第10話 委員長

 三限目も終わった休み時間。


 リナは無事クラスに溶け込んできたようだ。

 私との(アホすぎる)やり取りが功を奏したらしく、『近づきがたい大人気アイドル』ではなく『付き合いやすい面白い子』と判断されたみたい。


 ふっふっふっ、これもまた計算通り! すべては妹を思うお姉ちゃんの策謀だったのですよ!


「いや天然やろ」


「結果オーライもたいがいにしろって話ですよ」


 親友二人からの大絶賛を聞き流しつつリナと周囲の女子たちへと視線を向ける。



『リナちゃんは今日のお昼どうするの?』

『はい。食堂で戴こうと思っています』

『じゃあ私たちと一緒に食べようよ!』

『ずるい! リナちゃん! 私たちと一緒に食べましょう!』

『え~っと、はい、私で避ければ皆さんと一緒に楽しみたいです』

『リナちゃんはもう部活決めた? 今テニス部は絶賛部員募集中なのよ』

『ちょっと抜け駆けは無しよ! リナちゃん! バレー部で一緒に汗を流さない!?』

『いやリナちゃんは弓道部に入るべきだと思います!』

『え? え~っと、私は仕事があるので、部活はちょっと難しいかもしれません』

『気軽にお休みしていいから!』

『週一でもOKだから!』

『なんなら名前だけでもいいから!』

『え、え~……?』



 複数グループの女子が集まってリナに質問攻め&勧誘合戦をしていた。あれだけの集中砲火を受けて笑顔に綻びの一つもないのだから現役アイドルって凄いわね。


「杏奈やったらそろそろ雷の一つでも落とすところやな」


「意外と短気というか、脳筋ですからね」


 二人からの評価がどうなっているかひじょーに気になるわね。そんな簡単に雷落とさないわよ。……たぶん。


「ちゅうか、双子は別のクラスにするって聞いたことがあるんやけど、その辺どうなっとるんや?」


「それはまぁ、あの学園長が関わっているみたいですし。常識でものを考えても無駄ですよ」


「……あ~、あの学園長やもんなぁ……」


 須賀先生の考えた建前を出すまでもなく咲良ちゃんの評価はストップ安のようだった。是非も無し。


 咲良ちゃんに黙祷を捧げていると隣席の学級委員長・美代ちゃんが椅子を近づけてきた。ちなみにあだ名はそのまま『委員長(いいんちよー)』である。

 三つ編みメガネッ子なのに元気はつらつな印象を与えてくる美少女であり、私の親友その3だ。うちに下宿はしていないのでさすがにハルカや佐那ほど一緒にいるわけじゃないけれど。



「しかしまぁ、テレビで見るたびにそっくりだとは思っていたけど、本物の双子だったのね」


「そうみたいね」


「みたいねって、なんか他人事じゃない?」


「実際他人事っぽい感じだし……。親が離婚したのが小学校の低学年で、それ以来ずっと離ればなれだったもの。そりゃあ戸籍上は姉妹なんだろうけどまだまだ実感は薄いわよね」


 離婚後は私も色々と波瀾万丈だったし。


 正直言って実の母親の顔すらおぼろげで。『アレ』の顔など思い出したくもない。化けて出てきてくれれば容赦なくぶん殴れるのにね。


「あらら、意外と重めの過去があるのね。普段の杏奈からは想像すらできないけど」


「委員長は私のことを何だと思っているのかしら?」


「偉大なる生徒会長にして親愛なるクラスの仲間、そしてもちろん気の置けない親友よ?」


「わーいやったー高評価だーもうちょっと棒読みは押さえてくれませんかね?」


「こんなにイジりやすい――じゃなかった、親しみやすい杏奈の妹さんだからこそみんな気軽に声を掛けられるのよね」


「イジりやすいってあんた」


 はたしてこの委員長が毒舌なだけなのか、はたまた私が毒舌されやすいだけなのか……。佐那のことも考えると私がイジりやすいだけみたいね……。私の親友はどうしてこう……。


 リナと周囲の女子たちを流し目で見てから委員長がため息をついた。


「まぁ、『大人気アイドル』を自分たちのグループに入れたいっていう思惑もあるでしょうけどね。だってそうしたら『スクールカースト』最上位になれるもの」


「なにそれ怖い。女子校怖い」


「それと、部活に誘っているのはリナちゃん目当ての新入部員獲得を狙っているのでしょうね。あ、予算獲得も見据えているかも? 『あの待宵リナが所属している部活』ともなればテレビ取材もありそうだし、学園も見栄えをよくしたいと考えるはずだもの」


「ふふふ、そんな不埒な考えの部活は予算削減してやりましょう生徒会長権限で」


「やめてあげなさいって。……今でこそクラスメイトだけが寄ってきているけど、放課後とかは大変そうね。帰り道なら他のクラスの子も声を掛けやすいだろうし」


 委員長が視線をリナたちから少し離れた場所に移したので私も釣られて目をやる。

 教室の壁際、廊下と繋がる窓には他のクラスメイトたちが集結していて。まぁたぶん全員が『待宵リナ』目当てなのでしょう。他のクラスって入りにくいものね。


 ときどきスマホの撮影音が響いてくるのは有名税かしら? 


「大変そうね~リナちゃんは~」


「ほんと他人事ね。姉妹なんだから少しくらい助けてあげれば?」


「いくら姉妹でも干渉しすぎるのはね。助けを求められたら話は別だけど」


「……リナちゃん、さっきからこっちをチラチラ見ているけど。あれは助けを求めているんじゃないの?」


「ふふふ、きっと私の美少女っぷりが気になってしまうのでしょう。可愛い妹よね」


「最近アホっぷりに拍車がかかってない? ……というか杏奈が姉なの? リナちゃんは自分が姉だって言ってなかった?」


「その辺には仁義なき戦いがあるのよ。具体的にはどちらが姉っぽいかとか、どちらが甘えてどちらが甘やかすのかとか。私は美少女を甘やかすのは大好きだけど! 甘やかされるのは解釈違いなのよ!」


「はいはい。で? 戸籍上はどっちなの?」


「ふふん、分かってないわね委員長。戸籍なんていうお役所仕事で姉妹の真の姿を決めることなんてできないわ」


「つまりリナちゃんが姉だと」


「……私の周り、ツッコミに容赦のない人が多すぎないかしら?」


「そりゃあね。ツッコミスキルBランクくらいないと杏奈のクラスメイトは務まらないし。親友ともなればAランクは必須ね」


「どういうことやねーん」


「雑なツッコミ。ランクEね。不合格」


 手厳しい委員長であった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る