第17話 無理矢理作った教室に入る理由

『僕らが保健室出身のワケ』17話

田島先生と花岡美咲の母は保健室で話すことになった。

田島先生は花岡さんの母にお茶を出した。

花岡さんの母はお茶をひと口飲み、話し始めた。

『こんなこと初めてではないんです。今までも好きな音楽を好きになりすぎて、共感と言いますか、それで何というか自傷行為に走ったことがあるんです。その時は傷も浅くて、すぐ処置して大丈夫だったんですけど、今回は娘がどうなってしまうのか怖いんです。今まで笑ってくれていたあの子が塞ぎ込むように学校に保健室に行くことも友達と遊ぶこともないあの子のことが、心配でなりません。どうしたらいいんでしょうか?田島先生』

田島先生は言った。

『美咲さんは保健室ではよく橋本京香さんという子と一緒にいて、よく遊びや連絡をとっていたそうですよ。でも、いきなり連絡もつかず心配していました。もしかしたら、あの日ダイゴくんの歌を聞いて何か共感とは違う何かを感じてしまったのかもしれません。美咲さんと直接話せたら1番いいのですが...』

すると美咲さんの母が言った。

『妹なら姉と話せるかもしれません。仲がいいので』

すると美咲さんの母は妹に姉と話せるかLINEをした。妹は姉と話せるよと言って、なぜ塞ぎ込んでいるのか姉に尋ねたそうだ。

すると妹を返して姉からの返信が来たのだった。それを花岡さんの母が田島先生に見せたのだった。

そこにはこう書かれていた。

『私はダイゴのコンサートを見て、感動した。私も夢を持てたら叶えられるのかなって思った。でも、周りはみんな夢を叶えている途中の人ばかりで、私は夢すら持ててないことに気づいた。ダイゴも久郷くんも山川先輩も京香もみんな夢を叶える途中にいて、私だけひとりぼっちだった。人と比べてもいいことはないけど、保健室で出会った友達はみんな夢の塊みたいでもう会いたくないのが正直なところ。私、もう保健室行くのやめる。ちゃんと学校行くから保健室には立ち寄らない』

それを見て、田島先生は少し考えてから言った。

『きっと、いっぱいいっぱい考えたんだと思いますよ。どうしたら1番自分も相手も傷つけずに学校に通えるか。美咲さんの中での選択肢は、きっと3つあったと思いますね。ひとつは周りと比べながら保健室登校を続ける、もうひとつは保健室登校をやめて学校に行く、最後はこの学校を辞めて違う学校に行くだったと思います。お母さん...美咲さんが決めたこと尊重してあげて下さい。責めないであげてください。あの子にもあの子の考え方がありますから』

花岡さんの母は田島先生にありがとうございますと言って帰っていった。

田島先生は深く息を吸って、吐いて少し開いている校庭側の窓に向かって言った。

『そこに隠れているのは誰かな?』

出て来たのは山川連司と橋本京香だった。

2人は少し笑ってごめんなさいと謝った。

山川連司が口を開いた。

『もう、美咲には会えないのかな。俺らのこと見つけても、もう笑い返してくれないのかな』

橋本京香は言った。

『友達の糸は切れちゃうのかな。もう放課後一緒に話していた時間もなくなるのかな』

田島先生は2人の肩をそっと触り言った。

『変わるか変わらないかは花岡さん自身にしか分からない。私たちはいつも通り接すればいいだけだと思うよ。そんな深く考えないであげてね』

2人はうんと返事をした。

次の話は花岡美咲さんが2ヶ月ぶりに学校に来て教室で授業を受けて、その後保健室組との接し方がどうなったかの話である。

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