砂糖

てにめ

第1話

『ごめん、○○のこと嫌いになったわけじゃないんだけど別れてほしい』


夏休みの最終日、彼女にラインでこう告げられた。


若干予測していたことはあったが、あまりに衝撃だった。


『ちょっと電話していい?』


彼女の言葉を聞いてみたかった。


『ちょっとだけならいいよ』


「もしもし?」


「もしもし」


「…」


しばらく黙ってしまった。


「ごめん」


なぜか謝られた。


自分も聞きたいことがようやく思い浮かんだ。


「あの…なんで…なのかな~?」


「ん~…別に○○のこと嫌いになったわけじゃないから、ごめん」


曖昧な聞き方をしたせいか、答えたくないのかわからないが、があやふやにされた。


「でも○○に告白されたときは嬉しかった」


たったそれだけ…2か月も付き合っていたのに…


「…」


また黙ってしまった。


彼女はもう心を決めたようだった。


別れを告げられた方の気持ちを思い、次の言葉を待ってくれている優しさが電話越しでも伝わってきた。


これ以上待たせるわけにはいかないと思い、言葉を発した。


「う~ん…夏休み中全然会えなかったし、ラインも全然してなかったからね。もっと会えたら…」


本当にそれが原因なのかは分からない。


涙が出そうになり、話すことをやめた。


「ごめん」


また謝らせてしまった。


「…」


「じゃあ本当にごめん。そしてありがとう。バイバイ。」


「あっ、バイバイ」


食い気味で電話を切られた。


「○○~!塾行くよ~!」


母が呼んでいる。


あっという間に時間がたっていた。


今までで一番短い8分間だった。




「ただいま」


塾から帰ってきた。


授業中もずっと気持ちが上の空だった。


どっと疲れて、何も考えることが出来なかった。


塾に行っている間に彼女の気持ちが変わっていないか期待して、ラインを開いたが誰も自分に連絡をしていなかった。





 夏休みの宿題が終わっていないのに全く手がつかない。


孤独感に対抗するため、無心でテレビをみていた。


だが時間は一瞬で1時間、2時間と進んでいき、気が付くと午前2時を過ぎていた。


宿題の終わらない焦りと、寂しさが同時に襲ってきた。


何が原因だったのだろう、自分の何がいけなかったのだろう。





 4時を回ると、いよいよ焦りはピークになり心は陥没しそうだった。


頭が回らず数学が全く解けない。


答えを写すしかなかった。


屈辱感も相まって、さらにしんどくなった。


しんどすぎて、無意識に素振り用の竹刀を床に叩きつけた。


まるで家に強盗が入ってきたみたいだったろう。


我に返り、机に向かって宿題を片付けた。


そして、机に突っ伏して眠り込んでしまった。

   

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砂糖 てにめ @tnm-0306

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