Earp yuo sea〜Casual daily life〜
月城 亜希人
第1話 アープの嫁入り(1)
初秋の穏やかな
そんな有り触れた昼時——。
メリせーナ大陸西南端の街アルネス。巨大な防壁に囲まれた海にほど近いその街の門から、大勢の冒険者や出店で賑わう街の中心へ向かい辻馬車が勢い良く駆けていく。
それもまた
「こら! アープ! お座り! 危ないから!」
「デネブ兄様ー! 見てくださいー! 凄いのですー! あ――」
純白の婚礼用衣装を
まだ街外れから田畑広がる郊外に差し掛かったところとはいえ、それでも大通り。
道行く冒険者たちが何事かと足を止めて見つめる中、馬を
「言わんこっちゃない! どうするんだ⁉ それ借り物だぞ⁉」
「わふー、デネブ兄様ー、そこは『大丈夫か?』って心配から始めるのが正しい兄妹の形ですよー?」
御者台から伺うようにして見ている赤の他人(山高帽を被り背広を着た中年の御者)ですら心配そうにしている中で、デネブはまったくそんな様子を見せない。もういい加減にしてくれと言いたげな顔で溜め息を
そんな二人の兄妹の元へ、辻馬車から降りてきた人族の若い女性、ミチルが歩み寄ってくる。短い黒髪で、小柄で
ミチルはギルド職員の証とも言える、大きな襟付きの制服にかかった埃を軽く手で払い
「大丈夫ですか?」
「ほらー、デネブ兄様ー。ミチルさんを見習ってくださいー」
「お前こそ『大丈夫です。ありがとうございます』から言わないと駄目だろう。すいません、ミチルさん、アープは世間知らずなもので」
頭を下げるデネブに、ミチルは「いえいえ」と体の前に小さく出した両手を軽く振りながら、恐縮した様子でかぶりを振る。
「興奮しちゃったんですよ。仕方ありません。取り
「わ、わふ」
ミチルから殺気のようなものが
三人が辻馬車に戻り、扉を閉めると、御者が手慣れた様子で栗毛の馬に向かって軽く鞭を振るった。
パシーンという鞭の音を合図に、カラカラゴトゴトという車輪の音と、パカパカと馬の蹄が地を鳴らす音が車内に響く。
石造りの建築物の建ち並ぶ繁華街と雑踏、住宅街、あばら家の並ぶ
おのぼりさんな兄妹が
間もなく馬が
「はい、ここが皆さんの住む家ですよ」
ミチルがにこやかに笑んで言った。青々とした生垣に囲まれた、こじんまりとした木造の洋風建築。
青い塗装がところどころ剥げていて年季を感じさせるが、ミチルの注文によって既に内装リフォームは済んでいる。外装は急な脅しのような注文だった為に建築業者が泡を吹いて倒れてしまい間に合わなかったというだけだ。
庭とテラス付きで、このアルネスの街の中流層では一般的なものだが、これまで遊牧生活を営んでいたアープとデネブは感動した。
生まれてから今に至るまで、術で
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