第11話過去

葵の体に憑依している、葵で無く今は僚が、至の耳元で続けて言った。


「さっき、あの女の腕を触った時、視えたんだ、あの女の過去が。多分、昭和の

、日本が1番幸せで穏やかな時代だったんだろうな…この別荘もキレイで、金稼いでそうな父親が、昭和臭のする応接間で新聞読んでて、優しそうな母親がそこに紅茶を持って来てた」


至は、半信半疑で僚をじっと見詰めた。


「あの女は、今と同じ黄色のワンピースを着て、そこでピアノを弾いて、そこから見える庭では、4人もいるぜ、弟や妹だろうな。マルチーズと一緒に駆け回ったり、ボール遊びしたり楽しそうにしてる…」


至は、ふと、今度は黄色いワンピースのガイ骨女を見た。


僚は、更に続ける。


「あの女が死んで、ここに来てここに居るのは、ただ、ここで過ごした日々があの女にとって、生きている間1番幸せだったからだ」


「えっ?!」


「ただそれだけ…別に、人間に害を与えようなんて思ってない。ただ、人間が勝手にここへ来て、勝手に別荘荒らして心霊スポットだの悪霊だの騒ぎ立ててるだけだ。あの女はこの建物が完全に朽ち果てるまで、ただ静かにここに居たい、ただそれだけだ」


至が顔を引きつらせ聞いていると、僚が又美貌に笑みを浮かべ、至の背中や胸をベタベタ触った。


「やっぱ、マジでいい体してんのにビビりだな!」


「だから、体関係ねー!」


至が叫ぶと、やがて、ガイ骨女の姿が消えていく。


「あっ!」


至が驚くと、僚がニヤリとして言った。


「美人とお別れは辛いか?」


「僚!お前なぁ!でも……消えた!」


「ああ…俺が左手を人間の身体に当てればその人間に霊を視せられるけど、長い時間は無理だ」


「えっ?!」


「俺が体を借りてる葵のその日の体力にもよるが…長くて5分がいい所だな…それに今日は、葵の調子がまぁいいから長い方だな」


事も無げにあっけらかんとそう言う僚。


それを聞き至は、思わずさっきまでの恐怖を忘れ、僚に迫るように真剣に聞いた


「葵は、葵は…今、今、どうしてるんだ?」


すると、僚は何故か目を眇め、背の高さから至を暫く黙って見おろしたが…


「……葵もこの体の中にいて、俺と入れ替わっただけでちゃんと意識はある。こうやって喋ってる事もちゃんと聞いてるよ…」


僚は何故か、ふてくされたように言った


「そうか…葵…葵…今、俺の声、聞いてる?」


至は、嬉しそうに言った。


すると…


「てんめぇ…至!今お前を助けてんの…誰か分かってんのかよ!」


葵の両手を使い僚が、至の両頬を左右から思いっきりはさみ上げ、更に上下にずらし変顔にする。


小さい頃、よく僚が至にしていたそのままだ。


決して、葵はこんな事を至にはしなかった。


「いらい!(いたい!)いらい!(いたい!)りょほー!(僚ー!)」


至が叫んだ。


僚はすぐに手を離すと、今度は至の腕を強く掴みクスっと笑って言った。


「さっさとおばちゃん助けに行くぞ!」



























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