3-14 ギルマスからの手紙
お互いの勘違い⋯
いや、正確にはサノスの勘違いを解くため、お茶を飲みながら、サノスと少し話すことにした。
「新しい魔石と魔法円の試験だったんですね。てっきりそっちの方かと勘違いしちゃいました(てへ」
サノスが勘違いを言い訳し、照れ笑いでごまかそうとしている。
俺はサノスに『魔鉱石(まこうせき)』のことも『改良型計測器』の事も、正確には話さずに『新しい魔石』と『水出しの魔法円』の実験をしていると話した。
俺はサノスの淹れてくれた、本日2回目の『やぶきた茶』を口にしながら、サノスの勘違いを少しからかってみる。
「それにしてもサノスは想像力が豊かだな(笑」
「いや、想像じゃなくて勘違いです」
「俺がバケツに用を足すところでも想像したのか?(笑」
「師匠! やめてください!」
若干、顔を赤くしているサノスが笑える。
こいつ、やっぱり想像してるだろ(笑
弟子とは言え、未成年のサノスをからかい続けてもしょうがない。
机の端に置かれたサノスが挑んでいる『湯沸かしの魔法円』に目をやり進捗を聞いてみる。
「どうだ? そろそろ出来上がるようだが?」
「もう少しと言うか、私としては出来上がってると思うんですが⋯」
何やら自信無さげな返答がサノスから返ってきた。
俺が先ほど『魔素』を通した感じでは『神への感謝』が反応していなかったが⋯
「もしかして『引っ張られる』感じがしないのか?」
「そうなんです。湯出しの時に感じたのが、この湯沸かしだと感じないんです」
サノスはお茶を淹れるのに使った『湯出しの魔法円』を指差しながら言ってきた。
俺はサノスに理由を話をすかどうかを迷った。
『神への感謝』が反応していないことを話すべきだろうか?
サノスは『魔法円』の中で『神への感謝』がどの部分かを知らない。
そんなサノスに、あっさりと答えを教えて良いのだろうか?
「師匠、何が悪いと思います?」
「俺が教えた方が良いか?」
「えっ? 師匠はわかるんですか?!」
「ああ、わかるんだが⋯ サノスに答えを教えて良いかどうかで迷ってるんだ」
「教えてください、師匠! ヒントだけでもお願いします」
サノスが手を合わせて願ってくる。
カランコロン
店の出入口の扉に着けた鐘が来客を知らせて来た。
「はぁ~い。いらっしゃいませぇ~」
お客様の来店を告げる鐘にサノスが直ぐに反応した。
サノスが合わせていた手を解き、店に飛び出して行く。
(イチノスさんに伝令で~す)
俺に伝令?
店の方から聞こえる声に少しだけ聞き覚えがある。
どこで聞いたのだろうか?
「師匠宛に伝令が来てますけど、どうします?」
サノスが作業場に顔を出して聞いてくる。
「おう、俺が出るよ」
店舗に顔を出すと、見習い冒険者の少年が立っていた。
冒険者ギルドで俺の出した依頼を掲示板で眺め、大衆食堂でワイアットを探していた見習い冒険者の少年だった。
「イチノスさん! 伝令です」
「誰からの伝令だ?」
俺が尋ねると、見習い冒険者の少年が大きな声で答える。
「ギルドマスターからです!」
「「はぁ?」」
思わずサノスと顔を見合わせてしまった。
俺は見習い冒険者の少年から冒険者ギルドのロゴが入った封筒を受け取った。
「イチノスさん、依頼達成書にサインをお願いします」
見習い冒険者の少年の願いに従い、差し出された達成書にサインをする。
「ありがとうございました~」
コロンカラン
元気な声と共に見習い冒険者の少年は店の出入口から出て行った。
俺は手にした封筒を開けてみることにした。
サノスと共に作業場に戻り、椅子に座り直すとサノスが俺の手にする伝令の封筒を凝視してくる。
サノスは冒険者ギルドのギルドマスター=ギルマスからの伝令が何か気になるようだ。
「師匠、ギルマスからの伝令って何ですか?」
「ハハハ。サノス、慌てるな。お茶を淹れ直してくれるか?(笑」
冒険者ギルドのギルマスからの伝令なんて、滅多にあるものじゃない。
冒険者ギルド主催の大規模討伐か何かで、ポーションの依頼だろうか?
もしもそうならば、サノスが気にしていたハーブティーの種も作れるだろう。
棚からオープナーを取り出し、伝令の封筒を開けて中身を取り出す。
伝令用の冒険者ギルドの封筒には2枚の手紙が入っていた。
◆1枚目の手紙
大魔導師イチノス・タハ・ケユール殿へ
東国より来たれり来客は都合が悪くなり、本日のイチノス殿の店舗への訪問は困難との事を伝言させていただきます。
[リアルデイル冒険者ギルド]
[ベンジャミン・ストークス]
◆2枚目の手紙
大魔導師イチノス・タハ・ケユール殿へ
女性彫金師の件でお話をしたく、ご都合をお知らせいただければ幸いです。
[リアルデイル冒険者ギルド]
[ベンジャミン・ストークス]
いつものようにギルマスからの手紙の最後に押されている判子もある。
この手紙は確かにギルマスからだろう。
それにしても恥ずかしいから『大魔導師』を付けるのはやめて欲しい。
「師匠、ギルマスからの伝令は何ですか?」
「読んで良いぞ」
お茶を淹れ直してくれたサノスに、ギルマスからの手紙を渡す。
サノスは先程までの『魔法円』の事など忘れて食い入るように手紙を読んでいる。
俺はサノスの出してくれたお茶を飲みながら考えた。
この後に予定していた東国(あずまこく)からの二人の来店は中止になった。
ギルマスは今日中にヘルヤ・ホルデヘルクさんの件で話がしたいようだ。
『エルフの魔石』が出来たことも母(フェリス)かコンラッドに伝える必要がある。
ギルマスからの手紙を読み込んでいるサノスに声をかける。
「サノス、これから冒険者ギルドに行ってくる」
「は、はい。師匠、お帰りは?」
壁の振り子時計を見れば3時になろうとしている。
ギルマスとの話が長引くかもしれない⋯
「そうだな⋯ ちょっと時間が読めんな」
「私が店番で良いですか? もう少し『魔法円』を確認したいんです」
「いいぞ。暗くなる前に店を閉めて帰るんだぞ。そうだ、今日の給金と昨日と今日の昼食、それに花の代金だ。足りるか?」
俺は店の売り上げを入れるカゴから銀貨を3枚を取り出してサノスに渡す。
サノスは笑顔で受け取ってくれた。
俺はサノスの淹れてくれたお茶を飲み干し、水量計を片手に2階の書斎へ戻り『魔鉱石(まこうせき)』や『エルフの魔石』を各小箱に入れて蓋をする。
改良型計測器に水量計を戻したら書斎のドアに魔法鍵を掛けて階下に戻った。
上着を羽織りながら、作業場で『魔法円』に取り組み続けているサノスに声を掛ける。
「そうだ、サノス。『魔力切れ』する可能性があるから、一人でその『魔法円』に『魔素』を注ぐなよ」
そう告げるとサノスがビクリとして固まった。
「じゃあ、行ってくる」
「は、はい。行ってらっしゃ~い」
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