平清範の事件簿③ 藤沢連続殺人事件

鷹山トシキ

第1話

 平清範 神奈川県警刑事(巡査部長)

 恵子 

 久留里澄江 コピーライター 

 津田沼男 ミステリー作家

 冬木武蔵 澄江の婚約者  

 宇喜多英介 藤沢署刑事

 遊佐瑠璃子 ルポライター

 剣持誠一 暗黒街ボス  

 鉄子 娼婦

 小沼耕太  根来のマネージャー

 根来平次 脚本家

 目黒玲子 根来の女

 冷泉絵美 鉄子の妹

 四条忠次 神奈川県警刑事(警部補)


 新進気鋭ながら世評の高い美貌の女性コピーライター、久留里澄江が、散弾銃で頭を吹き飛ばされた惨殺死体となって自宅で発見された。


 殺人事件の捜査担当刑事である平清範は、文筆家志望の新人であった澄江を引き立てた恩人であるミステリー作家の津田沼男や、澄江の婚約者であった冬木武蔵などに逢い、生前の澄江の交友関係や人となり、コピーライター業界で名を成して行った過程などを調査して行く。


 捜査の中で、澄江を殺す動機のあった者が複数浮上してきたが、決定的な証拠が見付からなかった。悩み疲れた清範は、生前の澄江について深く知るにつれ、いつしか既に亡い澄江に惹かれて行く。


 冬木武蔵は澄江の故郷であり、澄江の死に場所となった神奈川県藤沢市にやって来た。

 住宅・観光・産業・文教都市、景観行政団体。湘南地域の最東端に位置し、全国的に有名な江の島(江ノ島)、片瀬・鵠沼・辻堂海岸を有し観光都市としての性格も併せ持つ。


 湘南海岸の温暖且つ穏やかな気候を求める人々やサーフィンなどマリンスポーツ愛好者など、良好な自然・住・教育環境を求める人等により第二次世界大戦前より人口が増加し続けている。


 東京・横浜のベッドタウンとしての性質が強く、JR、私鉄(小田急・相鉄・江ノ電)、地下鉄(横浜市営地下鉄)、モノレール(湘南モノレール)の駅が存在し、利便性が比較的高い。このため、湘南地域の他市よりも海から遠い内陸部の人口比率が高く、人口は湘南地域最多の約44.1万人となっている。


 江戸時代には鎌倉仏教の一つである時宗総本山である清浄光寺(遊行寺)の門前町として、東海道の6番目の宿場町・藤沢宿、また江ノ島詣の足場として栄え、その姿は歌川広重の東海道五十三次にも描かれている。


 明治時代-第二次世界大戦の間、気候も温暖であることから、南部の鵠沼・片瀬地区は明治時代中期より日本初の計画別荘地として開発され、大正期以降、皇族や政治家、数多くの学者や文化人などが居を構えた事で、別荘地・保養地・避暑地として発達し、芥川龍之介、武者小路実篤、岸田劉生ら多くの文化人の創作活動の場となった。


 第二次世界大戦時は艦船・地上基地のレーダー技術者養成として、海軍電測学校が市内に開かれた。また、航空用電波兵器・光学兵器整備訓練教育を実施する藤沢海軍航空隊が開隊され、藤沢空と電測学校の連携を図った。


 第二次世界大戦後は東京のベッドタウン化が進み人口が急増すると共に、JR(東海道本線、湘南新宿ライン、上野東京ライン)、小田急(江ノ島線)、江ノ電の3つの鉄道が集まる藤沢駅を中心に商業施設が集積している。また、慶應義塾大学(湘南藤沢キャンパス(SFC))をはじめ、湘南工科大学(湘南キャンパス)、多摩大学(湘南キャンパス)、日本大学(湘南キャンパス)を有する文教都市でもある。市民の自主的な文化活動も活発で、1951年(昭和26年)には「藤沢市展」が発足し、1973年(昭和48年)には全国初の市民オペラ「藤沢市民オペラ」が開催され、今日まで続いている。さらに1992年(平成4年)から藤沢オペラコンクールもスタートし、若手オペラ歌手の登竜門に位置づけられるようになった。


 市の南部に位置する鵠沼海岸は、古くより海水浴場が開かれ、現在は片瀬西浜・鵠沼海水浴場として年間来客数300万人を超す日本一の海水浴場として知られ、日本におけるサーフィン(諸説あり)、ビーチバレー発祥の地である。片瀬東浜海水浴場は、明治初期から外国人による海水浴が行われた伝統を持つ。また、江の島は源頼朝祈願により祀られた江ノ島弁財天の参詣地として賑わい、1964年(昭和39年)開催の東京オリンピックではヨット競技会場(湘南港)に選ばれた。

 

 宿に戻り、ニュースを見た。

 📺10月23日 - ボードゲーム「モノポリー」の世界選手権(第11回)で日本代表の岡田豊が優勝。1988年の百田郁夫に続き日本人としては2人目の快挙。


 月日はまたたく間に流れた。


 📺10月27日 - 中川秀直官房長官が、スキャンダル騒動の責任を取り辞任。後任に福田康夫が就任。



 📺10月28日 - 日本シリーズで、長嶋茂雄監督率いる巨人が、王貞治監督率いるダイエーを4勝2敗で下し「ON対決」を制す。


 📺10月29日 - レバノンで開催された、サッカーアジアカップで、日本代表が2大会ぶり2度目の優勝。


 藤沢市に住む津田沼男という男がある日突然、2人の男に射殺された。ルポライター遊佐瑠璃子はこの事件に興味を持ち、津田の身辺を調べ始める。


 その結果、津田は以前ミステリー作家であったが、窃盗罪で3年の懲役刑に服していたことがわかった。その事件を担当した刑事、宇喜多英介の話から、津田は暗黒街の剣持誠一の情婦、鉄子に心ひかれ、その罪をかぶって服役したことが分かった。


 さらに、津田が出所後、剣持らと一緒に宝石店のダイヤ強奪に参加させられたが裏切られ、その腹いせに盗んだ金を全部取って逃げたということも分かった。


 すべては剣持と鉄子の共謀であり、その秘密を知る津田は口封じに殺されたのだった。


 脚本家の根来平次は、仕事に役立てる目的で自宅に連れ帰った女性、目黒英子が根来の家を出た後に首を絞められて殺されたことから殺人事件の容疑者とされる。しかし、向かいの部屋に住む冷泉絵美の証言で根来の疑いが晴れる。これをきっかけに根来と絵美は恋仲になる。 根来の身の回りの世話をするようになった絵美だが、ある出来事をきっかけに根来の凶暴な裏の顔に気付き、彼を疑うようになる。不安から夜も眠れなくなった絵美は根来から逃げ出そうとするが、そこに根来が現れてプロポーズする。絵美は彼を恐れるあまり、プロポーズを断ることができない。


 仲間たちを集めた結婚披露のパーティの場でも根来は些細なことで怒り出し、マネージャーの小沼耕太に暴力を振るう。それを見た絵美は逃げるように家に帰る。絵美の家で根来は彼女に謝罪するが、絵美が自分から逃げ出そうとしていることを知ると、我を忘れた根来は怒りに任せて絵美に襲いかかる。そこに警察から電話がかかる。電話に出た根来は目黒英子殺しの真犯人が被害者の恋人、小沼だったことを知らされる。警察は電話で絵美にも謝罪するが、全ては遅く、根来と絵美の関係は完全に終わる。


 2000年もあと少しで終わろうとしている。

 上司と衝突して刑事を辞職、私立探偵を開業した宇喜多英介が城ヶ島にある剣持の邸宅を訪れる。

 城ヶ島は周囲長約4 km、面積0.99 km2で、神奈川県最大の自然島である。東西幅約1.8 km、南北幅約0.6kmと東西に細長い菱形の地形であり、東西南北にそれぞれ安房ヶ崎(東)、長津呂崎(西)、赤羽根崎(南)、遊ヶ崎(北)という岬がある。長津呂崎には城ヶ島灯台、安房ヶ崎には安房埼灯台が建つ。安房ヶ崎は神奈川県の最南端でもある(北緯 35゜ 7'32)。行政区分は三浦市で、認可地縁団体の城ヶ島区が自治の一部を担う。220世帯604人が暮らす。


 屋敷にはメイドとして雇った姉の鉄子と妹の絵美が住んでいるが、この美しい姉妹は同時に老人の頭痛の種でもあった。剣持は脚本家の根来が絵美に対しバクチの借金の催促の名目で脅迫してきたと探偵に打ち明けて解決を依頼する。剣持の用心棒でお気に入りの平清範は宇喜多とも旧知の仲だが、最近になって賭博師の冬木武蔵の妻と一緒に姿を消しており雲行きがおかしい。契約を交わし帰ろうとする宇喜多を姉の鉄子が引きとめる。館では用心棒だけでなく運転手も消えていたと知る宇喜多。姉は妹と違い相当なしたたか者らしい。


 図書館で古い本の情報を仕込んだ宇喜多は鵠沼に足を運ぶ。正体を隠して根来のアジトを訪問するが本人は不在。応対に出た瑠璃子は客の宇喜多を邪険にして追い払う。暗くなってから帰ってきた根来を尾行すると江ノ島の一軒家にたどり着く。雨の中、別の車がやって来るが、運転していたのは絵美だった。外から窺っていた宇喜多は、銃声と悲鳴を聞くと家の中に走りこむ。裏庭から立ち去る2台の車。家の中には全裸で素足を放り出し酩酊状態の絵美と射殺死体となっている根来。胸像に仕込んだ隠しカメラからはフィルムが抜き取られていた。無人の一軒家、淫靡な隠しカメラ、脅迫者の死体、酩酊した大富豪の娘、他には誰もいない。


 宇喜多は意識の戻らない絵美を彼女の車で剣持邸まで連れ帰ると「何も無かったことにしろ」と鉄子に釘をさす。自分の車を取りに雨の中を歩いて戻ってみると現場からは根来の死体が消えていた。その夜、事務所にいた宇喜多を新人時代からの知り合いである四条忠次刑事が訪れ、剣持家のクルマと運転手が波止場で発見されたと知らせてくれた。運転手の恵子の死体を見に行った宇喜多達は、恵子の死は自殺とも他殺とも判断がつかないと話し合う。


 翌朝、事務所に出勤した宇喜多を待っていた鉄子は、隠しカメラで写した絵美の写真を5000万で買い取るようにとの脅迫状が届いたと相談する。再び根来のアジトを訪問すると、応対に出た瑠璃子の様子から逃走の準備を察知。再び尾行して脅迫者、小沼のアパートを突き止める。

 📷パシャッ!パシャッ!

 辻堂海岸🌊

 もともと辻堂の海岸は広大な砂丘地帯であり、松林が形成されていた。1728年(享保13年)、江戸幕府はこの一帯を相州炮術調練場として砲術鍛練場に定めた。途中で時期は空くものの、明治と大正期には帝国海軍の演習場となっており、第二次大戦後は在日米軍の演習場として使用されていた。


 辻堂海岸は1959年(昭和34年)に米軍から返還されて立ち入り自由となり、再び海水浴客が訪れるようになった。現在、海岸から辻堂駅までの道路である昭和通りは「サーファー通り」と呼ばれ、多くのサーフショップが並ぶ。一年を通してサーフィンの盛んな海岸であり、スポットの内「辻堂正面」は夏季には海水浴場となるため、浴場周辺のサーファーは注意が必要である。また投げ釣り客も多くキスやカレイ、ボラ等が釣れる。


 海岸近くには13軒のおでん屋が入った「湘南クッキングセンター」(通称「おでんセンター」)がある。これは以前に江ノ島で営業していた複数の屋台が、1964年オリンピック開催を前にした1963年(昭和38年)に屋台は美観を損なうとして立ち退きを命じられ、現在の昭和通りに移転してきたものである。

 

 脅迫者との交渉の前に昨夜の惨劇のあった江ノ島に足を向けた宇喜多を絵美が待っていた。二人で事件を検証するため家屋の様子を見て廻る中、家主である冬木武蔵とその子分たちが入ってくる。冬木は婚約者を殺した犯人に復讐するためにチンピラに成り果てていた。宇喜多は自分の正体を隠したまま冬木の様子を窺うが、互いに尻尾をつかませない…。


 脅迫事件に戻って小沼のアパートに乗り込むと、今度は別の男が小沼をナイフで殺してしまう。小沼は犯人を捕まえて警察に引き渡す。

 事件は終わったと、鼻歌を歌う鉄子に宇喜多は納得していない。証拠は無いが、根来と小沼を殺した黒幕は冬木武蔵と睨んでおり、事件を決着させたい剣持家が地方検事にかけた圧力をかわして、冬木とカジノで会う約束を取り付ける。


 カジノの先客である鉄子と冬木の悶着から、逆に二人が裏で取引きをしていると感づいた宇喜多は、車の中で彼女を問い詰めるが頑として口を割らない。鉄子に惹かれている宇喜多は彼女を車の中で抱きしめる。鉄子を送って事務所に戻った宇喜多を冬木の子分たちが襲う。痛めつけた後で手を引けと脅迫して去っていく様子を四条忠次の部下、平清範が見ていた。清範は瑠璃子の命令で、宇喜多に亡くなった根来が盗作した情報を売りにきていた。宇喜多は100万で瑠璃子から情報を買う約束をして、1時間後に待ち合わせする。


 指定場所の事務所に着くと、宇喜多は冬木の部下になった剣持に銃をつきつけられていた。「助かりたければ三つかぞえろ」と瑠璃子の居場所を教えるよう脅され、清範はアパート名と部屋番号を告げる。宇喜多は物陰に隠れ、2人の様子を見ていた。剣持は、清範に酒を飲ませて去っていく。その酒には毒が入っており、清範は絶命する。宇喜多は清範が語ったアパートに連絡してみるが、そこに瑠璃子は住んでいなかった。清範は、嘘をついて姪の瑠璃子を守っていた。


 

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