3-11 いよいよ『エルフの魔石』作りです
「じゃあ、ハーブティーの種はいいんだな?」
「はい。むしろ在庫を増やしたくないです。最初は売れるだけ売ろうと思いましたが、やっぱりやめます」
サノスの入れてくれた緑茶を味わいながら、先ほど考えていたポーションとハーブティーの種について話し合った。
「ハーブティーの在庫も捌けたし、よくよく考えれば母の日だけの一過性です。明日になればまた一個も売れないですよ(笑」
「ハハハ サノスにしては良くわかってるじゃないか(笑」
「師匠、それは言い過ぎです!」
「ハハハ。けれども、もう一歩踏み込んだ見方もあるぞ」
「踏み込んだ見方ですか?」
「再購入だよ」
「再購入?」
「そうだ、母の日でプレゼントされたお母さん、それにプレゼントした子供達が、再度、店に買いに来ることだよ」
「なるほど~」
「良い品だと認められれば、再び店に来てくれる。これは大切なことだろ?」
「そうですね」
「再度店に来てくれた時に在庫が無ければ、商機⋯ 販売する機会を逸することになる」
「えっ、それはまずい⋯ いや、もったいないです」
「かといって、再来店した時に大量の在庫を見たりすると、プレゼントの価値観が下がってしまう」
「そ、それは⋯ 悲しいです」
「商売はそうしたもんだよ。良い品ならもう一度買ってくれる。良い品と感じるかどうかは買った側の感覚だからな」
そこまで話して、サノスが少し首を傾げた。
サノスがこの仕草をする時は、俺に何か質問がある時だ。
「どうした、何が聞きたい?」
「この話って⋯ 修行の一つですか?」
うっ! 思わず調子に乗って語ってしまった。
まさかそんな疑問がサノスに湧くとは思いもしなかった。
「修行と言えば修行かも知れん。将来、サノスが魔導師になって何で生計を立てるかにもよるが、店を構えたなら商いの知識を手に入れることはサノスの将来に大切なことだろ?」
「確かに師匠の言う通りですね。実は雑貨屋のオバサンに頼まれたんです」
急にサノスが話をずらしてきた。
「何を頼まれたんだ?」
「ハーブティーの種の作り方を教えてくれって⋯」
おいおい、雑貨屋のオバサン。随分と大胆なお願いをサノスにしたな。
「サノスは何て答えたんだ?」
「師匠に相談しますって言いました」
まあ、妥当な返事だな。
それにしても、何で雑貨屋のオバサンは、ハーブティーの種の作り方を知りたいんだ?
「サノス、雑貨屋のオバサンに理由は聞いたのか? そのハーブティーの種の作り方を知りたい理由を聞いたのか?」
「来月の父の日に売りたいみたいですよ?」
おーい。雑貨屋のオバサン。
父の日にハーブティーの種は売れないと思うよぉ~
◆
食後のティータイムを切り上げ、サノスは『魔法円』の模写の続き、俺は2階で『魔鉱石(まこうせき)』への対応に戻ることにした。
作業場に置いてある『魔石指南書』と『勇者の魔石』を作る計画のメモを手に2階へと上がる階段へと向かう。
階段を上がりしなに、台所で洗い物をするサノスに声をかける。
「サノス、これから2階の書斎にこもるから用があればノックしてくれ」
「はい、わかりました」
階段を上がり書斎に入って、書斎机に置かれた母(フェリス)からの小箱に目をやる。
小箱の脇に置いた母(フェリス)からの手紙を改めて読み返す。
ーーー
愛するイチノスへ
以前に伝えたとおりに『魔鉱石(まこうせき)』を送ります。
1つは『エルフの魔石』にしてください。
『エルフの魔石』にすることが出来たならば、早目にコンラッド宛に届けてください。
1つはマイクに贈る『勇者の魔石』を作るのに使ってください。
残る1つは、報酬としてお渡しします。
あなたの母 フェリスより
ーーー
現段階で着手できるのは『エルフの魔石』を作る事だろう。
『エルフの魔石』作りは、今までに何度か経験がある。
最初は魔法学校入学前に、母(フェリス)の手解きで母(フェリス)と共に作り、その場で『魔力切れ』で昏倒した。
もちろん『魔力切れ』からの回復は母(フェリス)がやってくれた。
その後、魔法学校時代には帰省する都度、母(フェリス)が回復役で『エルフの魔石』作りに挑んだ。
帰省する都度の『エルフの魔石』作りは研究所時代も恒例となり、その頃には母(フェリス)の回復役も不要となっていた。
これから挑む『エルフの魔石』作りも、格別に回復役は不要だろう。
俺はそう判断して、棚から母(フェリス)とのやり取りに使う小箱を取り出し書斎机の上に置く。
母(フェリス)から届いた小箱を開き、中から『魔鉱石(まこうせき)』を右手で取り出し指で挟んで観察してみる。
何度見ても『魔鉱石(まこうせき)』は不思議な代物だ。
元が黒い石なのに、手付かずの状態の『魔鉱石(まこうせき)』は不思議な『魔石光(ませきこう)』を発してくる。
『魔石光(ませきこう)』の色合いを確認しようと集中して覗き込むとギラリと光る。
その眩しさに少し目を細めれば、光は治まる。
再び『魔石光(ませきこう)』の具合を見ようとすると、再びギラリと眩しく光り始める。
まるで石の中に意思のある生き物が居るようで、俺が見るのを嫌っているようだ。
だが、この光り具合こそが『魔鉱石(まこうせき)』の持徴だ。
俺は『魔鉱石(まこうせき)』を眺めながら、心静かに自身の体内魔素に意識を移して行く。
体内魔素の存在が掴めたところで、その魔素に『魔鉱石(まこうせき)』を摘まむ右手の指へと移動するように意識する。
体内魔素が『魔鉱石(まこうせき)』の周囲に集まったところで体内魔素に命令する。
『魔鉱石(まこうせき)を包み込め』
命令した途端に、足の先からも体内魔素が『魔鉱石(まこうせき)』へと向かうのがわかる。
俺の体の中を体内魔素が『魔鉱石(まこうせき)』に向かって移動して行くのが、ハッキリとわかる。
体内魔素が『魔鉱石(まこうせき)』に染みて行くのを感じると共に、ギラリギラリと睨むような独特の『魔石光(ませきこう)』が銀色に変わって行く。
『魔鉱石(まこうせき)』が放つ『魔石光(ませきこう)』が、全て鮮やかな銀色に変わったところで体内魔素に命じる。
『止まれ』
すると、それまで『魔鉱石(まこうせき)』に向かっていた体内魔素が動きを止めた。
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