王宮ドライブ
KeI
第1話 採用
「え、運転ですか。車を?」
ニコラは驚いた。
見たこともない乗り物から降りてきた男にいきなり質問されたからだ。
「そうだ。したことはあるか」
目の前にいる男は背が高く体全体が筋肉でひきしまっていて、長い髪の毛は腰の高さまであり1本に結ばれている。顔は厳ついが雰囲気は紳士そのものだった。
「ないっす」
ニコラは持ってた鍬を肩から下ろしながら答えた。
とうもろこし畑の間から風が通り抜け、男の髪を揺らした。寒冷期を超えたヴォワ村は暖かくなりはじめ、農地一帯に心地よい風が吹いている。
「正直、いま初めて車っつーの見ました」
「そうか。では見てどうだ」
ニコラは男の後ろにある乗り物を眺めた。
長方形の箱の上に窓が取り付けられ、前方には丸い電球が2つ飛び出している。よく見ると2つの電球の間に見慣れた紋章があった。
「どうだって言われても、、、これ動くんですか?」
”王宮の奴が一体何の用だ”と思いながらニコラは聞いた。
「当然だろ、ここに来るとき見てただろ」
確かにそうだ。ニコラは男の真意を掴めないでいた。
ただ、見慣れない乗り物の艶やかな輝きやそのフォルムに徐々に興味を惹かれていた。そして少し前から気になっていたことを尋ねた。
「うしろに乗っている2人は誰ですか?」
「お前と同じ候補者だ。お前も一緒に来てもらう」
「は?」
ニコラが呆気に取られていると男はニコラの二の腕をつかみ、強引に車に乗せた。
「え、ちょっと、、、」
「詳しいことは後で話す。時間がないんだ」
車は少し震えたあと猛スピード走り出した。そして村を出ると王宮の方へ向かった。ニコラは色々聞きたいことがあったが、窓から見える景色や男が動かす道具にすっかり見とれてしまっていた。
城に着き車を小屋の倉庫に入れると男は部屋から様々な道具を取り出してきた。
「というわけで、今から採用試験を行う」
「どういうわけで!?」
男はニコラの反応を意に介さず試験の内容を話し続ける。他の二人の候補者も訳が分からないという表情をしている。ただ王宮に勤めることになるらしいことは理解できたため、説明が終わる頃には3人とも目の色が輝きだしていた。
「じゃあ、始めるぞ」
そして、いくつかの体力テストとペーパーテストが終わり、いよいよ最後の試験になったとき、ニコラは改めて男に聞いた。
「そろそろ何の採用試験か教えてくださいよ」
「運転手だ」
「運転手?」
「そうだ、訳あって俺以外に王宮専属の運転手がもう一人必要となった」
すぐに3人とも倉庫を振り返った。ニコラは沸きあがる興奮を抑えるために深呼吸をした。
「さぁ、試験をつづけるぞ」
「疲れたーーー!!」
試験が終わるころには日はすっかり暮れていた。
「お疲れ、送るからみんな車に乗れ」
帰りの道中は皆疲れて眠っていた。
肩をたたかれ起きたらもうすでにヴォア村に着いていた。
「ありがとうございます」
とだけ言い、ニコラは家に戻ると泥のように熟睡した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、王宮の使用人が家に来て、ニコラに手紙を渡した。
そこには汚い字で大きく‶採用″とだけ書かれていて、右下には小さくサインがしてあった。
「詳しいことは今日の午後に城に来ていただければ担当の方から話します」
といい使用人は帰っていった。
ニコラは時間を忘れて手紙をじっと眺めていた。
王宮ドライブ KeI @KeI1537
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。王宮ドライブの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます