情報の対価 その2

「こっちこっち」


 アイリスが手招きし、大きな木彫りのテーブルへと移動する。


 左側にアルスとエバン。右側にアイリスとニーナが座り、今回の目的であった話の続きを再開する。


「じゃあ、本題へと入ろうか」


 アイリスが本題へと移る。


「今回私達は、ゼンブルグ商会の勢力の大半を集結させて1ヶ月の間、事に及んだよ」


「アイリスちゃんや私だけじゃなくて、会長も今回の件で動員されたし、久しぶりの大仕事だったよねぇー」


 ニーナがうんうん、と頷く。

 

「それで今回分かったことだけど、アルス君の言った通り、アレクサンドラ王はもう亡くなってた」


 アイリスはトーンを下げ、深刻そうに語る。


 やっぱり……、アレクサンドラ王はもう死んでたか。


 アルスは驚いた素振り一つ見せず、この場で唯一先の状況を考え始める。


 そうなると戦争まであまり猶予がないな……


「そうでしたか。それで……、シルバ王子とハルス王子は王が死んだことに気づいていますか?」


 アルスはアレクサンドラ王が死んでいた時の事も考え、用意していた質問をする。


「それはまだ大丈夫だと思う。この事を知っているのは王直属の側近数人と、王妃様だけだからね」


 その話を聞いてあからさまにホッとするアルス。

 

 王の側近数人と、王妃様しか知りえない情報をどうやってアイリス達が知ったか気になるが、大事なのはそこじゃない。


 王子達がこの事にまだ気が付いていない。という事が大事なのだ。


 王子たちが既に王が亡くなっている事に気づいていたら、計画が一から練り直しになる所だったからな。そこは安心だ。


 奇跡的に最悪の事態は免れたが、悪い状況なのは間違いない。


 これからは時間との勝負だ。


 アルスが顎に手をやりながら悩んでいると、その様子を注意深く伺っていたアイリスが……


「でもさ、問題はこれからだよね? 王子たちがこのことに気づいたらどうなるか。前にアルス君に聞いた時は戦争になるって言ってたけど、その根拠はどこから来てるの? まぁ、分からなくもないよ。あの兄弟は仲が悪いで有名だもんね。でも、そこまで馬鹿な二人じゃないと思うんだ」


 アイリスに聞かれて慌てるアルス。


 おいおい、どうする俺。


 本当の事を話すか? 

 

 俺は転生して、前世の記憶があり、この世界を舞台にしたゲームと呼ばれるモノを知っていると。


 だから、そのゲームで戦争が起こったからこっちの世界でも起きる……、ってか?


 そんな馬鹿な話、誰が信じるって言うんだ。


 転生? 前世の記憶? ゲーム?


 全てを説明したとしても、到底信じられるモノじゃない。


 仮にアイリスが信じたとしよう。


 あまりにも俺にメリットがない。


 それにまだ、アイリスを心の底から信じ切れていないしな。


 頭の中で状況を整理をし、どう説明するかを考える。



 今回は……、無し。本当の事は言えない。


 自身の考えを決定し、意を決して口を開こうとしたアルス。


「今回は……」


 するとアイリスが突然。


「無理に言わなくてもいい。会長を動かしてやっと分かった事を知ってたアルス君だもん。何か深い事情があるんだと思う。でもさ、一つだけいい? この先戦争が起こるとして、アルス君はこの先、どうしたいの?」

 

 アルスに待ったをかける。


 これからどうする……、か。


 この世界がグレシアスの世界だと知ったその日から、自分がこの先どうしたいかなんて決まっている。


 あの子が笑ってる未来が見たい……、家族に危機が迫らないようにしたい。


 だが、それとは正反対に、ゲーム感覚で一日一日を楽しんでる自分がいるのを自覚するアルス。



 前世では青春を捧げたと言っても過言ではないゲーム。


 だが、所詮はただのゲームだった。


 このゲームをやり込んだからって日常が変わるわけでもない。


 ゲームが終われば辛い現実に押し戻されて、行きたくもない学校に行く日々。


 家族や友人とも上手くいってなかった俺にとって、現実で生きるのは大変だった。


 いや、死にたいと何度も考えた。


 そんな時、転生という人生のターニングポイント経て、何もかもが一新した。


 親は優しいし、お金にも困っていない。


 人間関係だって良好だし、容姿だって良くなった。


 他人から見ても勝ち組だと思われる人生を歩き始めた俺だったが、一つだけ変わっていないモノがあった。



 それは心だ。


 

 弱っちい俺の心。

 

 傷つき、ボロボロになった俺の心だけは何一つ変わっていなかった。


 人間関係に嫌気がさしていた前世とは違い、お父様やお母様。エバン等に囲まれて、充実した生活を送っているはずなのに、心のどこかでは皆を信用しきれない。



 もし裏切られたらどうしよう。

 

 本当は俺の事が嫌いなんじゃないか……、俺の弱い心は周囲を信じられないでいる。


 

「私は……」

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