック)を護衛に帰って行った。

 帰り際、サノスから手土産を渡された際に、コンラッドが何かをサノスに囁いていた。


 俺が二人を店の外まで見送り作業場に戻ると、作業机には既にサノスの『魔法円』と見本の『魔法円』が置かれていた。


「サノス、随分と気合いが入ってるな(笑」

「はい! 師匠! がんばります!」


 気合い十分なのは良いが煩い。

 このサノスの気合いは、きっと先程のコンラッドの囁きが原動力になってるのだろう。


「師匠、もう一度、魔素を流してもらえますか? さっきの場所を確認したいんです」

「いいぞ、サノスの準備が整ったら声をかけてくれ」


 俺がそう言うと、サノスは鉛筆を取り出し手に持つと、先ほどと同じ様に祈る仕草をして軽く深呼吸をする。


「すぅ~はぁ~ はい!」


 サノスの掛け声に合わせて、俺は『魔法円』に魔素を流し、同時に集中して『魔法円』に目をやる。

 『魔法円』の魔素が拡散する部分が数ヶ所ほど見えた時に、サノスが鉛筆で印を付け始めた。


「ふぅ~。師匠、ありがとうございました」


 サノスが一息つき礼を述べると、鉛筆で印を付けた場所をお手本と比較し始めた。

 今回はサノスなりに鉛筆で印を付けるなど、先程より進歩を見せている。

 だが、残念ながら俺に見えた魔素が通じていない場所の全てに、サノスは印を付けれていない。

 これはもう一度、俺が魔素を流す必要があるなと考え、サノスに声をかけた。


「サノス、今、見つけたところを修正するのか?」

「ええ、全て修正します」


「じゃあ、俺は2階の書斎に居るから、修正が終わったら声を掛けてくれ」

「はい、またお願いします」


 そう言うが早いか、サノスは直ぐに『魔法円』の修正に取り組んだ。



 2階の書斎で書斎机の椅子に座り、コンラッドの届けてくれた箱の蓋を開ける。

 開けた途端に遠慮なく全ての『魔鉱石(まこうせき)』が俺を睨むように『魔石光(ませきこう)』を発してくる。

 全くコイツらは容赦なく俺を睨んでくるなと思いながらも、六角形の『魔鉱石(まこうせき)』を1つ手に取った。

 睨むような『魔石光(ませきこう)』に目を細目ながら、その研磨の様子を見て行く。


 やはり素晴らしい仕上げだ。

 鏡面に仕上げられた面もさることながら、上部に開けられた穴の加工まで丁寧な仕上がりになっている。

 これならば、そのまま紐を通せば十分に装飾品になる程だ。


 『魔鉱石(まこうせき)』に睨まれ続けて目を細めるのにも疲れてきたので箱に戻して蓋をした。


 ベストのポケットに入れた母(フェリス)からの封筒を取り出し、封蝋を切って中の手紙を広げる。


ーーー

愛するイチノスへ


 母の日の花束とハーブティーの種をありがとう。

 綺麗な物が手に入ったのでイチノスに送りますので預かっていてください。

 勇者の方はコンラッドに相談してね。

 ヘルヤさんの方は先に送った分を使ってください。


 あなたの母 フェリスより

ーーー


 はいはい。預かっておきます。

 『勇者の魔石』はコンラッドとも話したけど、暗礁に乗り上げたままです。

 ヘルヤさんの件は了解しました。


 これは当面の間は、15個の『魔鉱石(まこうせき)』は手付かずになりそうだ。

 どれかを『エルフの魔石』や『勇者の魔石』にする際には、母(フェリス)から伝令でも届くのだろう。

 そう考えて書斎机の魔法鍵の掛けれる下段の引き出しに、15個入りの小箱を入れて魔法鍵に魔素を流して施錠した。


 残るは最初に届けられた2個の『魔鉱石(まこうせき)』だ。

 これの内、1個は数日中にヘルヤさんの充填で使うことになるだろう。


 そこまで考えていて、俺は何かを忘れていることに気が付いた。


 何だろう?

 何かを忘れている気がする⋯


 『魔鉱石(まこうせき)』絡みの何かを俺は忘れている気がする。


コンコン


(師匠、伝令が来てます)


 書斎のドアをノックする音と共に、サノスが伝令の到着を知らせてきた。


「わかった。直ぐ行く」


 忘れていることを思い出すのを中断し、席を立ち上がり書斎から出てドアの『魔法円』に魔素を流す。

 魔法鍵が掛かったのを確認して階下に降り、作業場の机に目をやるとサノスが『魔法円』の修正に取り組んでいた。


 店舗に出ると昨日も伝令で来た見習い冒険者が立っていた。


「イチノスさん」

「おう、ごくろうさま。今回も君か」


「はい、不思議と俺が取れてます(笑」

「それで、誰からの伝令だ?」


「えーっと⋯ ヘルヤ・ホルデヘルクさんからです」


 見習い冒険者の彼が依頼達成書を見ながら答えた。


 ヘルヤさんから?

 ギルマスにはこちらの準備が整うまで待って欲しいと願ったがヘルヤさんには伝わらなかったのか?


「わかった、受け取ろう」


 俺がそう告げると、見習い冒険者が伝令の封筒を差し出してきた。

 俺が封筒を受け取ると、続けて依頼達成書も出してきたのでサインをする。


「ありがとうございました~」


コロンカラン


 元気な声と共に見習い冒険者の少年は店の出入口から出て行った。


 俺は店舗から作業場に戻り、サノスの向かい側に座り、棚からオープナーを取り出す。

 伝令の封筒を開けて中身を取り出しヘルヤさんからの手紙を読んだ。


イチノス・タハ・ケユール殿へ


 ベンジャミン・ストークス殿よりイチノス殿が当方の願いを受けていただける旨の連絡を受け取った。

 まずは願いを受けていただいた礼を述べる。

 加えて当方の非礼を許していただけたイチノス殿を称えたい。

 イチノス殿の準備が整い日付が決まり次第に教えて欲しい。


ヘルヤ・ホルデヘルク


 これは礼を述べてはいるが、明らかに催促の手紙だ。

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