女傑と白銀の戦士 その1

~エバン視点~


「何をしてるんだ!」「何をしている!」


 エバンとガイルの二人は間一髪間に合い、アルスへと迫る攻撃を受け止める。


「なっ……」


 そして、その者をガイルが一発で切り伏せ、エバンが肩で息をしながらも敵たちに威嚇を込めてのけん制をする。


「はぁはぁ」「はっ、ぜぇ……」


 二人の荒い呼吸音と息一つ乱していない、敵の集団。



 ……明らかな劣勢。相手は少なく見ても20人以上はいる。


 エバンは乱れる息を精一杯、治しながら状況把握に努める。



 相手は慎重になっているのか、指揮官らしき人物がエバンらを囲む命令をする中。



「エバン」


「はい」


 ガイルが声をかける。



「まだいけるか?」


 答えずらい質問に対し。


「……もちろんです」


 呼吸を整えながらそう返す。



 嘘だ。


 エバンは意識が途切れそうになりながらも相手から目を背けないよう、正気を保ち続ける。



 先ほどの攻撃を受け止めるのでほとんどの力を使い果たしてしまった。


 既に剣を掴む力すらも無くなりかけており、気力だけで持っている状態。


 足も限界を迎え、相手の攻撃一つすら避けられないだろう。


 そう言うガイル様はどうなんだ?


 エバンは一瞬、ガイルへと視線を向ける。



 その姿はボロボロ。会場入りする前の姿は既に無く、そこにいるのは押せば倒れてしまうのではないかと錯覚するほど、弱体化している。



 あぁ。


 エバンは理解する。


 頼みの綱であるガイル様もこの様。数人なら相手できるかもしれないが、いくらガイル様といえど、この数全員を相手にする事はまず不可能だろう。



 それに……


 エバンは敵側中央に佇む、一際、歴戦のオーラを纏わせる白銀の甲冑を被った戦士に視線を向ける。



 今は敵集団の奥の方で手を組み、こちらの様子を伺っている白銀の戦士。その佇まいから感じる強者特有のオーラはそこらの敵の並みではない。


 感じる力からエバンは確信する。



 あいつが動いたら私たちは終わる……と。



 だが、白銀の戦士は有利な状況であるはずなのに一向に動こうとしない。まるで何か、獲物がかかるの待っているかのように。


 エバンは白銀の戦士に何か考えがある事は感じつつも。



 どんな思惑があれ、あいつが動かないのならこちらとしては助かる。


 今の間に態勢を整えようとする。



 少なくとも、万全の時の私以上。下手すればガイル様に匹敵するかもしれないあの猛者相手にどう動けばいい……


 いや、まずはこの場から脱することが最優先。


 エバンはチラリと自分か置かれた状況下を理解しようと周囲に目を配る。そして、最悪の事態を想定しつつ、これからどう動くかを考えはじめる。



 こちら側で戦えるのは立っているだけで限界な私と、いつ倒れてもおかしくないガイル様の二人だけ。それに、倒れ込んでいるアルス様と非戦闘員のキルク様もいる。



 この状況はまさに絶体絶命。


 考え得るどの手段を用いたとしてもこの包囲網から逃れる事は難しい……



 だというのに……


 エバンはもう一度ガイルを見る。



 何故ガイル様は笑っているんだ?


 危機的状況の中、笑顔を見せるガイルに違和感を覚える。



 恐怖から笑みを浮かべているのか?


 いや、そうではないだろう。


 ガイル様の目の奥に光を感じた。あれはまだ、何か策があるという目だ。


 エバンはガイルが考える策というモノが分からないまま、敵の動向を伺う。



 出来ればこのまま時間を稼ぎたいところだが……


 敵が一向に攻めてこない中、白銀の戦士がしびれを切らしたのか一歩前に出る。


「……相手に力は残っていない」



 ……バレていたか。


 敵はガイルの強さを知っていたのだろう。それ故、攻めあぐねていたはず。


「騎士団隊長には複数人で当たれ。もう片方には一人でも十分」


 的確な命令を飛ばし、自身はまた手を組み、静観する。



 私には一人で十分……か。


 舐めるな。私はアルス様の従者、エバン。腕が上がらずとも、せめて敵一人ぐらいは道連れにしてやる。



「……よし! かかれ!」


 敵司令官がやっと指令をだし、敵兵がエバン達に襲いかかろうとしたその時。



「やっときたか……」


 口角を釣り上げたガイルがボソッと呟く。



 ……え? 何が……


 エバンは訳も分からず、ふと、ガイルが向いている方向へと視線を動かした瞬間。



 ……そういう事ですか。


 自身も小さく笑みを浮かべた。




「悪かったね。ガイル」


「……っ! 誰だ!」


 その声はただただ綺麗で透き通るように美しかった。


 

「私かい?」


「っ!?」


 

 いつの間に。


 何処からともなく美しい声が聞こえてきたかと思った瞬間、敵司令官の目の前に現れる一人の女性。



「お、お前は……」

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