成長の成果 その2
そんな感情を思い出しつつ、アルスはエルドと会話をしながらも、片手間で鑑定を流れ作業の様にさばいていく。
~鑑定を始めてから一時間後~
「んんっ。疲れたー」
休憩を挟もうと、鑑定眼鏡を外し、椅子にもたれかかったその時。
アルス達へ人波を避け、近寄ってくる小さな人影が迫る。
その人影はアルス達に気づかれずに、アルスの近くまで接近すると。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「「「っ!?」」」
アルスら三人は突然の声に驚き、護衛二人は咄嗟に剣を抜く。
「え?! あっ、うぅ……」
「あっ、女の子?」
アルスは咄嗟に振り向き、後ろに居るであろう人物の姿を目にすると、そこには10代前半と見られる少女が驚き、泣きそうな表情で立っていた。
「すっ、すまない!」
護衛二人は慌てて剣をしまい、少女へと駆けよる。
「だ、大丈夫です。ちょっと驚いただけで……」
「良かったら飲み物どう?」
アルスは動揺した少女の為に飲み物を注文し、隣の席へと座らせる。
段々と少女が落ち着きを取り戻した頃合いを見て。
「さっきは私の護衛が失礼した。それで……、何か用ですか?」
アルスは相手を気遣う風を装い、疑惑の目を向けながら問いかける。
よく、暗殺方法で小さな子供が使われる事があるからな。
アルスはこの世界がグラシアスだという事を前提で動いているため、小さなことにも気をかけるようにしている。
「あっ、そうでした! さっきお姉さんからこの手紙を……、カフェのテラス席にいる金髪のお兄さんにって言われて」
少女はポケットから手紙を取り出し、アルスに手渡す。
手紙?
「飲み物……、ご馳走様でした。このあと用事があるので行きますね。では、
「あっ、」
少女は慌てた様子で飲み物をグビっと一気に飲み干すと、お礼を言い、人混みへと消えていった。
また?
最後の口ぶり……、また俺と何処かで会うみたいな……
また、という言葉に疑問を持ちつつ、渡された手紙に視線を向ける。
「これは……、手紙だな」
手紙をぐるっと一回しすると、あるロゴが目に入る。
「このロゴは……」
手紙に封してあるロゴに目を取られていると、護衛二人が近寄ってきて。
「アルス様! すいません。自分たちがしっかりしていないばっかりに、素性も知らぬ少女を通してしまって」
面目なさそうに、アルスに頭を下げる護衛二人。
「ははっ、大丈夫だよ。それに……、さっきの子は全く知らないって訳じゃないしね」
「あの少女とは初対面なのでは……」
アルスはそう言い、手紙の封を開け、中身を確認する。
「うん。これでやっとこの先へ進める……」
手紙の内容を確認したアルスは、ニヤリと笑い。
「アルス様?」
「あぁ、何でもないよ」
ウキウキとした様子で、くるんと軸足で半回転しながら席を立つ。
「今度からはしっかり頼むよ」
すると、エルドが隣に並び。
「もちろんです! ですが、私達もある程度は護衛としてアルス様の役に立てると思っていたのですが……、まだまだ鍛えが足りませんでした」
「いやいや、君たちはちゃんと鍛えている方だと思うよ? ただ……、相手が悪かっただけで」
アルスは目を細めながら少女が去っていった方向を見つめる。
「相手が悪かったとは一体……」
エルドは真意が読めないといった様子で、アルスを見る。
「何でもない。さぁ、今日の所は帰ろうか」
アルスはお代を席に置き……
「ご馳走様でしたー! また来ますね!」
カフェの店主に笑顔を振りまき、店を出ていく。
「ちょっと待ってください」「ほんと急なんだから……」
そんなアルスに振り回されるエルドとモーリーも残りのお茶を飲み干し、店主にお礼を告げ、アルスの後を追うのであった。
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