頽廃世界のモールス・キュレーション【第一層】
篤永ぎゃ丸
は じ ま り
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(きかせてよ)
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(はいたいせかい の ことを)
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(ぼくと みんなに)
ツ——、ツ。ツツ、ツ——と、シンプルな電子音が響いている。若く伸びた芝生の上に丸まって寝ていた少年は、その音に呼び起こされると、顔を上げた。
(おはよう)
そう声が聞こえてくるが、誰もいない。日差しに包まれながら、少年が辺りを見回すと、頭から声が響いてきた。
(こっち。君が頭にかぶっている兜から、はなしかけてるよ)
声の元は少年の顔をすっぽり半分隠す、三本ツノが特徴的な兜からきているようだ。鋭利で厳つい見た目とは裏腹に、声は幼い。
(ボクの名前は、リガルだよ。君は?)
「……」
少年は口を開くが、何も出てこない。沈黙を直に受けたリガルは、頭蓋骨を反響させるように話しかける。
(うん、名前はまた今度にしよう。そのまま——立ち上がれるかい?)
口は利けないが、リガルの言っている事は理解できるのか、少年はゆっくり立ち上がって、辺りを見回す。眩し過ぎて直視出来ない空の下は、緑色とグレーが混ざり合いながらも反発し合う、奇妙な景色が広がっていた。
ビル、道路、施設、住宅街。信号機、電車——車。見覚えのある文明は、大地に蔓延った
一方で少年の出で立ちは、前時代的な和装。一枚の着物に、腰布を縛っただけ。更に過去を遡る頭の兜と、『現在』を見失いそうになる。
(身体は、動かせるみたいだね)
身体機能を確認したリガルは、安心した様にそう言った。よく見ると、兜の内側から何かのコードが二本引っ張られていて、そのうち一本が少年の頚椎辺りに接続されている。
(そのまま、歩いてみて)
言われた通り、少年は歩き出した。裸足が踏み締める芝生は柔らかいが、その真下は硬いコンクリートに覆われている。しばらく自由に進んでいたが、少年は突如、膝を付いた。ぐぅとお腹が鳴って、目眩がしたのだ。
(それは『空腹状態』って言うんだ。このままだと、君は動けなくなってしまう。目の前に、四角い箱があるのが見えるかい?)
少年はフラフラと立ち上がり、リガルの言われた方向を見ると、明かりが消えた大きめな自動販売機が見える。そのまま少年は歩み寄ってみた。
(これは『イーツボックス』だよ。【電気】を通す事で、動かせるんだ。右手側にぶら下がっている電源コードを繋いでみて)
兜の隙間から、ぶら下がっているコードを少年は掴み、使い方を理解しているかのように、それを自動販売機に繋いだ。するとウィインと動き出して明かりが
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突如自販機から、トン、ツ——。と聞き覚えのある電子音が響く。少年が困惑していると、リガルは優しく説明した。
(これは【モールス】っていう、文字符号だよ。これに応えないと、イーツボックスは使えないんだ。今回は、ボクが使ってみるから聞いててね)
-・・・ ・・《ば》 ・-・《な》 ・-・《な》 ・・-・-《み》 ---・- ・・《ず》
リガルが兜の内側から、符号を電信した。不思議と少年は、その意味を理解する中で、自動販売機はウィインと稼働し、内側が動き出す。
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また電子音がした後、自動販売機の取出し口が開き、中から一本のバナナとペットボトル水が出てきた。少年は、それらを手に取る。
(イーツボックスは、君のお腹を満たしてくれる箱。でも、通信と配達をする為に【電気】が必要なんだ。君の身体は、日差しを浴びると光合成燃料を作る事が出来る。ボクは君の首から電気を分けてもらって、こうして話す事が出来るんだよ)
少年は眩しい空を見つめた。どうやら食糧を確保するにも、モールス符号の通訳をするにも、電気が必要らしい。少年がこの先、生きる為には日差しを浴びて、体内電気を貯めなくてはならない。
(君の右手を見てごらん)
リガルに言われて、少年はバナナを持ってる右手を見た。手の甲に、黒いパドルのようなものが備わっている。頚椎にコードが繋がれていたりと、少年は一部、機械的な身体の作りになっているようだ。
(君もそれを使って自力で、モールス符号を打つ事が出来る。でも今は、分からないだろうから——しばらくは、ボクのサポートが必要だね)
少年は電鍵の使い方が分かるのか、ペットボトル水を持った左手の指で、軽く手の甲のパドルを押してみる。すると、ツ——、トン、トン、ツ——。と電子音が鳴り響いた。しかしリガルの様に、符号の知識度が高く無い為、打ち方はめちゃくちゃだ。
(少しずつ、使える様になるよ。とにかく、先に食事を摂ろう。お腹が膨れたら、この辺りをもう少し歩いてみようね)
廃れた世界の中にいる空腹の少年はバナナを剥くと、はむっとかじり付いた。あっという間に食べ終わり、ペットボトル水もゴキュゴキュと全て飲み干した。
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