ハイエルフの少女 その1

「アルス様、申し訳ありません。侵入者を見失いました」


 侵入者を追いかけてオークション会場の外まで探しに行ったエバンだったが、見つけられなかったようで、悔しそうな表情で帰ってきた。



 まぁ、こうなるとは思っていた。


 最後に侵入者が使用したのは、体を一定時間、透明化する魔具。あるいは、転移系の魔具。これらを使われたのなら、今頃、ここから遠い場所まで既に逃げ延びていることだろう。


 アルスは侵入者が消えた場所へと移動し、床を注目する。


「痕跡はない……、か」



 それにしても、どちらも高級品でおいそれと手を出せない品のはずだが……、どれ程資金を保有しているのやら。


 そしてアルスはエバンへと振り向き。


「大丈夫だエバン。私はこの通り何ともなかったし……」


 アルスは安心させる声音で言う。


 そんなアルスとエバンのやり取りを見ていたミネルヴァが。


「それにしても……『この世界に来たのはお前だけじゃないと思え』ってどういうことだろうね」


 アルスを横目で見ながら、疑問を口にする。


 ギクッ!


 アルスは一瞬動揺する。



 冷静になれ……


 が、瞬時に冷静さを取り戻すと、一点を見つめながら顎に手を付け、考えるふりをする。


「……意図が分かりませんね」


 あえて分からないという体を表に出すアルス。


「ふーん。アルスでも分からないなら、この問題はお手上げだね」


 ミネルヴァはやれやれといった様子で両手を空に上げ、首を振る。


 そんなアルスは話の内容を逸らすため。


「一応二人は部屋の周りを警戒しておいて欲しい。二度目の襲撃が絶対ないとは言えないからね」


 と、二人にお願いする。


「もちろんだよ」「はい」


 ミネルヴァとエバンの二人はそう言って、アルスの側を離れていく。



 もう敵はこの近くに居ないはずだけど……


 アルスは二人が近くからいなくなったことを確認し、近くにあった椅子へと腰を下ろす。



 それにしても……、最後、顔を隠した人物が言い放った言葉。『この世界に来たのはお前だけじゃないと思え』か……


 俺も一度は考えたことはあった。この世界に俺以外にも転生した奴がいるんじゃないか……、と。


 それにあの男はグレシアスのプレイヤー的な反応を見せていた。しかも、相当やり込んでいる奴の動きだ……


 その行動とは、俺が鑑定眼鏡を付けようとした時に、あいつは仲間を後ろに隠して、仲間を鑑定させないように体でガードした事だ。その行動はグレシアスを長年プレイする人からしたら、敵に味方の情報を与えないようにする上でとても有効なのだが、俺からしたら自分はプレイヤーだ、と言っているようにしか思えなかった。


 いやまて。あいつはわざわざ俺の部屋まで来て、問題事を起こし、あの言葉を言い放っていったんだ。

 

 つまり、自分がプレイヤーだと知らせるために来た……、と考えられる。


 でも一体なぜ?


「くー。分からん!」


 アルスは相手の真意が読み取れず、自身の髪をくしゃくしゃと乱暴に撫でまわす。



 でも、この世界に自分以外のプレイヤーが最低一人。いや、あいつの言動から、複数人いる事が分かった事は幸いだ。もしかしたら、あいつの言った事は真っ赤な嘘、の場合もあるが、もしもの可能性を考えて、他プレイヤーがこの世界に転生していると思って、この先行動すべきだろう。


 ここでアルスはこれまでのプランを一度、組み直す事を決定し、先の行動を思考する。




~『グレシアス豆知識』~


 ここで、何故先ほどの顔を隠した人物がプレイヤーだと確信を持ったのか解説させて頂こう。


 皆は俺が顔を隠した人物が転生者、つまりプレイヤーだと決めた理由は、相手の言動からだと考えている事だろう。


 もちろん、相手の言動も大きな要因の一つだが、グレシアスでは一つだけ、相手がプレイヤーだと確信できる確認手段が存在する。


 それは……、これさ!



 アルスは鑑定眼鏡を取り出し、掲げる。



 また鑑定眼鏡? と思った方も多いだろう。


 この鑑定眼鏡は相手を鑑定すると、名前やステータスなどが表示されることは話しただろう。だがしかし、一つだけ話していなかったことがある。


 それは、プレイヤーを鑑定した時だけ、unknownと表示される点についてだ。


 ちょっと前に戻るが……

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