第31話 ご機嫌斜めな模様
「──それで、ケヴィンさんのところに引き取られることになりまして。パフって言うんですが、痩せてるけどとても可愛らしい子なんですよ。多分お母様が美味しい食事を与えてるので、すぐ肉付きは良くなると思うんですけど」
「それは良かったわね! ……やだ、兄様ったらこんな天気が良いのに何だか不機嫌ね。昨夜は遅くまで本でも読んでいたのかしら?」
「別に……元々こんな顔だ」
私はここ最近、何となくジュリアン王子のご機嫌が悪いのを感じていた。
彼はほぼ無表情ではあるものの、近頃はたまに笑みも見せていたし、ナイトと会話をする時はとても楽しそうなのは変わらない。だが、また会話も少なくなって来ているし、何が原因なのかさっぱり分からない。
だから彼の好きな猫の話も、興味があるかと思ってなるべく話題にするようにしているのだが、あまり乗って来ない。
せっかく国王が喜ぶぐらい変化の兆しを見せていたのに、何が問題なのだろうか?
「ジュリアン様、何か燻製窯の方でトラブルでも?」
「いや。……ナイトたちの分の鳥肉と、マスの燻製は済んでいるから後で取りに来ると良い」
「いつもありがとうございます、本当に助かります! ……あ、ナイトが今日はお友だちも連れて来てくれるそうですよ」
「そうか」
ほんの少し笑みを見せたジュリアン王子だが、また無表情に戻る。
人生経験の少ない私でも、何か屈託と言うか、心の中に含むものがあるように感じる。
(本当に、どうしたんだろう……何か、嫌なことでもあったのかなあ?)
少しずつでも引きこもりから脱却しそうになっていたのに、何だかまた殻に閉じこもりそうになっている気がする。
ここ二週間ばかり、休みにはケヴィンの家にナイトとパフの様子を見に行っており、心苦しいながらも二度ほどジュリアン王子とニーナ姫の外出の誘いを断っているからかも知れない。
病院で獣医に診てもらったところ膀胱炎のような症状があったらしく、少し具合が悪くて薬を飲んでいたためだ。
「表に出ると感染症なんかももらいやすいって言うから、お友だちが出来ないのは申し訳ないけど、パフは家の中で育てたいの。お医者様がパフは一歳ぐらいだって教えてくれたんだけど、せっかくなら出来るだけ長生きして欲しいもの」
キャスリーンがそう言って果物籠に毛布を敷いたベッドで丸まっているパフを撫でていた。
私もナイトには仕事とは言え、正直どんな危険があるか分からない外で走り回ってて欲しくはないけれど、彼も楽しんでいるし、何より元から世話好きなのか友だち同士の交流にも積極的なのだ。
マメにお風呂で薄めたシャンプーで洗って出来るだけ体を清潔に保つのと、免疫力を強める栄養ある食事、定期的に獣医のところで健康チェックをするぐらいで、今は何も言わないようにしている。ナイトも私が心配だからといって行動を束縛されるのは嫌だろうし。
そんなことをぼんやり考えつつミシェルと朝食の片づけを済ませ、屋敷内の掃除をしていると、ナイトが友だち二匹を連れて現れた。何度か顔を合わせたことのあるブチ猫と茶トラの子たちだ。
『おっすおっすー。トウコも仕事頑張ってるな! こいつら腹が減ってるんだけど、おやつはあるかな? 王子様がまた何かくれねえかな?』
「今日燻製作ってたのくれるって言ってたから、多分大丈夫だと思うよ」
『お、そっか! 良かった良かった。お前ら沢山食っとけよ? 俺だっていつもおやつ持ってる訳じゃないからな』
うにゃん、にゃ、などと返事をしている子たちを見て笑みがこぼれる。ああ癒やされるわあ。
やっぱりジュリアン王子ももう少し外に出る機会を増やさないとダメよね。もうパフも元気になって来たし、ニーナ姫とも相談してまた外出のお誘いをしよう。彼が鬱屈した感じになっているのは、外で気分転換が出来ないストレスかも知れないもんね。
私はそう心にメモすると、ナイトたちとジュリアン王子たちがいるであろう屋敷の裏手の庭へ向かって歩いて行くのだった。
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