決意と心変わり その1

 それからは一進一退の攻防が繰り広げられた。



「はぁっ!」


 エバンから繰り出される巧みな剣裁き。



「まだまだ甘いね」


 それを最小限の動きでかわしていくミネルヴァ。



 流石ミネルヴァさん。エバンの攻撃をものともしていない。



「ほら、ここ」


「っ!」


 エバンが打ち出した攻撃の一瞬のすきを見て、ミネルヴァがカウンターを仕掛けるといったように、ミネルヴァ有利で試合が続いていく。



「だけど……エバンがここまでミネルヴァさんと撃ち合えるようになっていただなんて」



 エバンが強くなったのは知っていた。


 暇さえあれば腕磨きをしていたし、素人目から見ても、剣を使う際の凄味が前よりも上がっていたから。


 何より、最後にステータスを鑑定してから期間が空いたし、会場襲撃事件で良くも悪くも技術を磨く羽目になってしまったからな。



 当初のアルスの想定を上回るエバンの成長速度。


 死ぬ気で訓練に励み、寝る間を惜しんで体を鍛え続けたとしても、短期間でここまでの成長をする者は中々いないだろう。



 それにしても……


 汗を流しながらミネルヴァに果敢に向かっていくエバンを見るアルス。



 服の上から浮き出る非常にバランスの良い筋肉。それでいて、皆を魅了する容姿に背中から伝わる強者特有のオーラ。


 食事を満足にとれず、ガリガリにやせ細っていた頃の面影はもうない。



 今のエバンに一対一で勝てる奴は王国中を見渡しても、ほんの一部しかいないだろうな。



 既に強者と呼ばれる域にまで達したエバン。


 戦場に出したものなら、一騎当千の働きをしてくれるだろう。



 だけど……


 アルスはもう一人の人物へと顔を向ける。


 真っ赤な髪を揺らし、口の端を釣り上げながらエバンと死闘とも言える戦闘を繰り広げている女性。



【ミネルヴァ・バンデスト】


 別名、炎の魔女。



「こんなものかい!」


「くっ」


 彼女の槍の軌道はまさしく飛び回る蜂のよう。直線や弧を描き、自由自在にフィールドを暴れまわり、エバンの腕や肩、そして顔などに浅い傷を残していく。


 先ほどまでは辛うじて攻撃を受け流していたエバンであったが、いつの間にか受けきれずに食らった傷が目立ってきた。



 分かる者が見れば、今がどんな状況で、ミネルヴァさんが何を考えているのか。エバンは何を狙っているのかが分かるのかもしれない。


 しかし、戦闘に関してはゲームで知った事以上の知識を持ち合わせていない俺からしたら、二人がどんな領域で剣と槍を重ね合わせているのか本当に簡単な表面部分しか分からない。



 二人が見ている世界についていけないアルス。


 いや、この場にいる兵たちですらついていけていないだろう。


 その証拠に、複数の兵たちが息をするのを忘れたかのように口を小さく開き、目の前の光景に没頭している様子も伺える。



 それからはエバンにとって苦しい試合展開が続いた。


 徐々に傷が増え、満足に体が動かせなくなっていくエバン。


 そんなエバンに一瞬の隙も与えず、一手一手、丁寧に試合を運んでいくミネルヴァ。



「はぁ、はぁ、はぁ」


 尋常ではない量の汗を掻き、ミネルヴァの攻撃を耐えているエバンに対し。



「こんなものかい!」


 呼吸は乱しているものの、傷を一切負っていないミネルヴァ。



 これは勝負あったか。


 アルスがそう判断したのも束の間。


 エバンがフィールドの端に追いやられ、ミネルヴァが物凄い手数でエバンを圧倒し始めた時。



「……参りました」


 エバンが片手をあげ、降参の意志を見せた所で試合は終了した。



「ふぅ……、中々やるようになったじゃないか」


「やはり、ミネルヴァさんは強いですね」


「ふふっ、まだエバンなんかに負けるつもりはないよ」


「いえ、いつかは勝って見せます。そういえば、あの時の行動は……」


 二人は笑顔を見せながら、試合の反省点を語り合い始める。



 試合は終わったようだけど……勝手に二人で反省会を始めちゃったよ。



「あっ、そうだ」 


 そんな最中。アルスは思い出したかのように内ポケットに手を伸ばし。



 二人がどれだけ成長したか確認しなくちゃな。


 鑑定眼鏡を手にする。


 そして、鑑定眼鏡をかけ、エバンを見る。

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