空に生きたい

高野真

いち

「奥様の余命はもって半年です」

妻の担当医にそうはっきりと言われた。

私は何も考えることができなかったのを覚えている。

病室に行き、妻の顔を見る。妻はベッドの上で眠っていた。

妻にはどう伝えたらいいのだろうか。そう考えていると妻が目を覚まし、私を見て言った。

「あなた。来てくれていたのね」

妻は笑顔で私に語りかけてくれた。

「あぁ、お見舞いに来たよ」

私は妻が体を起こすのを手伝いながら答えた。

「いつもありがとう」

「気にするな。元気になることだけ考えればいい」

私は妻にそう答えた。

「あなた。私になにか隠してることない?もしかして私の病気のことじゃない?」

私は妻の言葉に驚いてしまった。

「何も隠してなんかいないよ」

なぜ妻はわかったのだろう。私は動揺してしまった。

「やっぱりなにか隠してるのね。長年夫婦やってるんだからなんとなくわかっちゃうのよね。私、長くは生きられないのね」

妻の質問にその時の私は答えることができなかった。 


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結局妻には余命宣告がバレてしまった。

妻が望んだ事は自分の家で最後を過ごしたいということだった。

勿論私は反対したが最後は妻の気持ちに折れ我が家で余生を過ごすことで決まってしまった。

それから妻と2人で歩く散歩が日課になった。というのも妻が少しでもいろんな風景を見ておきたいというので私も付き合うことになった。ただ妻の体調の問題もあるので行けない時もあるがそれでもできる限り2人で散歩に出た。 

そんなとき私と妻は不思議な少年を見かけるようになった。

ある時は公園のちょっと高くなっている丘の上にいたり、ある時は川の土手にいる。

ただいつも少年は空を見上げているだけで他の子どもたちのように遊んでいるわけではなくただただ空を見上げているだけ。

私と妻はその子のことが気になり、ある時は声をかけてしまった。


「君はなぜ空ばかり眺めているんだい?なにか面白いものでも見えるのかな?」


今思えばいきなり知らない大人に話しかけられたのだからびっくりしただろう。

しかし少年は全く気にした様子もなく私達の問いに答えてくれた。


「僕が空を見ているのはね僕が空に生きたいからなんだよ」



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