第13話 奇妙な生活が始まった。



     〇



 奇妙な生活が始まった。

 花の魔物の彼女が、どこまでずっとついてくる。

 複数用意している拠点のすべてに、彼女が現れた。

 全く違う場所に逃げても、すぐに見つけられる。

 思わず訪ねた、どうやって俺の場所を見つけているのかと。

 彼女は根っこ達を見せた。

 どこまでもに伸び続け、どんな土や石でもつらぬく力強さをほこる根っこ達は、俺の歩く振動を正しく察知するようだった。

 つまるところ、俺は空を飛び続けなければ、彼女から逃げられないらしい。

 残念ながら俺は鳥ではなくゴブリンなので諦めた。

 近くにいることを許可する代わりに俺の鍛錬の邪魔だけはしないでほしい、と約束した。

 伝わっているかどうかはわからないが、彼女は笑顔で答えた。

 今のところ、邪魔はしない。


 訓練中の間だけは。


 訓練が終わればすぐに姿を現して、なんというか、甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれるようになった。

 冒険者が遺したかぶとなべの代わりにして、お湯を用意してくれていたり、簡単ではあるが調理された食事が提供されていたり、寝床が毎日清潔だったりと、なんというか、とても生活感のあふれる生き方になった気がする。

 一度、強く断ってみたことがあった。

 泣かれた。

 何とも言えない気持ちになり、何より、ものすごく胸が痛んだので、以降は彼女がしたいままにさせるようにした。

 俺は、戸惑いながらも、この生活を受け入れつつあった。

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