情報の対価 その3

「私は……」


 言葉に詰まるアルス。




 けど俺は……、皆の優しさに触れて、少しずつ心を許す様になっていた。


 昔なら人の表情や仕草を見て、機嫌ばかり伺うような奴だったけど、今は面と向かって話せるようになった。



 そうだ……。少しずつ変わればいい。



 今まで気づかなかった一番大切な事に気が付くアルス。



 あっ、そうか。俺は皆のお陰で……



 先程まで重かった気持ちが、少しずつ軽くなっていくのを感じた。



 アルスは顔を上げ、皆を見渡す。


 

 そうだな……


 アルスはここで、ある決心を再びする。


 俺は……、この世界で俺に優しくしてくれた人たちを守りたい。


 お父様とお母様を。

 自分を慕ってくれる部下を。

 両親が守ってきたこの領地、そして住民を。



 最初に願ったあの思い。


 

 ゲームをやっていた頃に惚れ、俺の心の支えになってくれたあの子を……


 どうにかしてあげたいと願っていたあの子の未来を、悲しい未来を変えてあげたい。


 

 だから俺は……



 アルスは覚悟を持った目で、もう一度言い直す。



「自分の家族や仲間を、領地を、そして……、とある女性を守りたい。もちろん、アイリスさんもニーナさんも俺にとったら部外者でも何者でもなく、守りたい人に入っていますし、その為にも俺は強くならなくちゃいけない。でも、俺自身が強くなるのには限界があります。なので仲間を、信頼できる仲間を作り、築き上げていかなければならないと思ってます。だから……」


 アルスは固い決意を抱き、アイリスやニーナ。そして、エバンへと気持ちを伝える。


「俺に力を貸してくれませんか?」


 アルスの本心からの願いだった。


 場に静けさが訪れる。


 一秒、二秒と時間が過ぎ去る中、その沈黙を破る人物がいた。


「アルス様が私や妹を助けてくれた時から、どこまでも付いていこうと決めました。それが、どれほど険しい道のりであっても、皆がアルス様を裏切っても、私だけはずっとアルス様の味方であろうと。そう決意したのです。だからどうか、私をアルス様の剣や盾として使って下さい」


 エバンは立ち上がりながら熱く答える。


 その光景を見ていたアイリスが。


「私はね……、初めて君に会った時から、何故か親しみを感じてたんだ。でもさ、私達が会ってからまだ1ヶ月ぐらいだよ? 今日で会うのは2回目だしさ……。でも、君に力を貸すのは悪い気がしない。ううん。今じゃ君に力を貸してあげたいとも思ってる。だから……、何か用があったら力を貸してあげる。あっ、勘違いしないでよ? ちゃんとそれ相応の料金は貰うからね!」


 アイリスは少し照れながら、でも自身の思いを答える。


 そんなアイリスの発言に驚きを見せるのはニーナであった。


「アイリスちゃんがここまでデレてるの、初めて見た……」


「茶化さないでください!」


 顔を真っ赤にして起こるアイリス。


「ふーん。でもそうか……、アイリスちゃんの人を見る目は商会一。うん。お兄ちゃんになら力を貸してあげてもいいのかもね」


 そうしてニーナは何処からともなく短刀を取り出し、目にもとまらぬ速さで空を切る。


 その光景にアルスとエバンが唖然としていると。


「これでも私は戦闘じゃ敵なしなんだよ? だから、特別にお兄ちゃんの為に一回だけ。いつ、どんな時でも、私を呼べば助けてあげる。でも、事前に連絡ぐらいは頂戴ね?」


 ニーナの顔は笑っていたが、目は笑っていない。


 むしろ、アルスを慎重に吟味していたようで、何かに納得するようにうんうん。と首を小さく振ると、1回だけならと言う約束で力を貸してくれることになった。


「ありがとう。みんな」


 アルスは奥底から湧き上がってくるモノに少し驚きながらも、嬉しそうに答える。



 それからは連絡方法や、協力の条件を決め、王都の内部情報をもう一度、皆で整理し終えると。


「じゃあ、今日はこれぐらいかな。また何かあったら連絡するよ」


 アイリスはそう言いながら、アルスへ重たそうな小袋を手渡す。


 これは……硬貨袋?


 かなり重量がある。


 アルスはその袋を受け取り、中身を確認する。


「これは……っっ! 聖金貨……、ですか?」


 袋を開けると中には、信じられない量の聖金貨が詰まっており、驚きのあまり落としそうになる。


「そうだよ。アルス君の提供してくれた情報にはそれぐらいの価値がある。あっ、中身は聖金貨25枚ね」


 アルスは中身の枚数を聞いてさらに驚きそうになる。


 聖金貨25枚!? 

 まてよ……、聖金貨1枚が大金貨10枚。

 大金貨1枚は金貨100枚だから……、総額、金貨25000枚!?


 はははっ……、ぶっ飛んだ量だな。


 アルスは驚きを通り越して呆れてしまう。


「流石アルス様です!」


 そんなアルスを横目に、目をキラキラさせながら言葉をかけるエバン。


 むしろこれまで以上に尊敬した眼差しである。


「大袈裟だよ……」


 エバンの言葉でアルスは落ち着きを取り戻し、もう一度聖金貨へと目を向ける。そして、聖金貨の枚数をちゃんと数え、枚数があることを確認する。


「ちゃんと25枚あったよね? 今日は伝えたいこともすべてアルス君に伝えたし、情報料も払ったから、これでお開きにしようか」


「そうですね。今日は有意義な時間を過ごせました。もちろん、この聖金貨も有難く使わせていただきます」


「こっちこそ助かったよ。また何かあったら連絡頂戴ね?」

 

「はい、何かあったらすぐ連絡します」


 そのあと、アルス達はアイリス達に再度お礼を言い、ゼンブルグ商会を後にする。


 そして、大金の入った袋をエバンに託し、屋敷へと帰っていったのだった。

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