裏切者の魔法使い

アマルテア

一章(前) 『魔法師の誕生 編』

NO.1 驚

「この中に裏切り者がいる!!」




三十人程の生徒がいる教室で、教師は言った。


彼の言葉に誰もが一驚した。




「裏切り者は君だ!!」




彼は、『裏切り者』に人差し指を向けてそう言った。


その人差し指の先には……




―『私』がいた






―数日前―


「今は午後五時……かぁ……」


『私』はため息混じりに呟いた。


「あ、『スズ姉』、つかれてる?」


と素直に心配してくれる幼い声が、隣から聞こえてくる。


「そうなんです……疲れてるんです……」


と―本当に疲れているから―短めに返す。


すると、隣の幼い手がこちらに伸びてきて、


『私』を抱きしめた。


「わたしを、まくら代わりに寝てもいい……よ?」


幼い少女は『私』のお腹あたりに顔を埋めながら、そう言った。


『私』は恥ずかしくなって少しうろたえたが、微笑みを隠さずに声をかけた。


「枕代わりじゃなくて、湯たんぽ代わりにしようかな。


『アヤちゃん』も一緒に寝ても……」


寝ても良いんだよと続くはずだった言葉は、


彼女の姿を見たのち、遮さえぎられた。


なぜなら、彼女の方が眠たそうにうとうとしていたから。


アヤちゃんも疲れていたんだなと思いながら、


彼女の頭をいつも通りゆっくりと撫でることにした。




―『私』は鈴菜。


雪谷鈴菜。


私は今、ある部屋のソファに座っている。


『座っている』といっても、現状はソファの横にもたれかかっている状況だ。


そうなってしまったのも、


私を『スズ姉』と呼んだ隣の少女の仕業なのだ。


……だが、不満はない。


むしろ、うれし……コホン。



―私の胸で眠っているこの子の名前は、雪谷菖蒲。


私の実の妹であり、私は『アヤちゃん』と呼んでいる。


私たち姉妹知っている知り合いは、


私たちの事を「シスコン」と言うけれど、


「シスコン」はどういう意味の言葉なんだろう……、


分からない。



―まあ、いっか


そんな事を考えていたら、私も眠たくなってきていた。


(寝てもいいんだけど、今寝たら、


夜に眠れなくなってしまいそうだから、起きていたい……)


「……ふぁ」



― 鈴菜があくびをし終えたすぐあとに、


二人のいる部屋の扉が開かれた。


姉は扉に目を向け、妹は目を覚ました。



「頼まれていた物を持ってきたよ〜」


と若者のような軽い言葉を発して、男性は入室してきた。


そして鈴菜は呆れ気味でこう返答した。


「他の人の前では、そのようなゆるい言葉を発しないようにしてくださいね?


校長ともあろう人が……まったくもう……」


昨日と同じように三人の談笑が始まった。



― いつもの校長室で。

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