第26話
「寂しくなりますね。
できればずっと居て欲しいのですが・・」
「最初に色々やらかしたせいで、こちらが考えていたものとは大分違う学院生活になってしまったし、カレン達はもう十分一人立ちできる
この辺りが潮時だろうと思う」
「彼女達には既に伝えてあるのですか?」
「俺からは知らせずに出て行くつもりだ。
言えば必ず付いて来ようとするからな」
「それはさすがに不味いのでは・・」
「そこで、友人でもある理事長に頼みたい。
これを彼女達に渡して欲しいんだ」
其々に白金貨3枚ずつが入った、3通の手紙をテーブルに載せる。
「・・嫌な役目ですね」
彼女が溜息を吐く。
「良い知らせもあるぞ。
エミは卒業後、学院の実技教師になりたいと言っている。
この学院で、後進を育てていきたいそうだ」
「本当ですか!?」
「ああ。
それに彼女はカレン達同様、俺の特別な友人でもあるから、月に1度くらい、俺は彼女に会いに来る。
どういうものかは内緒だが、彼女は俺への連絡手段も持っているから、ここで雇い入れた方がお得だぞ?」
「特別顧問として必ず採用しますよ。
願ってもない事です」
「最後に、これまで散々便宜を図って貰った理事長に、俺から個人的な寄付をしておくよ。
学院経営も安定してきただろうし、これからは私生活にも少しくらい金を使った方が良いと思うぞ?
そのローブ、袖が解れ始めているだろ?」
白金貨20枚をテーブルに積んだ。
「・・こんなに沢山」
「ここに入れて嬉しかったよ。
ごみ共を排除した後は快適な生活だったし、何より人と繋がれた。
カレンやニナ、モカにエミ達。
口には出さなかったが、一緒にダンジョンに潜ってる時間は楽しかった。
これでも理事長にはちゃんと感謝してるんだ」
「私の方こそ、助けていただいてばかりだったのに・・」
「そんな訳だから、カレン達に宜しく伝えておいてくれ」
理事長と固く握手した俺は、彼女に見送られて部屋から転移した。
「宿の主人には挨拶してきたし、屋台やお店で美味しそうな惣菜や食料を買いだめしてきたわよ」
「助かる。
俺達には既に嗜好品でしかないが、やはり食事は楽しいからな」
「当たり前よ。
いつもいつもあなたの精液だけなんて、私嫌だからね。
ちゃんと美味しい物食べたいし」
「ベッドで漏らす言葉と違うな。
おねだりしてくるのは誰だったかな」
「~ッ。
偶にでしょ!」
「・・まあ、そういう事にしておくよ。
それより、これから何処に行く?
行きたい場所あるか?」
「そうねえ、この国の上級ダンジョンのボスは全部倒したし、次は隣のベルダ王国にする?
あそこも大きな国だから、ダンジョンは沢山あるわよ?」
「ベルダか。
ウルスの学院ではかなり見下されたから、あまり良い印象はないが、入学試験で遊んでやるのも面白いかもな」
「フフフッ、結構根に持つのね。
でもあまり虐めちゃ駄目よ?
それでなくてもあそこの学院は、カレン達に対校戦で散々な目に遭わされて、今回は最下位だったんだから」
「随分弱かったよなー、あいつら。
最高でレベル47しかいなかったもんな」
「普通は皆それくらいなのよ。
あなたのせいで、カレン達が異常だっただけ」
「そう言えば、理事長から聴いたが、アリサは対校戦に出なかったんだな」
「だってつまらないんだもの。
おまけに選手だと、賭けにも参加できないし」
「欲望に忠実な奴め」
「アークには言われたくないわ。
たった1年弱で、何人もの乙女を毒牙にかけて。
おまけに、余計な柵まで作ってるし・・」
「済みません」
「そんなに未練があったのなら、やせ我慢しないで全員眷族にしてしまえば良かったのに」
「そこはほら、アリサに
「やることやってれば同じでしょ。
私は別に、自分の分さえ減らなければ、何人いても気にしないわよ?」
「・・・」
「何よ」
「お前ってさ、男を甘やかす天才だよな」
「それ褒めてるのよね?
・・まあ、惚れた弱みかしらね。
私としては、あなたが幸せならそれで良いから」
「さっさと家を置く場所を決めよう。
今夜は寝かさないぞ」
「フフッ、望むところだわ」
「ん?
・・アリサ、少し止まってくれ」
「どうしたの?」
【飛行】と【フライ】で移動中に、武装した集団がミラン王国の方に向かっているのを見つける。
「あれ、ベルダの兵だよな。
終戦協定が結ばれたのに、どうしてこんな所を移動してるんだ?」
「確かに変ね。
ただ、正規兵にしては装備がばらばらだわ。
まるで寄せ集めみたい」
「ちょっと確認してみるか。
アリサは上空で待機していてくれ」
俺は仮面を付けると、地上に降りて行った。
「良いか、村や町に着いたら、住民は皆殺しにしてでも金と食料を奪え!
そうしなければ俺達が飢えるからな!
・・全く、幾ら財政が苦しいからって、大した金も寄越さず俺達をクビにしやがって。
戦争なんだから、ちょっとくらい住民達で遊んだって良いじゃねえかよ。
今まで散々汚れ仕事を引き受けてやってたのによ」
「隊長、女は自由にしても良いんですよね?」
「構わんが、やるだけやったらさっさと殺せよ?
残すのは極上の女だけだぞ?」
「分ってますよ。
うちの隊は、肉便器がないと戦場で殺意を抑えるのが大変な奴らばかりですからね。
へへへ」
その場に居る30人以上の男共が、一様に下卑た笑いを漏らす。
「ん?
・・隊長、空から変な奴が近付いて来ます!」
「撃ち落とせ。
【フライ】が使えるくらいなら、結構金を持ってるはずだ」
兵達が、魔法や弓を用いて一斉に攻撃を開始するが、向かって来る奴には全く効いていない。
「駄目です!
全て弾かれてます!」
「何でも良いから殺せ!
所詮1人だ!」
「・・話も聴かずにいきなり攻撃かよ。
会話自体も酷い内容だったしな。
さっさと掃除するか」
俺は地面に降り立つと、何か喚いている相手を無視して言葉を発した。
「開け我が【魔物図鑑】よ。
目の前の敵を蹂躙せよ。
・・ん、何だ、立候補か?
はっはは、良いぞ。
出でよ、ラミア。
サキュバス」
手元に現れた漆黒の書物が輝く。
そのページがひとりでにパラパラと捲れ、そこから黒い羽と尻尾を生やした美しい女性と、上半身は若い女性だが、下半身は蛇である魔物が現れる。
「・・スライムも呼んどくか。
あの状態の死体を多数残しておくと、見つけた奴のトラウマになりそうだしな」
目の前で行われている殺戮を見ながら、ウンディーネも序でに召喚する。
全身に真っ赤な血を浴びたサキュバスが先に戻って来て、ウンディーネにその穢れを洗い流して貰い、俺に流し目を送りながら書物に戻って行く。
ラミアの方は、暫く殺した奴らの内臓を貪っていたが、やがて満足すると、やはりウンディーネに全身を洗い流されてから書物に消えて行った。
そのウンディーネにご褒美の魔石を与えると、俺を抱き締めるようにしてから戻って行く。
最後に、兵達の死体を掃除したスライムが側にやって来て、数百枚の銀貨や銅貨と、売れそうな装備を吐き出してから、俺に撫でろと身を震わせる。
「・・随分えげつない殺され方をしてたわね。
彼ら、それほどの悪党だったの?」
アリサが空から降りて来て、スライムを撫でながら尋ねてくる。
「【魔物図鑑】の中にいる眷族達は、起きていれば、俺と意識や感情が繋がっていることが多いんだ。
長い時間を掛けて、俺の性格や考えに徐々に染まっていくから、段々俺と行動や考え方が似てくる。
俺が聴いていた敵の会話が、彼女達にも聞こえていたのかもな」
「そんなに酷い内容だったの?」
「口にしたくはないくらいにな。
・・世の大半の女性は、俺にとっては愛でるものであり、蔑み、凌辱するような存在ではない。
愛を与え、愛情を与えられる掛け替えの無い存在なのだ。
そんな思いが、彼女達にも伝わっていたのかもしれない」
「・・初めて抱かれた時を除けば、あなたの手、いつもとても優しいものね。
荒々しい時も偶にあるけど、そういう時でも、その瞳で愛が伝わってくるから」
「ベッドの中以外で、そういう事言うの禁止な?
俺のワイルドなイメージが壊れる」
「・・ワイルドねえ。
やんちゃの間違いじゃないの?」
「子供扱いするなよ。
俺の利かん坊(棒)で泣かすぞ?」
「どうぞ?
私の
暫し見つめ合う。
「・・早く家の場所を探すか」
「そうね」
2人でまた上空に飛び立った。
「何よこれ!!
あいつ、私に手を出しておきながら、逃げたわね!?」
理事長から渡された短い文面の手紙を読み終え、カレンさんは同封されていた白金貨を壁に叩きつけようとして、思い止まる。
「・・ま、お金に罪はないわよね」
アイテムボックスの中に大事に終う。
「・・アークさん、置いて行くなんて酷いです」
「フフフッ、ご主人様、放置プレイですか?
私はあなたの影。
逃げようとしても無駄なのに」
ニナが泣き、モカが感情の消えた目で笑う。
「今度会ったら只じゃおかないから!
1週間は部屋から出さないからね!」
「干からびるまで搾り取ってやります」
「私達も体力付けないとなりませんね」
騒ぐ3人を見ながら、私は努めて穏やかに切り出した。
「アークさんは、私達を見捨てるようなことはしません。
月に1度くらい、ちゃんと会いに来てくれると約束しました」
「・・あなたもなのね。
まあ、時間の問題だとは思っていたけれど」
「私、卒業したらこの学院で働くんですよ。
なのでそれを機に一人暮らしをするつもりだったのですが、カレンさん、どうせなら私と一緒に住みませんか?
いつまでも寮暮らしだと、何かと不便でしょう?」
「私も一緒で良いですか?」
ニナさんがそう言ってくる。
「私もお願いします」
モカさんもそれに同調する。
「なら皆で家を買いましょうよ。
大きな家を買って、彼が会いに来たら、そこを宿の代わりに使いましょう」
カレンさんがそう言うと、他の2人も賛成する。
「あなた達4人に関しては、彼から聴いて知っていましたが、最近の学生は皆こうなのですか?
少々心配ですね」
黙って様子を眺めていた理事長が、カレン達の明け透けな会話を耳にして、額に手を当てながら嘆いている。
「きっと、私達が特別なんだと思います。
あんな人に出会ったら、使えるものは何でも使って繫ぎ止めないといけないですから」
カレンが嬉しそうに笑う。
「2人といない人ですから」
「彼以上の存在なんて何処にもいません」
さっきまで激怒していたのに、もう彼を誉めてる。
良かったですね、アークさん。
あなた、皆にしっかりと愛されてますよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます