安達ヶ原のオニババちゃん
英U-1
第1話ボーイ・ミーツ・オニババ
この物語を読んでいる諸兄は
福島県は二本松市に伝わる「安達ケ原の鬼婆伝説」をご存知であろうか
かつて京の都に住んでいた老女が
面倒を見ていた病弱の姫を救うため、
呪い士の助言を信じ
妊婦のお腹の中にいる赤ん坊の生き胆を
姫に与えようと奥州(現在の福島県二本松市付近)を拠点に
旅人を家に招いては殺害し生き胆を喰らう悪鬼と成り果てたという妖怪伝説である。
始めのうちは正気を保っていた老女だったが
ある日、ついに捕らえて殺した妊婦が
救いたかった姫本人だとわかり発狂してしまい
転じて人を食い殺す化け物へと変貌して
後に僧侶に退治されるまで、人を殺し、食い続けた鬼。
それが安達ケ原の鬼婆伝説と呼ばれる
全国的にはあまり知られていない、そんな悲劇のおとぎ話である...。
*****
シャキン
シャキン
ジョキン!
青年は知り合ったばかりの少女を連れて逃げていた。
少女はその脇腹を鋭利な鋏を突き刺され重傷である。
バツン!!メキメキメキメキゴシャァ!!
彼らは身の丈ほどのサイズのある大きなハサミを振り回す女に追いかけられていた。
そこらの街路樹を切り倒しながら追いかけてくるそれは
まるで朝の特撮番組に登場する怪人のような怪力だった
先ほどまでとっぷりと日も落ち、月明かりの射す閑静な夜道のF市だったはずなのに、
あの女が表れたのと同時に、まるで雲一つないオレンジ色に空が染まり、
住宅やマンションなどの建物は炭で塗りつぶされたかのように真っ黒だった。
最近新築で売り出された建売住宅の落ち着いた紺色の屋根も嘘のように黒く変色している。
それは夢や別の世界に放り込まれたかのような様子だった。
子供の頃にこんな悪夢を見たような気がする。
ここはおそらく異世界と呼ばれる場所なのだろう。
この異世界にはハサミを振り回し追いかけてくる女と、
追いかけられる青年と少女の他に道を走る車も、
普段ならすれ違うであろう町の住人など人っ子ひとり存在しなかった。
まるで始めからそこに居なかったように静かな街並みだけが広がり
彼らが逃げ惑う足音や追いかけてくる女の鋏の音が周囲に響き渡るだけであった。
青年と少女は街道や路地を逃げ惑った末に駅前にあるアミューズメントパークの立体駐車場に逃げ込むことにしたのだった。
酷い話である。
また俺が所属している大学のサークルのH先輩から呼び出されたのだ。
そのおかげで大事なバイトの日だというのに無理を言ってシフトを変わってもらう羽目になった、
俺が所属しているオカルトサークルにはH先輩という女帝が君臨している。
同期のAをいたく気に入っているようで、Aをいろいろな心霊スポットへ引きずりまわしている。
俺はAと親友だと自負しているが
あの冷血動物の気まぐれに付き合う趣味はない。
俺がオカルトサークルに入った理由は
オカルトにドはまりしちゃう系の可愛らしい女子と
「月刊ムー」や「ナックルズ」を元ネタにした
趣味のオカルト談義に花を咲かせてた果てに彼女なんかを作りたかったからだ。
だが我が大学のオカルトサークルには女帝のほかに女子が存在しなかったのである。
なので俺はH先輩の相手は親友のAに任せ
友人のAと仲良くする事に徹することにした。
離脱しようとすればH先輩に殺されるオカルトサークルにおいて
極力空気な存在であろうとする努力家なのだ。
確かに興味こそ尽きないが怨念や幽霊の渦巻くヤバいスポットへ
連日連夜、決死の覚悟で突撃するために入ったわけではない。
だが最近流行りのオカルトサークルである。
可愛いとまではいかないが
女子の一人や二人くらい居てくれても良いではないか。
いやいたんだ。だが居たのは女帝ただ一人だけだった。ただ、それだけの事。
「「来年入ってくれる新入生に期待だな」」
おれはAとそんな話をして気を紛らわすのだった。
そんなミーハーな俺ではあるが
まあAと出かけたりするのは楽しかった。
Aはどうやら取りつかれやすい体質のようで
よく何人か背中にしょい込んでいるがまあ死にはしないだろう。
Aは守護が強すぎるのだ。
ちなみに今日の呼び出しの目的はサークルメンバーでの飲み会である。
珍しく心霊スポット巡り以外のお呼び出しだった。
面倒ではあるがこれには顔を出しておかないとまずい
先日、イト先のTさんから頼まれて直前にシフトを代わった経緯があったので
試しにと相談してみたら心よく快諾してくれた。
お互い様とはいえTさんには今度お礼のお土産でも買っておかなければ。
普段はバイトを理由に深夜の心霊スポット突撃企画に参加しない俺みたいなサークルメンバーは
こういう少ないマシな会合に顔を出しておかなければ
後から親友のAがH先輩に何をされるかわかったもんじゃない
同期組としてさすがにそれは見過ごせないのと
H先輩は酒に極端に弱いのでダウンさせてから帰宅用のタクシーに放り込んで
あとは同期同士でゆっくりと酒を楽しむことにしようという悪知恵だけは働くので
今日くらいはAを労ってやろうと思いつつ、
集合場所であるF駅の付近の居酒屋へと向かっているところだったが
非常に珍しい類の人物が駅前の広場に居るのを見つけた。
俺の目線の先には駅前で紫色の着物を着たコスプレ?少女が体調悪そうに頭を抱えて蹲っていた。
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