戦争の発端 その3

 何処から話そう。


 まず、王国で一番権力を持っているのは、王であるアレクサンドラ王である。


 21歳と言う若さで王に即位してから今まで大きな問題を起こすことなく、この地を統治し続けた事から民の間で善王と呼ばれている、王族だ。


 そんなアレクサンドラ王だが、数年前からある病を患っているという事が、発覚した。


 しかも、最近表舞台に姿を現さない事実や御年68という年齢も相まって、余命がもう長くないのではと巷で噂になっていたのだ。


 実際その噂は本当で、前世の通りに行けば、アレクサンドラ王はもう間もなくこの世を去ることになる。

 もしくはもう亡くなっているという可能性も考えられる。


 俺はもう、アレクサンドラ王は亡くなっているだろうと予想してるけどな。

 

 ここまではありきたりな話だ。

 別に何の問題もない。


 では、何が問題なのか。


「後継者を決める前に亡くなってしまう。または亡くなってしまっているのね」


「正解です」


 そう。アレクサンドラ王がきちんとした手順で後継者を決定していなかった事が問題なのだ。


 ここからは王が既に亡くなっているという前提で話を進める。


 王が亡くなるということは、新しい王を決めなければならないという事。


 しかし、前世通りに行けば、王位継承の儀式を行う前に王が亡くなってしまったため、新しい王が決定しないまま、王国が存在する事になってしまう。


 そうなるとどうだろう。


 後継者争いが勃発するのだ。


 ただ、この出来事はある事が違っていれば起きることは無かった。


 それは……、王が王位継承権第1位のシルバ王子を次の王に指名していればだった。


 王は3人の女性と婚姻関係を結んでいる。第一王妃と第二王妃は他国の者で、第三王妃だけは一般市民という構成だ。そんな関係を持つ王は、その王妃たち全員と一人ずつの子供を儲けており、その子供たち全員が男の子だと言われている。そんな子供達は第一王妃の子供が王位継承1位、第二王妃の子供が王位継承2位といった具合で地位を確立していたのだが、王の突然の崩御。

 

 すると、国としては新しい王を選出しなければいけないので、順当に行けば継承権第1位のシルバ王子が王になるはずだったが、生前、王は第2位のハルス王子を次の王にすると口約束していたらしく、王の配下たちは混乱に陥る。


 そりゃそうだろう。普通ならシルバ王子が王になるのに、王はハルス王子が次の王になるんだと言っていたら。


 もしかしたら、王も自身の体調が悪いのを察し、王位継承の儀を内密に進めていたのかもしれない(ゲームの説明ではそのようなモノは無かったため、ただのアルスの一考えだ)。だが、運悪く王位継承の儀式の矢先に亡くなってしまい、ハルス王子の件はあやふやに。


 すると、その状態で乱入してきたのはシルバ王子。


 シルバ王子はその口約束は無しだと言いつけ、王位継承権第1位である私が王になる事が相応しいと、王になることを宣言。


 そんなシルバ王子に怒りを示したのがハルス王子である。


 そりゃそうだろう。

 ハルス王子も金や権力にがめつい男。


 あともう少しで王国の最高権力が手に入ったというのに、王位継承権第1位と言う理由で王の座を取られてしまってはたまったものではない。


「こうなったらあとの展開はお分かりでしょう?」


「まぁ……、ね」


 フードを被った人物は静かにアルスの話に耳を傾け続ける。


 ここから戦争は秒読みだ。


 順当に行けばハルス王子が王になっていたが、運命のいたずらからか、王位継承の儀式を行う前に王が亡くなってしまう。


 それを良いことにシルバ王子は、その口約束は無効だと言い、王位継承権第1位である、私が継承するのが相応しいと主張するのに対し、王の指名を受けた私が王になるのが相応しいと主張するハルス王子の両者が激突し、戦争へと発展。


 誰でも簡単に想像がつく。


 この後は王国中を巻き込んだ権力争いの勃発だ。


 王国内は陰謀渦巻く暗黒国家へと変貌し、貴族がシルバ派とハルス派と中立派に3に分かれ、シルバ派とハルス派で覇権を競い合う事になると説明するアルス。


「王の余命がもう長くないのでは? って商会のトップたちにだけ情報がまわってたんだけど、もう亡くなっているとは考えてもなかったな……。うん、一度本気で調査してみるのが良さそうだね。なんでアルス君が私たちでも知りえない情報を知っているのか不思議だけど……、これ以上は聞かないことにするよ。もしこの情報が本当だったら、1ヶ月以内に商会の者が連絡しに行くから」


「わかりました」


 フードを被った人物は、じっとアルスを見つめてくる。


「あ、あの……、顔に何か付いてます?」


「ううん。……アルス君とは長い付き合いになりそうな予感がするよ……」


 そりゃ、俺はこれからも商会を利用していくつもりだから、これから長い付き合いになるはずだけど。


「最後になったけどさ、自己紹介をしていいかな? 僕の名前はアイリス。これでもゼンブルグ商会No.3なんだ」


 へー、NO.3か。中々やるじゃ……、え?


 アルスは唖然とする。


 アルスが驚きで固まっている中、アイリスは次々と話を進めていき。


「今日はこの支部に偶然、私用があってアルス君に出会えたけど」


 アイリスと名乗った人物は、最後にフードをめくり、アルスにだけ本当の素顔を見せた。

 

 き……、綺麗。


 水色の髪を肩まで伸ばしており、薄く透き通った青色の目。肌は色白で陶器のように滑らかな事が容易に想像がつく。


 そんなアイリスは固まったアルスを見つめると、見惚れるような笑みを残し、防音のアイテムを解除して、その場を後にしていった。


 いやー、綺麗な人だったな。あれ? ってか、サラっとゼンブルグ商会No.3だって言ってなかった?


 アルスは情報量の多さに頭を抱える。


 前世でさえ、No.4以上の地位の人物を見た事なかったのに、リセマラ不可能なこの世界で会うことが出来るなんて……、ホント何が起きるか分からないな。しかも、綺麗だったし。


 アイリスが去った方向を見つめながら、思いを巡らせていると……


 トントン。


「うわぁ!」


 得体の知れない肩の感触に驚くアルス。


「すいません。さっきから呼びかけても声が通じなかったので、肩を叩いてお呼びしようと思ったんですけど」


 エルドが困惑しながら説明する。


「すまない。考え事をしていて気づかなかった」


「それにしてもお話、長かったですね。どんな話をしたんですか?」


「それは内緒だ」


「そんなぁ、サラ様に報告しなくちゃならないのに……」


「それは……、エルド。君がどうにかしてくれ」


 アルスは涙目になるエルドを横目に、足早にその場を去ろうとする。


「ちょっと、待ってください!」


 慌てて護衛二人はアルスを追うように、ボロ小屋から出ていくと、アルス一行はその足で屋敷へと帰還するのであった。

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