アメリア・ゾル・ウィンブルグ その3

「アメリア」「アルス!」



「「ッッッ!!」」



 ガイル達の呼ぶ声に二人はあまりの衝撃に大きく体をビクつかせ、アルスは後ろを振り向き、アメリアは顔を両手で隠す。



「どうしたんだ? 二人共……」


 不自然な格好をしたアメリアとアルスを交互に見合う、ガイルとジーヴァ。



 ほんと間が悪いな……あともう少しで……いや、何を考えている俺!



「……何でもないです。お父様」


 アルスは小さく息を吸い込み、冷静さを保ちながらガイルへと振り向くと、丁度同じ時、アメリアもジーヴァへと振り向いている最中であった。



「そうか。ではアメリア。ご挨拶を」


 ジーヴァは視線を少女に落とす。


「はい、お父様。ガイル様。初めまして、ウィンブルグ家、当主の娘。アメリア・ゾル・ウィンブルグと申します。これからどうぞよろしくお願い致します」


 アメリアは長く伸ばした黒髪を靡かせながら、ドレスの端を両手で持つと優雅に礼をした。



 どれをとっても華麗で美しい……


 その光景にアルスがうっとりしていると。


「アメリアか……。とても良い名だな。ジーヴァの娘とは思えないほど溢れんばかりの魅力を感じる。どうだ? 俺の息子の嫁になってみないか?」


 ガイルが茶化す様にアメリアに声をかける。



 何言ってるんだ!


「ちょっ! お父様! 流石にそれは……」


 アルスはガイルの言葉に反応し、またもや顔を真っ赤に赤らめ、すかさず声を荒げて非難する。


 そしてアメリアへと視線を向けると。



 ほら……アメリアさんだって笑うどころか戸惑ってるよ。


 不意を食らったかのようにアメリアは口を小さく開け、驚いているようだった。


 そんな時。


「ガイル。その冗談が他の貴族に聞こえたらどうする」


 ジーヴァが真剣な目でガイルを注意する。


「あ……嬢ちゃんは第2王子の正妻候補だったな。すまない」



 そうだ。アメリアさんを不幸にする、根本的な原因はまだ一つも解決していない。


 ガイルは黙ってしまったアルスを一瞬見ると、すぐアメリアの方を向き、謝る。


 今のアメリアさんは第2王子の正妻候補。まだアメリアさんは13歳だが、結婚できる15の歳になったらすぐ結婚の話が進むだろう。



 アメリアさんが4大貴族の娘じゃなかったら……


 アルスは覆すことの出来ない運命を恨む。



 まぁ、無理な事を嘆いていても仕方ない。要は第2王子をどうにかすればいいという事。


 別に俺はアメリアさんと結ばれたいとかそんな事を言っているのではない。もちろん、そうなったら嬉しいなという気持ちは否定しないが、一番重要なのは彼女が幸せになれればいいんだ。


 第2王子がアメリアさんを大事にすると言うんだったら俺も引き下がった。しかし、問題なのは第2王子が大の女好き……という事だ。



 まず、グレシアス時代の時のアメリアさんには大まかな分岐が3つあった。


 1つ目は第2王子が王国戦争に勝利し、アメリアさんが正式な正妻になるという未来。


 2つ目は第1王子が王国戦争に勝利し、第2王子もろともアメリアさんも処刑されるという未来。


 最後の3つ目は王国戦争中に他国に侵略され、王子の二人やその妻。そして反抗的な貴族たちが軒並み処刑されるという、いわゆる王国が潰されるという未来。



 2つ目と3つ目は論外。


 1つ目はまだこの中の選択肢だったらまだ良い風に見えてしまうが、このルートに突入すると、第2王子の女好きという、最悪な特性が十分に発揮され、アメリアさんに沢山の苦労をかけたのち、最終的には捨てられてしまうという胸糞悪い結末を迎えてしまう……



 つまり、どのルートを辿ってもアメリアさんは幸せになれない。





「もうこんな時間か。ガイル。後でまた会おう」


 ジーヴァは時間を確認後、横で楽しそうにサラと話をしていた妻、エルサに声をかけると、ジーヴァ達3人はその場を離れてく。


 

「あ……」


 離れていくアメリアの後ろ姿に声えが漏れるアルス。


 するとその寂しげなアルスの声が聞こえたのか、アメリアは一瞬後ろを振り向き、アルスに小さく手を振る。


 

「っ!」


 手を振られたことに嬉しさが込み上げたアルスは、喉元まで上がってきた感情を飲み込み、自身も小さく手を振り返した。



「アルス。アメリア嬢ちゃんは大変だぞ?」


 ガイルはジーヴァ達が離れていき、アルスが手を振り終わるのを確認して声をかける。



 み……みられた!?


 親に見られたくない瞬間を見られた事に恥ずかしさが込み上げ。


「い、一体何を言ってるんですか……」


 動揺し、少し赤くなった顔をガイルへと見せまいと横を向きながら返事する。


「ははっ。アルスも男になったな」


「だ、だから何を言ってるんですか!」



「ほら二人とも、他の貴族の方が集まってきましたよ」


 そうこうしている内に、ガイル達の周りには貴族の人だかりが出来る。


「よしアルス。一旦この話は置いといて、貴族の務めをしっかり果たすぞ」


 ガイルはもう一つの貴族としての顔を覗かせ、そこからは貴族達の長い長い挨拶回りが始まった。

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