死神の安楽死
うららか山脈
第1話
人を楽しいと思った。人が好きだと思った。だから、死のう。
人口千人にも満たない孤島の山の奥の奥の奥、誰からも見捨てられたボロボロの一軒家で今日3杯目の紅茶を飲んでいた。
死神である僕が人に死を与えなくなってから358日が経過している。人に死を与えること、奪った寿命分をいただくのが死神の使命であり本分だ。でも、そういうのはもうどうでもいいんだ。だって僕は、人を好きになってしまったんだ。
このまま人に死を与えなければ僕は死ぬ。でも死を与えるのは”彼”で最後と決めたんだ。
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少しの間一緒に住んでいた”彼”は素晴らしい芸術家だった。文書も絵も、短い映画なんかも撮っててマルチに活躍する彼のことを尊敬していた。今の惰性で生きてる腐った連中しかいない死神たちよりよっぽど魅力的だ。
そんな”彼”も病には勝てなかった。基本的に死なない死神と違って人間は欠陥が多いけど、”彼”ほどの才能をこんな簡単に手放す世界を呪った。
余命あと一年、病で寝たきり老人みたいになった”彼”がこんなことを言った。
「なあ、最後はやっぱお前に殺されたいよ。意味わからん病気なんかより、お前に殺されたい」
「うん、わかった、僕もすぐ死ぬから、先に逝ってて」
こうして僕は”彼”の死を迎えた。
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人に死を与えるのは食事に似ている。今は人間で言うところの絶食状態で、食べたくて食べたくてたまらない。紅茶と、一日一つまでと自分で決めたリンゴを齧って飢餓感を誤魔化し、人里から離れ、ゆっくりと自分の死を迎えている。
このままなら死ねる。このまま平穏に……
「はいどうも~~~~廃墟探索系youtuberのパッティで~~~~す!今日は一部で話題の心霊スポット、赤ヶ島の山奥の豪華一軒家に来てま~~~~す!!そして!!なんて今回はコラボ企画になってます!!!ホラー系youtberのドレットピースフルさんです!!!!」
「こんにちドロドロ~~~~ドレットピースフルです。今日はパッティさんとのコラボ企画ということで、なんでも例のアレ、でちゃうと地元の人の間で噂になってる一軒家に来ました!いや~おっきいお屋敷ですね」
「よ~~~しじゃあテンションあげちゃおうか、いや~~~雰囲気でてこわーい!ヤミー!感謝!感謝!またいっぱい怖がりたいなデリシャ!!シャ!!シャ!!シャ!!シャ!!シャ!!シャッ!!ハッピースマイル!!」
……逃げないと。逃げないと”食ってしまう”。こんなyoutberを”食って”寿命が伸びでしまうなんて、絶対に嫌だ!あと7日間をこの屋敷でやり過ごせば、安楽死できるんだから。
死を迎えるための隠れんぼが始まった。
死神の安楽死 うららか山脈 @fytellrow
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