転生者 その1

~1時間後~


「アルス。今の内に休憩してきなさい」


 挨拶回りがひと段落したのを機に、サラがアルスに休憩を取ってくるよう促す。


「はい。お母様」


 アルスは疲れを感じさせる小さなため息をつき、まだ会話をしているガイル達から離れる。



 おっ、あそこが良さそうだな。


 人が少ない絶好の場所を見つけると、近くにあった椅子に腰を下ろし、途中でもらった果実水で喉を潤す。


「ふー、疲れた体に染みるな」


 ほのかに甘い果実水が体全体に染みわたる。


「あれから20組近くを連続で相手にしたもんな」



 アルス達の対応は至ってシンプル。初めにガイル達が当たり障りのない会話を始め、頃合いを見てアルスの紹介が入り、自己紹介を始める。ただそれだけ。



 説明だけだと意外と楽そうに感じるけど、いざやってみると、結構疲れるんだよな。


 相手貴族は子供だろうと容赦なく、値踏みするかのように粘っこい視線をぶつけてくる。


 そして、口には出さないが態度でこう言ってくるんだ。


 親の七光りのくせに……と。



「あー……もう!」


 言葉に出来ない不快な感情を晴らすべく、声に出す。


 しかし、心は晴れない。



 アメリアさんに会いたいな……



 アルスは黄昏る様に椅子の上で足をブラブラさせ、天井にぶら下がるライトのような魔具をボーっと見つめていた時。



「アルス君とは君の事でしょうか」


「っ! え、あ……そうですが」


 突然話しかけられた衝撃で、椅子をガタっとならしながら立ち上がる。そして、貴族であろう相手に舐められないよう、冷静さを装い返事をする。



「やっぱり君がアルス君ですか! いやぁー、早めに見つかってホントに良かった」


 その人物は嬉しそうにアルスの手を掴む。



 この人は誰だ?


 全く身に覚えのない人物。


 一度でも会った事のある人なら、ぼんやりとでも覚えているはず。


 アルスは違和感を覚え、握られていた手を振りほどく。


「あの、貴方は一体どちら様なのでしょうか」


「自己紹介がまだでしたね。私の名はエッセンです。これから長い付き合いになると思うのでよろしくお願いします」


 エッセンは振りほどかれた手をじっと見つめ、アルスへと視線を合わせると自己紹介を始める。



 一体何を言ってるんだ? 長い付き合いになるだと?


 アルスは他貴族との関係は最小限に保ち、厄介事は絶対に受けないぞと覚悟を決め、この食事会に臨んでいた。



 知らない貴族と関係を結ぶなんてありえない。


 警戒度を一段階上げる。


「長い付き合いになるとは……」


 そして相手を怪しむ素振りを全開にし、暗にあなたとはこれ以上付き合っていられないオーラを醸し出す。


「そんなに怪しまないでくださいよ」



 怪しむに決まってるだろ。大抵そんな事言ってるやつは裏がある者ばっかりだからな。


「いえ、別に怪しんでる訳では……」



 駄目だな。こいつに構ってられない。上手い事話を終わらしてお父様の所に戻るか。


 アルスはここから撤退することを決め。


「すいません、時間が無いので私はこれで……」


 エッセンの前を横切り、その場から立ち去ろうとした時。





「貴方、転生者ですよね?」


 エッセンが笑みを浮かべながら、アルスへと重大な事実を突きつけたのだった。

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