第37話
「あっ・・ちょっと、今日はそういう目的で来た訳じゃないでしょ?」
呼吸を乱し始めたアリサが、形だけの抗議をしてくる。
「普段と違う恋人の姿、しかもそんなエロいビキニ姿を見て、興奮しない男なんていない」
「し・・しつれい・・ね。
普通の・・水着じゃ・・な・・い」
漏れ出る声を我慢しようとするせいか、息が荒く、忙しなくなる彼女を更に攻め立てる。
「お前は存在自体が既にエロいんだ。
こんな恰好をすれば、俺に襲われても仕方ない」
「ば・・か。
後で・・お・ぼえ・て・・なさい」
波の音を聞きながら、潮の満ち引きに合わせて彼女を攻め立てる。
一息吐いたのは、それから約2時間後だった。
「本当にもう、見境ないんだから。
『僕は性欲を抑え切れない駄目な人です』
そう書かれた、即席で作ったプラカード(本来は、『アークの海の家』と書くつもりだった)を持たされながら、アリサの手料理を待つ俺。
【飛行】を用いて大陸の海岸を物色し、景色と水質の両方に優れた浜辺を探し当て、その近隣の土地に別荘用として購入した家を置いて、そこで着替えた俺達は、泳ぎもしないで浜辺で事に及んだ訳である。
「【異空間操作】を使って結界を張ったから、他人からは見ることができなかったよ。
俺がお前の裸を
「海で泳ぎたかったのに・・」
「なら食後に水中を散歩しよう。
【潜水】を使えば、俺の側に居る限り、お前も一緒に歩けるぜ?」
「あら、それは楽しそうかも。
じゃあそれで許してあげる」
お許しが出たので、掲げていたプラカードを降ろす。
「海に行くから、魚は現地調達しようと思って市場で仕入れてないの。
だから今晩のメニューはカレーね」
肉がゴロゴロ入った、辛口のカレーが出される。
「おお、美味そう」
「御代わりあるから、沢山食べてね」
「・・・」
「・・何よ?」
エプロンを外して席に着いたアリサをじっと見た俺に、彼女が訝しんでそう尋ねる。
「明日はビキニエプロンではなく、裸エプロンにしてくれ」
「馬鹿!」
たはは、怒られてしまった。
男の夢なのに。
海中散歩は非常に有意義だった。
2、3キロ歩いただけなのに、海底ダンジョンを1つ見つけることができた。
明日の夕方には帰らねばならぬので、中に入って中級ダンジョンであることを確認し、56階層のボスを倒してお宝を回収しただけで、後は素通りした。
因みに、魔界では、水中ダンジョンには2種類あって、ダンジョン内でも水がある物とない物に分かれる。
ここは内部に海水は存在しなかった。
もし在れば、【魔物図鑑】からマーメイドを呼ぼうと思っていたのに残念である。
翌朝、ある程度深い所まで【潜水】で潜った俺が、そこで【サンダー】を連発し、美味そうに見える大型の魚を数十匹ほど仕入れる。
その内の1匹をアリサに調理して貰い、朝食として頂く。
魔界では魚を平気で生で食べるが、こちらではほとんど火を通す。
俺用に刺身として出して貰ったが、活きが良いだけにとても美味かった。
「上級ダンジョンに入る王族なんて、今は僕くらいじゃないかな。
楽しくてわくわくするよ」
「中級の1階層でビビってた奴が、随分成長したものだ」
「アークさん、それは言わない約束で・・」
「今更サリーに取り繕っても意味ないだろ。
なあ?」
「ええ。
たとえケイン様のどんなお姿を拝見しようと、私の気持ちは変わりませんから」
「サリー・・」
「おい、ピンク色の雰囲気を醸し出すのは帰ってからにしろ。
今日は2階層まで進むからな」
「「はい」」
「良い所じゃない。
しかもちゃんと家まで建ててあるし」
「アークさん、ありがとうございます」
「ご主人様の為に、際どい水着をご用意しました」
「奇麗な海ですね。
風が気持ち良い」
定例会のために連れて来たカレン達が、其々満足げに言葉を漏らす。
この日のために、予め近海に棲む危険な魔物は狩り尽くしてあるので、彼女達は安心して海と戯れることができるだろう。
別荘の部屋で着替えを済ませた4人は、走れば10秒も掛からない砂浜で、準備運動を始める。
皆が大きな胸を揺らしながら身体を解すその傍で、俺はビーチパラソルと人数分のデッキチェアー、テーブルを用意する。
「アークも一緒に泳ぐでしょ?」
「いや、俺は良い」
「私達の水着姿は、あとで存分に堪能させてあげるよ?」
「そういう意味じゃない。
下調べの時に、大分潜ったからもう十分なんだ」
「折角水のかけ合いをして遊びたかったのに・・」
「お前とじゃ、遊びじゃなくて戦争になるだろ」
「フフフッ、じゃあそれは夕方まで取っておくね」
「?
時に、その水着は自分で選んだのか?」
カレンは、真っ白で品のあるビキニを着ている。
「そうだよ?
私、白が好きだからね」
「似合ってる」
「ありがとう!」
眩しい笑顔を残して海に入って行く。
「アークさん、私はどうですか?」
ベージュのビキニを身に付けたニナが、俺の前で視線を逸らしながら尋ねてくる。
「ニナにはそういう落ち着いた色が合う。
少し大人の色気が出てて良いぞ」
「ありがとうございます。
私は泳げないので、浅瀬で波と戯れてきますね」
ゆっくりと歩いて行くその姿、特にお尻のラインが非常にそそる。
「ご主人様、私はどうですか?」
「お前のは色気があり過ぎ。
その歳でそんな水着を着てる奴なんて、他にいないと思うぞ」
ワインレッドのビキニの、その股間に当たる部分は、かなりの切れ込みを見せている。
尻や太股にも、無駄のない、しなやかな肉が付いているからこそ穿けるビキニパンツ。
貧相な下半身では、かえって下品にすら見えてしまう代物だ。
「他の男性には見せない姿ですから・・」
「それとな、人前で俺をご主人様と呼ぶのは止めてくれ。
変に誤解されてしまうから」
「だって事実ですし。
私を女にして、私に貞操を強いて、あまつさえその陰に隠れさせる人。
私はアークさんが死ぬまでずっと、事実上あなた1人だけの女ですから」
「それはお前の固有能力のせいであって、俺がそうしてる訳では・・」
「私からは逃げられませんよ?」
「いいや、逃げ切ってみせる」
「・・死にます」
「駄目、絶対!」
「フフッ、半分は冗談です」
振り返って、ニナ達の方に歩いて行くモカ。
それって、一体どっちの半分なんだ?
怖くて聴けなかった。
「気持ち良かった。
・・奇麗な海ですね」
既に少し泳いだらしいエミが、海水に濡れた髪をかき上げながら、デッキチェアーに置いてあるタオルに手を伸ばす。
「何か飲むか?」
「アルコール以外の物がありましたら、それを・・」
屋台で大量に仕入れておいた、果物ジュースを差し出す。
「ありがとうございます。
・・アークさんがベルダで仲良くされてる彼女は、今日は連れて来ていないんですね。
私達に遠慮したのですか?」
グリーンのビキニが眩しいエミが、そう言って微笑む。
「そういう訳じゃない」
「今年の対校戦で、その彼女が個人戦に出て来ると理事長からお聞きしました。
優勝できる力があるとも」
「まあ、今は俺と2人だけでダンジョンに潜っているからな。
必然的にそうなる。
ただ、平日だけで、カレン達の時のように休日にもダンジョンツアーをしている訳じゃないから、あそこまで強くはならないだろう。
もしカレンが出てくれば、今年は簡単に負ける」
「私も今は、学院の特別顧問として、選んだ生徒達を5つのパーティーに分けて、其々週に1回ずつ鍛えているんです。
中級の1階層から始めてますし、週1ですから、そんなに強くはなりませんが、それでもその後に自分達で進んでいける基礎作りにはなってます。
1年後に、レベル30を目安に、皆で頑張っているんですよ?」
「良い考えだ。
突出した生徒を数名生むより、ずっと学院のためになるだろう」
「数人に絞ると、選ばれなかった生徒達のやる気が低下しますからね。
皆である程度強くなれば、もっと強くなりたい人は、そこから更に努力できますから」
「だがそれだけでは、君自身の経験値は上がらないんじゃないか?
俺が作った臨時パーティーのメンバー達とは、今は別行動なんだろう?」
彼女のステータスを覗きながら、そう尋ねる。
「それは仕方ありません。
今の私は、教える方の立場ですから・・」
「・・月に1度、4時間くらいだが、俺と2人だけで上級に潜るか?」
「良いんですか!?」
「そのくらいなら時間を作れる。
上級の20階層辺りから始めれば、2人だと、月1でも相当レベルが上がるからな。
ただし、他言無用な。
カレン達にも内緒だぞ?」
「はい!
・・ありがとうございます」
またしても、自分から新たな柵を作ってしまった。
魔界での経験があるから、結局は懐いてくれる相手に冷たくし切れない。
まあ、そんな自分が嫌いではないがな。
「さて、泳ぎも堪能したし、この後は定例会本来の趣旨に戻りましょ」
夕方近くになって、カレンがそんな事を言い出す。
「そうですね。
もう十分、海を楽しめましたから」
「待ってました」
「・・お前達、一体何を言ってるんだ?」
恐る恐る、カレン達3人の顔を順に見ていく。
「何って、いつものやつに決まってるでしょ。
ここからの時間は、お・と・な・の・お時間」
「海で遊ぶだけじゃなかったのか!?」
「そんな訳ないでしょ?
若い女性達に、1か月も”おあずけ”をさせてるんだよ?」
カレンが獰猛な笑みを見せる。
「最近、色んな方から交際の申し込みをされて疲れてるんです。
アークさんが側に居てくれないからなんですよ?」
ニナがそう言って拗ねる。
「(愛の)奴隷を満足させるのも、主人の務めです」
「だから表現に気を付けろって!」
俺は助けを求めてエミの顔を見る。
「・・諦めてください」
申し訳なさそうに、視線を逸らされる。
「明日の座学は医務室で居眠りするから、当然朝までね」
カレンに平然とそう言われる。
これじゃあ、海で接待しただけ損じゃないか。
・・まあ、彼女達の水着が見れたから良いかな。
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