突撃取材!学園都市

いつきのひと

突撃取材!学園都市

 本誌は以前より『あの人』を打ち倒した英雄の今を追い求めていた。

 あれから既に十数年。真っ当に生きていれば魔法学園への入学適齢である。


 関係各所に問い合わせたところ、去年から学園都市のひとつに入学している事を我々は突き止めることに成功した。

 彼が英雄であるという事は周知の事実。一体どんな学園生活を送っているのだろうか。


 我々は取材を申し入れたが許可されなかった。学園都市に入ることはできたものの、学園理事会の返答には取りつく島もない。

 滞在期間中に彼とは直接話すことは叶わなかったが、偶然にも彼を指導する教師と彼の同級生とのコンタクトをとることができた。

 本記事はその二人とのインタビューを書き起こしたものである。



――今日はよろしくお願いします。

学園教師(以下先生):よろしくお願いします。

アサヒ・タダノさん(以下A):はい、よろしくお願いします。


――まずはお二人の学園での所属を教えてください。

A:特別学級の出席番号5番です。

先生:僕は彼女達の特別学級の担任を任されています。


――おお、言えるんだねえ。Aちゃん、よくできました。えらいね。

A:すみません。その言い方止めて貰っていいですか。なんかバカにされてるようで気分が悪いです。


――おっと、失礼しました。それで、特別、ということはAさんは位の高い身分の家にお生まれになられたのでしょうか。

A:え、そこから? あ、はい、わかりました。えっと、特別学級は特待生ではなく、協調性が無いとか悪い魔法使いに狙われていたりして問題があったり面倒な境遇を持った生徒が集められるクラスです。普通の学校でいうとこの特別支援学級とかなかよし学級とかあの辺だと思います。


――Aさん自身が、その、特別学級に振り分けられた理由とは?

A:学園都市に来る列車でちょっと魔法使って他人に怪我をさせてしまったので、多分それです。


――人を傷つけることに躊躇いがなかった、と。

A:先にやったのはあっちです。やり返しただけです。初めて買ったお弁当だったのに。



 記者の前に現れた同級生は、隣に座る教師とは親子かと思うほど幼い少女だった。

 小さいながら大人と同様の対応を求めるなど微笑ましい。周りとの差を気にするなど、なかなか難しい年頃のようだった。

 だが、見た目に見合わずその経歴は非常に恐ろしい。なんでも入学前から今も断続的にトラブルを起こしているという。



――特別学級の生徒達についてお聞きします。問題が多いメンバーが揃っていると仰いましたが、具体的に教えて頂けますでしょうか。

A:先生、これプライバシー保護のナントカじゃないですか?

先生:そうですね。すみません、回答は控えさせてください。


――そこをなんとか。生徒間の仲が悪いとか、見境なく暴走するせいで周囲に迷惑がかかるとか、そんな程度で構いませんので。

先生:校則を破ったり等は他のクラスに比べ多いですが、決して精神的に大きく異なっていたり、人間性に問題があるわけではありません。彼らをちゃんと理解した上で悪いほうに向かぬよう導くのが僕の仕事と考えます。


――学級では最年少かつ体格も一番小さいということですが、Aさんはクラスのマスコット的な立ち位置に居るんでしょうか。

先生:いえ、学級のまとめ役をして頂いてます。

A:先生、この人わたし達の事知ってませんか?


――選任したのは先生ですか? それとも立候補?

A:喧嘩を止めたり話を聞いてあげたりしてたらいつの間にかそうなってました。


――同級生、それも年上をまとめるのは大変じゃないですか?

A:皆わたしの話を聞いてくれるので気になりません。

先生:僕にとっては初めてのクラスなので、彼女にはいつも助けられています。



 もし気を害すれば一番手が負えないのは彼女であろうとは予想ができた。

 子供の癇癪はとにかく手がつけられない。記者の今年三歳になる息子がそうだ。理由を語らずとにかく泣き喚いて暴れ出す。考えてみれば、彼女がその若さで学園に預けられる理由にも紐づくだろう。十中八九、無垢な感情による魔法の暴走があったに違いない。


 この後もいくつかの質問をしてから、記者は本題に入ることにした。



――名前を言ってはならない『あの人』はご存知かと思われますが、あの人を打ち倒した彼が在籍していると聞いておりますが(ここで教師に質問を遮られる)

先生:生徒の個人的な事情になるのでお話できません。


――彼の普段の学習や生活の態度などお聞きしたかったのですが…

先生:同じことを何度も言うようですが、個人のプライバシーに触れる質問には答えられません。


――ええと、じゃあ、Aさんから見た彼はどうでしょうか。頼りがいがあるとか、魅力的に見えるとか、格好いいとか。なんなら彼氏にしたいとか。

A:友人としてなら良い関係でいますけど、そういったものは特に何も感じません。


――それはAさんが彼の隣に立つには身分不相応と思っているからでしょうか。まだまだこれからですし、チャンスは十分にあるんじゃないかと思うんですが。

A:クロード君、この間わたしにプレゼントしたい物があるって言うから貰ったんです。希少なハチミツだって言うから貰って部屋で開けてみて驚かされました。何だったと思いますか? スズメバチの巣が一個丸ごとです。それも中の蜂さんも幼虫も全部そのまま入ってたんですよ。こんなに度が過ぎた悪戯するような人に恋愛感情持つと思いますか。思いませんよね!?


――いや、それもまあ、幼いながらの愛情表現ということで許容してあげるのが女性なのでは?

A:あの人わたしより年上です。それが悪ガキ同然の悪戯ですよ。無理です無理。もし世界の人間がわたしとクロード君の二人だけになっても吊り橋効果で恋愛感情が湧くなんて絶対ありません。



 英雄の彼は皆の憧れの的かと思えたのだが、特別学級の委員長はとても手厳しい。

 Aさんはなんだかんだと言ってはいるけれど、裏を返せば彼のことをよく見ているということだ。きっと彼女なりの照れ隠しなのだろう。



――さて、ここから先の質問は答えたくなければ答えなくても構いません。学園の環境についてです。理事長の改革による体制の見直しから十年あまりで学園の空気は大きく変わりました。自由な校風を求め校則を緩めたところ、それすらも違反する生徒が多いそうです。さらにここ最近は軽微な違反の多発に留まらず、停学や退学などが増加傾向にあると聞いています。Aさんは、学園の風紀が乱れていると感じますか?

A:勉強や教室の空気に馴染めずに学園を去るだなんてよくある話だと思います。特に悪くなったとは感じません。


――ちなみに、Aさんは何か違反をしてしまった事はありますでしょうか?

A:先生や大人の許可なしで魔法使いじゃない人に魔法使って逮捕されたことがあります。


――どうしてそんなことを。

A:使わないとその人達が死んじゃうと思いました。


――ちょっと先生へ。Aさんの判断についてお聞きします。

先生:特例で罰を免除したのでは規則の意味がなくなります。ですが、命の危険からの逃避のようにやむを得ない事情や人命救助など褒められていい行動を全て違反の一言で伏すのが正当な評価とは言いづらい。残念ながら経歴に傷はついていますけれど、Aさんはその汚名を拭えるだけの善い行いができる子だと思います。


――彼女の無断魔法使用は間違いではなかったという認識ということでよろしいでしょうか。

先生:結果として魔法による死者が出る最悪の形にならなかっただけであり、最善、最良であったかどうかは判断しかねます。悪く言えば独断ですが、あれは自分の意思を持っての行動です。あの判断は同じ場にいながら選択を誤って身の危険を晒し、それを救いたいと願った彼女に魔法を使わせてしまった僕の至らなさでもあります。


――教育者として甘くありませんか。そのような付き合い方をしたのでは子供に舐められますよ?

先生:特別学級というだけで偏見に晒され蔑まれるんです。僕が褒めずにいてどうするんですか。


――『あの人』は今もどこかに隠れて復讐の機会を狙っています。そのように甘い考えでいて、学園に襲撃があった場合対処できるんですか。

先生:学園のセキュリティであれば問題はないという認識でいます。


――治安のよくない現状で十分対処ができていると思うのは見積もりが甘すぎます。彼は魔法使いの未来にとって大事な存在です。我々の財産です。もし彼に万が一のことがあったら責任はとれるんですか?

先生:それは彼に限りません。Aさんも、特別学級の皆も、他のクラスの生徒達も、全員が宝物です。誰か一人が特別なのではありません。全員が特別なんです。自由にさせていれば問題も起きますし怪我もしますが、それを恐れていたのでは何もできません。体験を通して人は学ぶんです。大事にしたいというお気持ちは痛い程理解できます。ですが彼らを預かっているのは我々だ。そこは信じて頂きたい。




 こちらの時間の都合であまり長くは話せなかったが、彼の今を知るという当初の目的はおおむね達成された。

 親を失っていながらも、彼は特別待遇は受けず、普通の子供として扱われているようだった。


 問題のある生徒を厳しく躾けて道を正すのではなく、あくまで生徒の主体性を尊重すると教師は口にした。

 それが果たしてどのような結果を結ぶのか、本誌はこれからも見守り続けたい。

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