天国と地獄 その1
~王都奴隷オークションから数日後~
今日は12月29日。
「もうこの日が来てしまったのか……」
アルスは頭を抱え、悩んでいた。
何故なら……
「金がない……。明日から裏オークションが開催されるってのに……」
お金に困っていたのだ。
数日前に開催された王都奴隷オークションも大切なオークションだったが、明日から開催される王都裏オークションも負けず劣らずの大事なオークション。
なのに、今の手持ちが聖金貨2枚だけとは。
アルスは小袋を覗き込み、手を突っ込むと、大事そうに聖金貨2枚出し、それを机に並べ、意味もなく転がして気を紛らわせる。
明日からの王都裏オークションは年に一度だけしか開催されない王都最大のオークション。それに加え、来年からは戦争も始まるだろうし、今年開かれるのを最後に当分開催されない事が十分に予想される。
そう考えると明日のオークションは今、欲しいと考えているアイテムをゲット出来る最後のチャンスかもしれないんだ。
「うーっ!」
やるせない気持ちを声に出すが、心は晴れず。そんなアルスは悩んでいても仕方ないと思い、ニーナに勉強を教えようと、庭へ足を運ぶことにした。
~アルザニクス家、庭~
「ニーナおはよう」
庭のベンチで足をぶらぶらさせながら、花を見つめているニーナを見つけ、声をかける。
「アルス……、おはよう」
ニーナはアルスを見つけるとベンチから降り、トテトテとアルスの元に歩いてきて、アルスを見上げる。
「今日も勉強する?」
「うん。する」
「分かった。今日は天気もいい事だしテラスで……」
こうしてニーナの勉強を教え始めて1時間が経過した頃。
「アルス様」
使用人がやってきてアルスに声をかける。
「どうかしました?」
「アルス様のお客様という方がいらっしゃったのですが……」
「私のお客?」
一体誰だろう?
見当もつかないアルスに対し、使用人がそういえば、といった様子で。
「確か……、アイリス様と名乗っていらっしゃいましたが」
アイリスさんが? 突然だな。
「アイリス? 知っている人なのでここまで通してあげてください」
「承知しました」
でも何故アイリスさんがここまで……。予定なんて無かったのに。
アルスは不思議に思いながらも、アイリスが来るまでの間、ニーナに勉強を教えて過ごす。
それから数分後。
「アルス様。アイリス様をお連れ致しました」
「ありがとう」
使用人は水色の髪を靡かせた女性、アイリスを連れ、アルスの元へとやってくる。
「アルス君。お久しぶり」
「アイリスさんこそ、お元気そうで何よりです」
二人は当たり障りのない会話をすると、アイリスがアイコンタクトで何か訴えかけてくる。
うん? あぁ……、ニーナか。
するとアルスはニーナへと振り向くと。
「ニーナ。今からあの人と重要な話をするからここから離れててくれる?」
勉強に夢中のニーナへ声をかける。
「……分かった」
勉強を中断したニーナは、小さく首を縦に振り、勉強用具を持ってアルスの側から離れていく。
そしてニーナが去ったのを確認したアイリスは。
「商会のお金が役に立ったようで良かった」
アルスの隣の席へと座り、体を寄せてくる。
正面の席も空いてるのに。って、体寄せ過ぎじゃないか? これじゃ話しずらいしちょっと恥ずかしい……
「えぇ、お陰様で」
アルスは居心地が悪そうに少し体を離し、話しかける。
「それでアイリスさん。会話をする為に来たわけじゃないですよね? 何かあったんですか?」
アルスはアイリスの真の目的を聞くために本題へと入る。
「もうそっちの話に入るの? もう少し僕とお喋りしてくれてもいいじゃんか。それにさ、まだあの子の話も聞いてないし」
アイリスは口を膨らめながら、ニーナへと視線を逸らす。
「ニーナですか? どうせ色々と調査済みでしょう? それなら、私から言えるのは大事な仲間ですとしか言えませんよ」
「ふーん。あの子も守りたいリストに入ってるんだ……。分かった。本題に入ろうか」
そりゃ……、な。
ニーナはもう、れっきとした俺の仲間だしな。
こうして、アルスは本題へと進むのであった。
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