3-12 『魔鉱石(まこうせき)』を調べます


 出来上がった『エルフの魔石』を、先ほど準備した母(フェリス)に届けるための小箱に入れる。


 念の為に胸元の『魔石』に手を添えて、自分に回復魔法をかけておく。

 ここまでを終えて深呼吸し、椅子に座り直し背もたれに体を預けた。


 正直に述べて、今の俺の『魔素』を扱う技量からすれば『エルフの魔石』を作るのはかなり容易い。

 散々、母(フェリス)から教えられた成果であると共に『魔素』の扱いと『魔鉱石(まこうせき)』の扱いに慣れたからだろう。

 そんな俺でも『エルフの魔石』を作るには条件がある。

 そもそも『エルフの魔石』は、魔物から得られる『魔石』や『魔骨石(まこっせき)』では作れない。

 『魔素』が充填された手付かずの『魔鉱石(まこうせき)』が必須なのだ。


 階下の作業場から持ってきた『魔石指南書』を開いて『エルフの魔石』の頁を開いてみる。


◆エルフの魔石


概要

 エルフ種族の『魔素』を含んだ『魔石』を『エルフの魔石』と呼ぶ。

 エルフ種族には一般的なエルフ以外にダークエルフやハイエルフが存在するが、本書では一般的なエルフの『魔素』を含んだ『魔石』を中心に記載する。


特徴

 『魔石光(ませきこう)』に『エルフの魔素』と同じく銀光色を持つと言われる。

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   中略

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効能

 『エルフの魔石』の最大の効能は雌(メス)の出生率の高さと異人種間での交配の成功率にあると言われる。

 また『エルフの魔石』を用いた懐妊を目的とする交尾行為での着床率は顕著な高さを示すと言われる。


推測

 そもそもエルフ種族は人間種族と比較して長寿であり、その影響か子孫繁栄や繁殖を旺盛に行わない傾向があると思われる。

 この事からエルフの子孫繁栄においては『エルフの魔石』を使用していると推測される。


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 『魔石指南書』の『エルフの魔石』の頁は、ハーフエルフの俺にとっては魔法学校時代の不愉快な出来事に繋がる。


 魔法学校時代に『エルフの魔石』の頁を読んだ子爵の馬鹿息子から、からかうようにとんでもないことを言われた。


『実はお前はエルフの魔石で生まれた女なんじゃないのか?』


 そう言われた時には、さすがに切れてしまい、攻撃を目的として魔法を放ってしまった。

 子爵の馬鹿息子と俺が揉めた際に、周囲には多数の衆人がいたため、結果的に学校側に届いてしまい、俺も子爵の馬鹿息子も謹慎処分となった。


 謹慎処分で帰省した時に、父(ランドル)から言われたのがこんな言葉だ。


『男子としての誇りと貴族の格を比べるな』


 侯爵の父(ランドル)の後を継ぐ侯爵継承権を放棄した俺は、子爵の馬鹿息子から見れば一人の庶民だろう。

 だが貴族だからと庶民の性別をからかう言葉は許されるものではない。

 きっと父(ランドル)はそうした事を俺に伝えたかったのだろう。


 馬鹿な子爵の息子から謝罪と撤回は成されたが、謹慎が開けた後に彼は学校に戻ってこなかった。

 病気療養のためと聞き及んだが、何らかの貴族としての決着が成されたのだろう。


 こうして『魔石指南書』を読み返すと、つくづく思う所がある。


 この指南書は下世話な話が多すぎる。

 『勇者の魔石』では男子が生まれるとか『エルフの魔石』では女子が生まれるとか。

 エルフは長寿だから子孫繁栄を旺盛にしないとか。


 今更ながらに思うが、平然と人種差別や性差別をしている感じがする。


 『ドワーフの魔石』の頁に至っては、更に酷い事が書かれている。


◆ドワーフの魔石


効能

 『ドワーフの魔石』の最大の効能は金属錬成の効率を上げることにある。

 そもそもドワーフは、自身の持つ『魔素』を用いた魔力によって各種金属の錬成効率を上げている。

 従って鍛冶の苦手なエルフであっても『ドワーフの魔素』を有する『ドワーフの魔石』を用いれば鍛冶が可能となる。


推測

 『ドワーフの魔素』はアルコールの無効化の効力を有しており、その事がドワーフが飲酒に強い耐性を有すると推測されている。


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 ここまで来ると、この本を書いた人物を疑いたくなって来る。

 また魔法学校と言う国の教育機関で、このような記載がされている書籍を用いた講義がされていることに疑問すら感じる。


 だが、不思議なことに『魔石指南書』を使った魔法学校での講義では、各人種(人間、エルフ、ドワーフ、リザードマン、獣人)から面白い意見が聞こえて来た。


『半分正解で半分誤解だな』

『全部とは言わない。正しい部分もある』


 じゃあ、何が正しくて何が間違いか?


 そうした方向に進むと、どの人種も口を噤(つぐ)み始める。

 俺を含めて講義に参加した各人種は皆が口を噤(つぐ)む理由をそれなりに理解している。

 人種差別に繋がる可能性があるからだ。


 この王国には多数の人種が暮らしている。

 国王の英断で、人種を問わず門戸を開き人種差別を撤廃しようとする魔法学校で、人種差別に繋がる言動は許されないからだ。

 本来はこの王国の貴族連中にこそ、そうした『人種差別をしない』意識が浸透して欲しいのだが⋯


 ちなみに『魔石指南書』には『魔鉱石(まこうせき)』については何も書かれていない。

 なにせ、あの事故を招いた『魔鉱石(まこうせき)』だ。

 魔法学校で使う教科書である『魔石指南書』に書き記すことは困難なのだろう。


 脱線しかかった意識を戻して、書斎机の脇に置かれた装置に掛かる布を外す。

 布の下には、俺が作った『改良型魔石光スペクトラル計測器』=改良型計測器が置かれている。

 『魔石光スペクトラル計測器』の原理を調べ上げ、専用の『魔法円』を描き、幾多の『魔石』で実験して動作を確認したものだ。


 これを使って『魔鉱石(まこうせき)』を調べるのが俺の最大の目的だ。

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