第14話 葛葉ちゃんの仲良し大作戦

 悪魔ちゃんとの同居生活が始まった翌日。

 社畜しに行った成瀬を見送った葛葉ちゃんは、部屋の中を行ったり来たりしていた。


(なかよくなりたいな。……けど、はなしかけづらい……)


 いつもは成瀬が仕事に行っている間は一人ぼっちな葛葉ちゃんだが、今日は違う。

 悪魔ちゃんと二人きりになったことで、緊張して落ち着きを無くす葛葉ちゃん。

 距離を縮めるにはまたとない好機だが、葛葉ちゃんは一歩踏み出せずにいた。


(やっぱり、はなしかけづらい……!)


 悪魔ちゃんはもともと気が強いタイプであり、加えてトゲのある雰囲気をまとっている。

 本人は全く気づいていないが。

 それが理由で、小心者な葛葉ちゃんは話しかけることができずにいた。


 でもそれじゃ、いつまでたっても仲良くなることなど不可能だ。


(ええい! がんばれ、葛葉!)


 仲良くなりたいという気持ちは本心だから。

 葛葉ちゃんは自分に喝を入れてから、思い切って話しかけた。


「あ、あの……!」


「何よ?」


「ひぃ!?」


 そして、盛大にビビった。


(なんでこんなに怖がられてるのよ? ようやく話しかけてもらえたのに、この反応はちょっと傷つくんだけど……)


 内心で不思議がる悪魔ちゃん。

 やはり、自分がとっつきにくい雰囲気をまとっていることには気づいていないみたいだ。


(おこってる……!? 葛葉、なにかわるいことしちゃったの……!?)


 葛葉ちゃんは、悪魔ちゃんのトゲトゲしい態度に不安を抱く。

 お互いに仲良くなりたがってるのに、なぜかすれ違っていた。


「なんの用かしら?」


「えっと……その……」


「おどおどしてないで早く言いなさいよ」


(ひぃぃ!? やっぱりおこってる……!)


 怒られていると思い込んでいる葛葉ちゃんだが、実際には、


(シャキっとしないとカッコ悪いわよ。もっと堂々としなさい)


 悪魔ちゃんは、葛葉ちゃんのためを思って強く言っただけであった。


「えっと……えーっと、あの……お、おと──」


「なんて? もっとハッキリ言ってちょうだい」


「お……お……!」


 葛葉ちゃんは頑張って言葉を絞り出そうとする。

 そう! そのまま「お友達になってください」と言うんだ葛葉ちゃん!


「──おてつだいできることありますか!?」


「急にどうしたのよ……?」


 いきなり意味不明なことを聞かれて、悪魔ちゃんはとまどってしまう。

 某動画サイトでゲーム実況を見ていただけの悪魔ちゃんからすると、「何をどう手伝うの?」状態である。

 困惑するのも無理はない。


「そうね…………じゃあ、これから洗濯物を干すから手伝ってちょうだい」


「っ! わかった!」


 ここぞというところでチキってしまったことを内心で悔しがっていた葛葉ちゃんは、すぐに乗っかった。

 どうやら「共通の目的を一緒に達成することで仲良くなる」作戦に路線変更したようである。


「よーし、干していくわよ」


「らじゃー!」


 ビシッとポーズを決めた葛葉ちゃんは、洗濯ものをハンガーにかけていく。

 それを受け取った悪魔ちゃんは、物干し竿に吊るしていく。

 完ぺきな流れ作業によって、あっという間に洗濯物を干し終わってしまった。


(どうしよう……。なかよくなるまえに終わっちゃった……)


 ならば、もう一度同じ作戦をするまでだ。

 葛葉ちゃんはそう判断した。


「ほかにおてつだいできることある?」


「もうアンタにできることは何もないわ」


 悪魔ちゃんは素っ気なく返す。


(部屋はきれいだし、ご飯は作り置きがあるからね。特にやることはないわ)


 悪魔ちゃんはそのつもりで返したのだが、態度の素っ気なさと葛葉ちゃんの「怒られている」という勘違いが合わさった結果、またもすれ違ってしまった。


「うぐ……ひっぐ……葛葉、やくにたたないの……!?」


「ど、どうしたのよ? なんで泣き出したのよ……?」


 目に大粒の涙を浮かべた葛葉ちゃんを見て、悪魔ちゃんはうろたえてしまう。

 泣き出した理由が全くわからないため、どうするのが正解なのかわからないでいるようだ。


「だって……だって……ずっと葛葉のことおこってるから……」


「……怒ってる? 誰が?」


「あなたが……」


「えっ、私!?」


 悪魔ちゃんは思わず目を見開く。

 勘違いされていることに気づいていない悪魔ちゃんにとっては、まさに青天の霹靂だった。


「葛葉はただなかよくなりたいだけなのに……ひっぐ……えぐっ……葛葉のこときらわないでぇ…………」


 泣きながらそう伝えられて、悪魔ちゃんはハッとした。


(ああ、そういうことね……)


 ようやく勘違いされていたことに気づいた悪魔ちゃんは、葛葉ちゃんの肩にポンっと手を置いた。


「私は怒ってないわよ」


「……ほんと?」


「ホントよ。洗濯物を干すの手伝ってくれてありがとね。助かったわ」


「……じゃあ、葛葉のこときらいになってないの?」


 葛葉ちゃんは恐る恐る尋ねる。

 悪魔ちゃんは優しく頷きながら、言葉を返した。


「勘違いさせて悪かったわね。アンタの思いやりがあるところとか健気なところ、私はいいと思うわよ」


 その言葉を聞いて、葛葉ちゃんの表情が晴れる。

 自然と、これまで言えなかった言葉を口にしていた。


「おともだちに、なってください……!」


「最初からそう言ってればよかったのよ。……いや、私こそ言うべきだったわね。こちらからも、友達になってもらえると嬉しいわ」


 そう言って、悪魔ちゃんは手を差し出した。






◇◇◇◇



「ああ、心配だぁ……」


 今日も今日とて社畜してきた私は、考え事をしながら帰路を歩いていた。


 二人きりで大丈夫かなぁ。

 葛葉ちゃんの人見知りが発動してなければいいんだけど……。


 私の脳裏に浮かんだのは、悪魔ちゃんと葛葉ちゃんの姿。

 悪魔ちゃんはしっかり者なのでそういう面では心配ないけど…………二人が仲良く過ごせているのか気になってしょうがなかった。


 そんな不安を抱きながら、玄関の扉を開ける。

 リビングのほうから、二人の楽しそうな声が聞こえてきた。


 どうやら、杞憂だったみたいだね。

 私は安堵の笑みを浮かべながらリビングに向かう。


「ただいま~」


「あ、かえってきた! おかえり、なるせお姉ちゃん」


「お帰りなさいです、お姉さま!」


「っ!? One more please!もっかいお願い!


「発音めっちゃいいですね。お帰りなさいです、お姉さま」


 聞いた!? お姉さまだって! お姉さま!

 葛葉ちゃんのなるせお姉ちゃん呼びもいいけど、これもアリアリのアリだわ!


 というのは置いといて、悪魔ちゃんとの距離が近くなっているね。

 私に対して丁寧語なのは相変わらずだけど、フランクになったというかなんというか……。

 昨日までは仕事の付き合いって感じの堅苦しい言葉遣いだったのが、柔らかくなっている。


 悪魔ちゃんが素で接してくれるようになったことが、私は嬉しかった。


「二人とも何してたの? 一緒に遊んでたみたいだけど」


「葛葉とおままごとしてました!」


「お姉ちゃんと遊んでた!」


 葛葉ちゃんが悪魔ちゃんのことを「お姉ちゃん」と呼んだことに私はびっくりする。


 ……なんか、変わったな葛葉ちゃん。

 今朝よりも明るくなったというか、自分に自信を持つようになった……いや、持てるようになったというべきか。


 きっと、私がいない間にいろいろあったのだろう。

 子供の成長は早いもんだなぁ。


「お姉さまも参加してくださいよ~」


「いいね、それ。たのしそう! なるせお姉ちゃんもさんかしてほしいな~」


 上目づかいでこちらを見てくる二人がてぇてぇすぎるッ……!

 イエス以外の選択肢はあるわけなかった。


「もちろん参加するよ。なんの役をすればいいのかな?」


 私が参加すると言ったとたんにはしゃぎ出した二人を見ながら、クスリと笑う。

 二人が仲良くなれたことを、私は心の底から嬉しく思うのだった。


「では、妹二人を養うために女手一人で頑張っている働き者の姉役をお願いします」


「設定重すぎない!?」


 おままごとは楽しめました。


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社畜、ケモミミ幼女を拾う。~てぇてぇすぎる狐っ娘との癒され生活が始まりました~ 狐火いりす@『不知火の炎鳥転生』商業化! @The-kitakitune

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