第6話 静かな対峙

「サマスといったな。全員、逃げて行った」

「お前は見捨てられたんだ」

「人間とはそういうものだ」

「悲しいか、悔しいか、憎いか」

「俺が人間を嫌うのはこういう所だ」

「人間はおろかで傲慢ごうまんだ。そのうえ平気で仲間を裏切る!」

「そんな奴らのためにたたかって何になるというのだ」


だが、予想外の言葉がサマスから返ってきた。

「僕は別に悲しくもないし悔しくもないよ。それに憎いとも感じないよ」

「なんだと!!」

ソーゼスにとっては信じられない言葉が返ってきたから驚かずにはいられない。

「お前を置いてさっさと逃げた言ったのだろ!」

「いわばお前をいけにえにしたのだ、わかっているのか!!」

「どうしてソーゼスが怒ってるの?」

「誰もいなくなったのは僕の方でソーゼスの方は気絶しているだけでしょ」


そうなのだ。サマスが兵士たちに魔物を斬らせなかった。

気絶させてしばらく動けないようにさせたのだ。

兵士たちが逃げたのはソーゼスへの恐怖心とサマスの「斬ったらダメ」という言葉への意思表示だった。

サマスの「斬ったらダメ」という言葉は生死を争う戦いを繰り広げている兵士たちにとって許しがたい言葉なのだ。

魔物とのたたかいを舐めているとしか思えない言葉に王子の言った言葉という事を忘れて感情のままに行動してしまったのだ。

サマスと兵士たちの魔物に対しての接し方が根本的に違うから普段は親しみやすく思っている兵士たちも魔物とのたたかいでは嫌な感情が出てしまう。


「僕は国のみんなが助かるならそれで嬉しいんだよね」

「お前、変わってるな」

「みんなから言われるよ。父上も変わってるっていつも言っているから」

「お前、死ぬのは怖くないのか?」

魔物にしては優しい言葉を言ってくるソーゼス。

「僕も生きて城に戻りたいから怖くないと言ったらうそになるよ」

「でも、たたかいで何も役に立てない僕がみんなの役に立てるんだから怖いという気持ちより嬉しいという思いの方が強いよ」


ソーゼスは話をしていてサマスが変わっていっていると感じてきた。

「俺とお前、倒れるまでたたかいは終わらないからな。覚悟しろ!」

「うん、大丈夫。覚悟はできているから」

「今まで俺の元へ来たやつでお前ほどの覚悟を持ってきたやつはいなかった。」

「お前となら本気でやれそうだ」

「本気になるの?」

「ああ、怖気おじけづいたか」

「ううん、違うよ」

「こんな弱い僕に本気になってくれるのが嬉しいんだ」

「俺の思う所、お前は弱くない」

「ありがとう」

今からたたかおうとしている穏やかに話をしている二人。


ソーゼスとの戦いでサマスの心にある何かが変わろうとしている。

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