鑑定指輪 その1

 司会者の進行と共に沸き立つ会場。



 凄い盛り上がってるな。グレシアスの大会を思い出す……


 白熱したプレイヤー同士の戦闘。何重にも張り巡らされた策略同士のぶつかり合いや攻略。あの熱いシーンたちを思い出すと、今でも身震いしちゃうよ(観客席からの思い出)。


 アルスは前世の思い出ある光景と現在との光景に似たようなモノを感じ、感動に浸る。



 そんなアルスとは対照的に……


「この前の奴隷オークションとは違ってこっちは騒がしいね」


 ミネルヴァが周囲を見回し、煩わしそうに手を仰ぐ。


「そうですね。前回のオークションとは違って今回のは貴族よりも市民の方が多いですから」


 アルスが返答する。


 するとミネルヴァはふと気になった様子で。


「そういえばアルス。さっきの話の続きだけど、その指輪の効果って……」


 ミネルヴァが再度アルスへ話しかけるとアルスは無言で壇上を指さす。


「何だい? 前……?」


 ミネルヴァは不思議に思いながらもアルスが指さす方向へ視線を向ける。


『では皆様! 1品目はこちら!』


 壇上に現れたのは何の変哲もない普通の指輪だった。


『皆様。まず最初にこのオークションの舞台に上がりますのはその名も鑑定指輪。一見何ともない、指輪の様に見えますがただの指輪ではありません! この指輪の凄い所はズバリ。道具や武器の鑑定が出来てしまうのです! それに加え、商人の間では鑑定指輪を持つ事が一種のステータスになっているそうで、その希少性と高価さから、鑑定指輪を持っている者は凄腕の商人だと認知をされるというではありませんか。もちろん、お客様の中にも商人の方が数多くいるはずです! そんな商人の皆様が欲してやまない商品が今ここに! では、大金貨1枚からスタートです!』



 司会者の上手い商品説明を合図に数多くの客が鑑定指輪の値段を釣り上げていく。


『おっと! ここで大金貨5枚と金貨50枚の札が挙げられました。どなたかこれ以上の値を付ける方はいらっしゃいますでしょうか!』



 あれ? 思ったより金額が吊り上がらないな。


 前世では最低でも聖金貨数枚はいく代物。だが、今回のオークションではそこまでの金額に達するとは到底思えない金額の上がり方であった。



 ニーナの時もあれだったけど、奴隷やアイテムの価値が前世より低くなってるのかな?


 俺からしたらありがたいけど。



 アルスはそんな考えと共に値段を記入した札を掲げる。


『大金貨6枚が提示されました! ……他にはいらっしゃいませんか?』


 司会者が周りを見渡す。


『いなさそうですね……。では、大金貨6枚で鑑定の指輪は落札です!』



 無事、一品目を落札する。


「よし、この買い物が出来ただけでも今日の収穫としては十分。聖金貨2枚までなら出そうかなと考えていたけど、思ったより格安で手に入れられたから良かった」


 アルスは満足げに椅子に深く座り、手元にあった飲み物を飲みながらくつろぐ。


 そして数分が経った後。


「鑑定指輪を購入されたお客様でお間違いないでしょうか?」


 突然後方から声をかけられる。


「そうですが……貴方は?」


 アルスはその人物に関しての記憶がなく、怪しみながら質問する。


「あっ、申し遅れました。私は王都裏オークションのメインステージを担当している者です。こちらのオークションでは一品ごとに落札されたお客様の元へとスタッフが赴き、現金と引き換えに落札された商品を受け渡すといったシステムを導入しておりまして……」


 オークションのスタッフだと言う人物がアルス達へと説明する。



 そんなシステムだったのか……


「そうだったんですね。裏オークションは初めてなもので……エバン」


 お金を払うよう合図し、エバンが前もって預かっていた金の入った袋から大金貨6枚を取り出す。


「どうぞ、大金貨6枚です」


「1、2、3……、6。はい。ちょうどお預かりいたしました。これが品物になります」


 スタッフはお金を丁寧に数え受け取ると、手に持っていた箱をアルスへ手渡し、足早に去っていく。



 この中に鑑定指輪が……


「この箱にアルスが言っていた凄いアイテムが入ってるんだね」


 ミネルヴァが興味ありげにアルスが持つ箱をじっと見つめる。


「すり替えられていなければ入ってますね」



 ミネルヴァさんってアイテムや武器とかに凄い興味を持ってるよな。今度、前世の知識を総動員して覚えている範囲でのグレシアスアイテム表みたいの作ってみようかな。



 アルスはそんなどうでもいい事を考えながらも、箱を丁寧に開けていき、お目当ての鑑定の指輪とご対面するのであった。


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