となりの異世界戦記
星一悟
第1話 河童のいる異世界
日本人にとって河童といえば、頭に皿をのせ甲羅を背負った緑色の妖怪であるが、それは日本人の中に今でも髷を結い刀を腰に差した侍がいると誤解するのと同じだ。
河童は成長するにつれ、頭蓋骨の頭頂部分がへこんでいき、成人すると男女とも拳一つ入るくらいの窪みができる。
河童の文化的に、この頭の凹んだ部分を人前に晒すのは恥だとされ、凹みに水を注ぎ、蓋として皿を乗せていた。
背中の甲羅は何か?
それは住処である川に向かって、敵対する人間が飛ばしてくる矢や槍を背中で防ぐため、湾曲した甲羅鎧を着込んでいたのが、記録に残ったからだ。
第二次世界大戦時に、人間と河童とで住み分けていたはずの田舎に大量の市民が疎開しやって来ると、食料問題と人目につくのを恐れた妖怪の先人達が現世を捨て、アシハラシタノトヨネクニつまり幽世(かくりよ)なる異世界に逃げ込んだ。
その後、同じように広大な幽世に逃げ込んだ外国の人外勢力と生存をかけた競り合いが起き、日本妖怪の中で軍隊が結成された。
服飾も変わった。妖怪の文明開化が起きたのだ。
つまり、今は軍服と軍帽だ。
幽世での棲み分けも終わり、人間の世界大戦も終わった後、米国とソ連との冷戦やベトナム戦争など様々な人の世の移り変わりは、新聞からブラウン管テレビに至るまで現世で輸入した物を通じて幽世でも妖怪達の知る所となっていた。
妖怪と人間の適度な交流は続いたが、平成に元号が変わる辺りで互いの世界が断絶してしまった。
昭和まで人里では河童の目撃談があったが、平成以降は聞かなくなったのはこのためである。
結局、河童を中心に幽世に完全に移住した後は、幽世では閉じた平和な世界が続くと思われた。
そこに、世紀末がきた。
突然、天使が降りてきて、妖怪妖魔妖精の人外めがけて無差別虐殺が始まった。
幽世の妖精や亜神らは勇敢に戦ったが、世界は荒廃した。
妖怪たちは地下に逃げ、空から降る厄災から生き延びていた。
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