第12話窓辺

至と、葵だが今は僚は、足音のする二階に上がり女性達を探した。


二階も、長年放置されていただけあってどの部屋も荒れ放題で、壁に落書きもされている。


しかし、奇妙な事に、至は黒い影を見たり、近くに足音を聞くのに、二階には誰一人いなかった。


「怖いなら…抱いてやろうか?」


恐怖から、至の顔色がどんどん悪くなるのに、僚が至をからかうように腕を広げ言った。


「いるか!いらねーよ!」


割と体格のしっかりしているDKの至が、子犬がキャンキャン言ってる風に見え、僚はクスっと余裕で優しい目元で笑う。


至はそんな僚を見て、なんだか心がくすぐったくなる。


やがて二人は、仕方なく一階に降りた。


しかし、すぐ女性の気配が感じられず至が諦めかけた時…


僚が、急に1番向こうの和室に行くと言い出した。


そして、行って見た大きな和室の部屋の、畳の床が、一部大きく陥没しているのが見えた。


至と僚が覗き込むと、崩れた畳で床下に落ちて、頭から血を流し気を失っていた、あの探している女性の一人を発見した。


至がスマホで緊急連絡し…


15分後…


廃別荘に救急車とパトカーが来た。


すぐにサイレンを聞きつけ音を頼りに、はぐれて近くを彷徨って遭難しかけのもう一人のハイカーの女性も廃別荘に来た。


そして彼女は、至と僚に再三御礼を言い、ケガをして意識不明の女性を乗せた救急車で一緒に病院へ向かった。


ケガをした女性の方は、頭を打ったし、右腕を少し骨折していたが命に別状はなかった。


「君達のお陰で本当に助かったよ。でも、君達も早く山を下りなさい…」


廃別荘の前に立つ二人組の警察官の内の一人の中年の男性が、横に立つ至と僚に言った。


至と僚は、警官には女性達を探しに別荘へ来たと事実を伝えた。


そして…


警官達はパトカーで、至と僚を山の麓の駅まで送ると言ってくれたが断った。


「あの…」


至が、聞きづらそうにしながら、中年の警官に言った。


「何か?」


「あの…この廃別荘で、何人か行方不明になった人がいるって、本当ですか?」


警官は、すぐに笑って言った。


「あれは、ただの噂話だよ。誰もこの廃別荘で行方不明なんかなってないよ!本当に、別荘から声が聞こえるだの、来た人間が行方不明になっただの…バカバカしい噂のせいで…廃墟マニアや心霊マニアが来るもんだから、こっちも頻繁にパトロールしなくちゃならんからたまったもんじゃないよ」


「そっ、そう、ですか…」


至は、今までのこの別荘で起きた事を伏せて、静かに頷いた。


「あっ、でも、何年か前、この山にハイキングに来た若い女性が一人、恋人とはぐれて道に迷って行方不明になってたじゃないですか!」


急に横から、若い男の警官が言った。


「ああ!それは一つあったな!確か…赤いリュックサックをしてたとか…でも、この廃別荘に来た訳じゃないし。それに、もうすぐこんな厄介な事もなくなるよ。この廃別荘、気持ち悪いし、ふざけて来る奴等のタバコの火の心配があるから、2ヶ月後、取り壊し決まったらしいからさ…もう一日も早くぶっ壊して欲しいわ、こんな廃別荘!」


中年警察官が、又笑って言った。


やがて、警官もパトカーで去り、

又、至と僚、廃別荘の前で二人きりになった。


「なぁ…僚…」


至が、又聞きづらそうに、今度は僚に聞いた。


「何だ?」


僚は静かに、廃別荘の二階の窓を見ながら返事をした。


「あのおばさんをけがさせたの、あのガイコツじゃないのか?」


至が、ストレートに聞いた。


「違う、あのおばちゃんは、和室に勝手に入って、勝手に落ちてケガしただけだよ…」


そう言いながら、僚は、二階から視線を外さない。


「何でそんな事、分かんだよ?」


至は、僚の整い過ぎる横顔を見

た。


「他人に、廃別荘とは言え自分の家荒らされてんだから、あのガイコツ女に悪くておばちゃんの居場所聞けなかったんだけど、あのおばちゃんの居場所を、お前には見えなかっただろうが、二階から一階に降りた時俺の前に現れて指さして教えてくれたの、俺達を見かねたあのガイコツ女だよ…」


僚は、まだ二階の、とある窓だけを見詰め呟いた。


「え?本当に?」


至は、僚を見たまま眉を顰めた。


「本当だよ…それにあの女は、「何もしてない」って俺に言った。俺、さっき言っただろ。あの女は、ただ、二度と戻らない刻…自分の美しい思い出と一緒に、ただここに静かにいたいだけだ…」


そう言った僚が、あまりに二階の窓を見るので、至も顔を上げ、僚の視線の先を見た。


すると…


部屋の中からその割れていない窓越しに、黄色のワンピースを着た、長い黒髪の絶世の美少女が立って、至と僚の方を見ていた。


ただ、でも、悲しいのか?寂しいのか?


その少女の表情からは一切伺い知れない。


「りょっ…りょっ…りょっ…ガイコツ女!めちゃかわいい!」


今は、僚の力を借りてないのに、霊が見えた!


至は、真っ青になり再び僚を見

た。


「なっ!本当に美人だろ?」


僚の横顔が、いたずらっぽく笑った。


僚には最初から、ガイコツ女の本当の姿が分かってたんだと至は悟り、再確認するため又窓を見上げた。


しかし…


次の瞬間、もう至には、少女の姿は消え去り見えなかった。


「それと、あの女が他にも言ってた。あの、「おーい」ていう別荘から呼ぶ声は、あの女の父親が自分の子供達を呼んでる声で、この廃別荘に残っている父親の残留思念がやってる事だと…」


僚のその言葉がやはり理解し難くて、至は僚を見て、又眉を顰めた。


「あと…二か月、このままただ静かに平和に、この廃別荘の幕が降りればいいな…」


僚には、まだ美少女が見えるのか?まだ窓を見上げ、僚が呟く。


「なぁ…あの娘、ここがなくなれば、どこ行くんだ?」


至は、なんだか気になった。


「さあなっ!それは俺にもわからん!」


僚は至を見て小首を傾げ、あっけらかんと答えた。


そして、急に明るい口調になり、至の左手を握って言った。


「さっ!至、山降りるぞ!降りてメシでも一緒に食って、積もる話しするぞ!」


「あっ!ああ…うん!」


至は、さっき葵の方にはもう関わるなと言われてただけに、嬉しくて即答した。


だが…


急にその手が離された。


「ごめん…至…今、アホの僚の言ったのは忘れて欲しい…俺達、ここで別れて、二度と会うのよそう…」


至は、話し方や雰囲気から、葵が僚と入れ代わり、葵の体に帰って来たのを察した。


だが、いつも突然で、余りに葵と僚の切り替わりがスパっと見事で、至は又面食らった。





















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