決着と一瞬の出来事 その1
~エバン視点~
「凄い……」
漏れ出る言葉に気づかないまま、目の前で繰り広げられる戦闘に熱中していく。
今何回攻撃をした? 3回……いや、4回は突き刺しをしていたはずだ。
目では追えないほどの素早い刺突。
サリアナは左手を腰につけ、独特なステップを踏みながら白銀の戦士へと攻め立てる。
手首のスナップにより繰り出される変幻自在の突き。そこへ腕の収縮運動が加わった瞬間に起こる、目にもとまらぬ速さの刺突。
そんな恐ろしいほど難易度の高い技を一瞬にして何度も繰り出すその技術は、称賛に価する程の価値がある。
エバンはサリアナから視線を外し、相対する相手。白銀の戦士へと目を向ける。
……相手も恐るべき実力の持ち主だ。
今は被り物のせいで素顔は明かされていないが、恐らく、名の知れた剣豪。
サリアナは究極の攻めに対し、白銀の戦士は後の先をいく、究極のカウンター型。
相手の攻撃を最小限の動きでかわし、防御への体制が間に合わない瞬間を狙う、隙を伺うスタイル。
もし、軽い攻撃を繰り出し、隙を見せたのならば、そこへ正確な一撃が飛んでくるだろう。
皆が見守る中、サリアナの攻撃は止むことを知らず、数分が経過する。
全力の私だったら何分……いや、何秒持たせることが出来ただろう。
サリアナ様の無慈悲なる刺突。白銀の戦士の正確なカウンター。
どちらも恐ろしい技を持つ、圧倒的強者。
一向に勝負がつきそうにない二人の勝負をただ、真剣に観戦する。
「どうだ? 凄いだろ?」
「ガイル様……」
そこへ、体力を回復させたであろうガイルが近づいてくる。
アルス様はキルク王子の膝でゆっくりと寝ている。敵側もこちらに興味を無くしたかようにあの二人の戦闘を見守っているからやる事が無くなってこちらへいらしたのだろう。
もちろん、辺りを警戒しながらいつ、どんな時でもアルスとキルクを守れる体勢を整えつつの行動。
まったく……この人には隙すら無いのか。
エバンはチラッとアルスへと目を向け、気持ちよさそうに寝ている事を確認する。
「サリアナは王国内じゃ敵なしの化け物だ。もちろん、俺が戦ったらいい勝負になるけどな」
……あのガイル様が勝てるとは断言しない相手。
サリアナの評価を最大にするエバン。
「そんなサリアナ相手にあそこまで張り合ってるあいつは何者だ?」
ガイルは怪訝な顔で白銀の戦士を見る。
それは私も思った事だ。
王国は広いようで狭い。
何処かで活躍した。または実力が認められでもしたら、簡単に名声が伴い始め、いつの間にか王国で名の知れた人物になる事が多い。
「……カウンター型の剣使い。サリアナといい勝負出来るぐらいってなると……」
エバンの脇でガイルが何やら考え込み始める。
私は王国内の強者の名前はおろか、まだ知らないことが多い。
「まだまだガイル様どころか、あの領域で渡り合うことすら遠い未来の話だな……」
エバンは薄っすら笑みを浮かべ、まだまだ自分より上がいる。自分はもっと先に行けると言わんばかりに闘志を燃やす。
そんなエバンがやる気に満ち溢れている時……
ワァー!
相手側から歓声が上がる。
な、なんだ?
エバンは突然の事に驚きながら、戦闘中の二人に注目する。
「あ、あれは……」
エバンが白銀の戦士、サリアナという順番で姿を確認した時、サリアナにある異変が起こっている事に気が付く。
サリアナ様の顔に傷が……
つぅ……
「……血なんて久しぶりに流したよ」
右頬に斜めに入った線にそり、血が玉の様に吹き出て、地面へとポタポタ滴る。
垂れた血を見ながらサリアナは傷ついた箇所へと手をのばし、斜めに入った傷に沿ってスライドさせるように血を拭きとると、それを見て、ニコッと笑みを浮かべる。
「……笑ってる?」
エバンはサリアナの変化に戸惑う。
「あいつ。やっちまったな」
すると、そのサリアナの変化を見て、あちゃーっといった様子で天を仰ぐガイル。
「やってしまった……とは?」
その言葉に食いつくエバン。
「そのまんまの意味さ」
ガイル様は憐みの目で白銀の戦士を見ていた。あれは何というか、白銀の戦士がサリアナ様を怒らせてしまったというような。
外野の事は露知らず、白銀の戦士はサリアナへと視線を合わし。
「……すぐに大量の血を見る事になる」
挑戦的な言葉を突きつける。
「へぇ……それは楽しみだ」
白銀の戦士の一言に更に好戦的な笑みを深めるサリアナ。
「じゃあ、もうちょっと本気。見せないとね」
そして、サリアナが意味深な言葉を吐いた瞬間に……
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