Episode2 私のお店は……(3)
ゲベルクさんの
ここは予算の関係で、顔合わせのみ。注文はせずに次の目的地、雑貨屋へ。
「この村で店といえば、この雑貨屋だけだね。
そこは、他の民家の二倍ぐらいはありそうな大きな建物。
居住部分は他と変わらないと思うので、
私のお店は、店舗スペースを
「こんにちは~」
ゲベルクさんの所などとは
再びさっさと中に入るエルズさんに続き、私も
短めに切った
「いらっしゃいませー。あ、エルズさん。こんにちは! お買い物ですか?」
「いや、この
「サラサと言います。錬金術のお店を開店するので、今後ともよろしくお願いします」
エルズさんに押し出されるようにして、私は前に出て自己
「あ、はい! ロレアです。お願いします! ……ほえー、都会っ子だぁ」
「え? 都会っ子?」
私のどこが?
周りに比べれば、私なんてイモですよ?
勉強に
「あ、いや、その……服とか、仕草とか、このへんの子とは違うし……?」
「そう、なの?」
確かにこの服は、
先輩たちは、あまりに
私の
仕草とかは……
「いや、だって! この村だと基本手作りだし、もう、着られたらいいや、みたいなのが多いから!」
「え? でも、ロレアさんの服は、王都でも
むしろ、ちょっとオシャレな部類に入ると思う。
王都にも『着られれば良い』という人は
「王都! 王・都! すごい、
「う、うん……」
キラキラした
都会……いや、まあ、この村と比べたらそうなるけど、そこまで
王都でも
「ほらほら、ロレア、仕事しな。サラサちゃんは買い物に来たんだから」
「あ、うん。そうだね! 何が必要? 私
「えっと、良いんですか?」
「うん、そんなには値引きできないけど、ちょっとしたおまけぐらいなら?」
「ありがとうございます。なら、大きめのタライと布団、あと食料品をいくつかお願いできますか?」
「タライはこのあたりですね。木製の方が少し安いですよ」
そう言って指さしたところには、
金属板を加工して作った物と木製の物。どちらも出来は悪くない。
これらをゲベルクさんとジズドさんが作ったのなら、
「布団は置いてないから、受注生産……って言っても、近所のおばさんたちが作るだけだから、できるなら自分で作っても良いかも。材料は売ってるから」
なるほど。こういった村だと基本は自分で作るのかな?
ちなみに私も作れます。
学校の
布団を作ったのはその一回だけだけど、
理由は解るよね? 色々と、限界まで補修して使ってたからだよ。
「食料品は──普段の食事だよね? 採集者向けの保存食はそれなりに
「ああ、それはアタシがやるよ。サラサちゃんもこの街に住むんだから、顔
あ、このへんは田舎っぽい。
王都だと食料品はお店で買う物で、生産者に直接
何で店に置いてないのかと
頼んだら必要な量を収穫してきて、分けてくれるらしい。
「そうですね。時間がある時で構いませんので、お願いします」
まだ、料理できる状態じゃないしね。
ただ、持ち歩くのは大変なので、
「さて、これで
「ま、何か買い忘れがあればいつでも来てよ! 夜中じゃ無ければいつでも対応するから!」
おおぉ、さすがは田舎。
王都だと時間を過ぎたら対応してくれないよ?
「ありがとうございます。困ったときにはお願いしますね」
ウチの台所は料理を作れる状態じゃないので、これを知らないと
「この村には一軒しか無いが、それなりに
「はい! あ、エルズさんも一緒にお昼、どうです? 案内のお礼に
そろそろ昼食の時間だし、お世話になったらお礼は必要、と
うん、痛いです。
「はっはっは、娘ぐらいの
「え!? そんな、案内してもらった上に、そこまでしてもらうわけには……」
「若い子がそんなこと気にするんじゃないよ! おばちゃん、太っ腹だから!」
そう言って、ポンとお
確かにちょっと太……いやいや、もちろん
エルズさんに案内されたのは、宿屋
こんな村には
中に入ると、食堂で数組の採集者らしき人たちが食事をしている。
今の時間帯なら大樹海に入っている人たちもいるだろうし、これなら私の商売もそれなりに
「ディラル、食べに来たよ!」
「おや、エルズ? 昼間から来るのは
エルズさんの声に
ニコニコと快活そうで、体格もエルズさん以上に福々しい。
「ディラル、
「エルズには
あっはっは、と笑いながら
う~む、この村のおばさんたちのコミュニケーションなんだろうか? あの〝バシバシ〟は。
「それでどうしたい? さすがに昼間っから酒を
「ああ。このお嬢ちゃんは
「あ、あの、サラサと言います。この村でお店を開きますので、よろしくお願いします!」
そう言われてエルズさんに前に押し出された私は、
「へぇ、その若さで店を構えるのかい!? スゴいねぇ。あたしゃ、この宿の
「はい、今、ウチは料理できる状態じゃないので、しばらくはお世話になると思います」
「ああ、引っ
「あ、ありがとうございます」
正直奢りは
「おや、ディラル、悪いねぇ」
「エルズ、アンタはちゃんと
「なんだい、けち
「あの、やっぱり案内のお礼に私が……」
「ほら、こんなお嬢ちゃんに気を
私が
それを見て、ディラルさんが舌打ちをした。
「ちっ、仕方ないねぇ。アンタもタダでいいさね」
「えっと、大丈夫ですか?」
感謝はしてても、
私が少し困った顔で二人の顔を
「気にするこたないよ。エルズとは
「アタシたちのこれは、じゃれ合いみたいなもんさ。悪いね、気を遣わせちまって」
「いえ、それなら
エルズさんの旦那さんは
その時、オマケしてあげることもあり、互いに持ちつ持たれつの関係で、この程度の言い合いは気の置けない仲のコミュニケーションみたいなもの、なんだとか。
う~ん、解らない!
やっぱり人付き合いに慣れてないからかなぁ?
「お嬢ちゃんは何か苦手な物はあるかい?」
「いいえ、特には。……今まで食べたことのある物に関してはですが」
話に聞く限り、世の中にはとんでもなく臭い物やら、
「なら大丈夫だ。ここは採集者を相手にしてるからね。出す料理には
なるほど、それなら……ん? 出す料理には?
「この村、何か変わった郷土料理があるんですか?」
「ん? 郷土料理ってほどの物じゃないね。
うげっ! それは無理っ!
死にかけレベルで飢えてないと!
「あっはっはっは。心配しなくても、ウチじゃ出してないし、村人でも食べるのは一部の物好きさね!」
「そ、そうなんですか……」
良かった。
料理を食べたあとで『実は入ってた』とか知らされると、
「でも、アレなんかは人を選ぶんじゃないかい? ほら、
「あぁ、アレかい。好きな人は好きだから出しちゃいるが、
「──?」
やや
不作時の非常食として作られているのだが、この村の人でもそのまま食べるのは厳しい
しかし、その酸味と
エルズさんもディラルさんも『全くお
むしろ来ないでください。
「ま、普通のオススメ料理を持ってくるさ。ちょいと待っとくれ!」
そう言って
「ウチの昼は大体こんな感じだね。今日は奢りだけど、普段はこれで四〇レア。気に入ったら贔屓にしておくれ!」
「ありがとうございます。ごちそうになります」
並べられたのは、肉の細切れと豆を
良い
ここしばらくは旅の空で、
「気に入ったようだね?」
「はい! 美味しいです!」
「そいつは良かった! ゆっくりしていっとくれ」
ディラルさんは再び私の肩をパンパンと叩き、呵々と笑い声を上げて仕事に戻る。
うん、いい人なんだけど、激しいボディタッチはちょっと
私、勉強しかしてこなかった、もやしっ子だから。
「すまないね、がさつな女で。こんな村には、お嬢ちゃんみたいな細っこい
あ、顔に出ちゃったかな?
「いえいえ。良い人なのは解りますから。──エルズさんはここによく来るんですか?」
「ん? 昼間はたまに来る程度かね。ウチは
「あの、お子さんは?」
「娘が二人、
「そう、なんですか……」
こ、こういうとき、なんて返せば良いの!?
人生経験の少ない私では、言葉が出ないよ!
「あぁ、気にするこたないよ。普通に元気にやってるし、たまにはこの村にも商売で来るからね。それなりに
良かった。
ちょっと遠い目をしてたから、てっきり音信不通とか、そういう事を想像しちゃった。
「さて、小さい村だから主なとこは回っちまったが……昼を食べ終わったら、村長にも
「あっ! 必要ですよね! ご
「あっはっは、そりゃそうだ! 王都のてっぺんは王様じゃないか。挨拶に行くわけもないねぇ!」
おかしそうに笑うエルズさんに、私も
王都だと引っ越してきて挨拶するにしても、せいぜい
だから、すっかり頭から
王国の法で引っ越しは自由に認められてるけど、こういう村で上役の心証を害すると生活していけるわけない。
危なかった! 文字通り村八分にされるところだったよっ!
エルズさん、ありがとう!
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